[ STE Relay Column : Narratives 112]
天野 達郎 「科学技術とアントレプレナーシップ (STE)を核とした学び・取組の拡張」

天野 達郎 / 早稲田大学大学院経営管理研究科 / 三井物産株式会社

[プロフィール]大阪府堺市出身。大阪大学工学部産業機械工学科卒業後、三井物産入社。以後、インフラ、モビリティ部門に所属し、本店、イタリア三井物産、ドイツ三井物産での海外駐在、米Wharton Schoolへの短期派遣、CFO部門(社内出向)、業務部で、企画、物流業務、プロジェクト開発、事業投資、M&A、事業運営等に従事し、出資先企業の社外取締役を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科(WBS)夜間主総合M2では戦略構想力ゼミ(淺羽先生)に所属しゼミ長を務める。妻と 娘 2人の4人家族。趣味は旅行、スポーツ観戦、読書と不動産。宅建士、AFP、認定心理士。

 

 皆さま、こんにちは。今回は牧さんから、今年2020年春Qの「科学技術とアントレプレナーシップ(STE)」受講と、お手伝いさせて戴いている「地域イノベーションとエコシステム」の取組について、Relay Columnで書いてみないかとお声掛けを戴いた。
 私の牧さんとの出会いは、昨年7月頃にWBS生の聖地?高級中華料理店!「佳里福」でお話させて戴いたのが最初である。その後、何度も御一緒する機会あったが、講義を受講したのは以外にも今回のSTEが初めてであった。それを含めて自分でも不思議に思いながら、どうしてWBSに来たんだっけ?なぜSTEを受講したんだっけ?と振り返りながら、恥ずかしながら進まぬ筆で纏めてみた。

【WBSへの興味】
 WBSへの志望理由として、多様な背景を持つ教員が在籍し、そこに様々な業界の志高い学生が集まり、2年間切磋琢磨する環境であり、その環境で、私自身が、体系的に「理論」を学ぶと共に私自身の経験を教員や学生と共有し徹底的な「議論」により、私が「戦略的経営人材」となる鍛錬の場であると期待する、と面接で応えた様に記憶する。
 でも、実態は大学時代に卒業単位はギリギリ、研究室の諸先輩や同僚に実験や卒論を相当手伝って貰い及第点にも至らぬ中、担当教官に温情で通して貰い学びから背を向けたまま卒業したことが、頭の片隅で引っ掛かっていた。
 その後、会社派遣で経営学に触れさせて戴く機会はあったが、徐々に大きな組織を任される様になり、経験と勘に頼った我流でのマネジメントに限界を感じ始め、どの様にすれば一緒に働く人達と良いチームが出来るかを考える様になり、最初は心理学に興味を持った。その際に行動経済学のことを知り、心理学×経済学の分野の学問と知り、自分自身はビジネスパーソンとして、ヒト、モノ、カネを確り経営の観点で経営学を体系的に学んでみたいと思う様になった。
 それに加え、会社で後輩のキャリア相談に乗ったり、優秀な人が転職したりする中で、自分自身もこれで良いのかとの課題意識を持つ様になり、仕事中心で来た自分自身の人生の棚卸しと新たな出会いを求めてWBSの門を叩いた様な気がする。月並みであるが、WBSにおいて様々な先生方や卒業生の方々、そして何より同級生の方々と年齢や業界の枠を超えた濃いネットワーキングをさせて戴けるとは思っておらず、自分自身も何が出来るかを考え、行動に移す様な癖が付いてきた様に感じる。

【科学技術とアントレプレナーシップ (STE)】
 この講義がWBSの中で最もハードだとの噂は過去の受講者のみならず、牧さんご自身からも伺っていた。正直色々な講義が有る中で、他の講義も比較的重いものが多い中で、受講を躊躇しなかったというと嘘になる。(そして裏番組で、某先生の講義もあったと記憶する) 牧さんに「受講迷ってます!」とお伝えすると、「出来るだけ事前にどの様な講義か分かる様にします。」とのことで、履修予定者・検討者用Facebookのグループで事前の情報共有があったが、見れば見るほど躊躇したのが実態である。過去の受講生の方々が、「受講期間中、電車の中で必死に論文を読んだ」と言われていたのを思い出し、事前に公表されていた講義資料や論文等を、Print Outしてみると、裏表印刷で5cmサイズのファイルが2冊となり、これには正直驚愕した。
 最終的に、受講の決め手となったのは、『2020年度「科学技術とアントレプレナーシップ」の授業を開始するにあたって』と題した牧さんからのLetterを拝読し、その中にあった「この授業における学びの深み」 = 「今まで学んできたことの総量」 × 「今どれだけ時間を割いて学ぶか」 の公式!であり、私なりに「今まで学んできたことの総量」は変えること出来ないが、「今どれだけ時間を割いて学ぶか」はこれからの努力で何とかなる、と覚悟を決めた。時間割や他の講義との比較で登録を迷う科目はあるが、後にも先にも、受講自体でこれほど考えた科目は表れていない。
 講義自体は、既に他の受講者の方も触れられている通り、毎週6本の論文を読み、ボランティアで発表者として講義中に発表するのは可也ハードではあるが、牧さんやTAの徳橋さん、森田さんの手厚いサポートがあり、講義に加えて週1回のオフィスアワーで相談出来る場がある等、自分自身がコミットすればするほど、得るものが多くなる講義であったと言える。
 特に2020年春学期はコロナ禍で講義が全てオンラインとなり、本講義も例外なく全講義Zoomとなったが、講義内容にテレワークに関してやCOVID-19に関しての論文が入り、講義はZoomの機能をフル活用しリモートと思えない位インタラクティブであった。講義外ではSlackを活用した教員・TA・受講者とのコニュニティ形成、受講者が助け合い、インクルーシブな授業の実現のために積極的に参加し、助け合って、ピアエフェクトを感じる内容であり、牧さんが目指すより良いラーニング・コミュニティを構築する意味を腹落ち感を持って体現出来た。
 更におまけとして、全講義がZoomで実施されたこともあり、牧さんのご厚意で8月下旬に講義履修者が任意参加の勉強会をRe-Unionとして実施戴いた。牧さんに工夫戴いたプログラムは、① “Food Truck”シミュレーションを活用した失敗を誘発するインセンティブ設計、②スタンフォードd.schoolが開発した「トランプ・タワー」ワークショップの2本立てで、リアルならではの緊張感や周りの熱量も感じながら、STEの講義が終了して2か月弱であるが、同じ釜の飯を喰った仲間と集まれる機会となり、熱中する3時間を満喫させて戴いた。

【COVID-19の論文】
 今回のSTEの講義で牧さんが取り上げられたCOVID-19に関連し、医学論文「COVID-19 outbreak on the Diamond Princess cruise ship」を読む機会を戴き、それをゲスト講師として参加された、現役の厚生労働副大臣、政務官(当時)の前で発表する機会を得た。日本語で読んでも理解出来ない内容であるが、長女が今年医学部に進んだこともあり、少し父親が頑張っているところを見せようかと背伸びしながら、論文内容の解釈に努めた。
 論文の内容は、厚生労働省が本年2月に横浜港で実施した、検疫対策及び感染者の下船・隔離対応について、感染症流行の数理モデル(SEIRモデル)を用い、感染症の基礎再生産数により検証することで、①感染者数検疫対策及び感染者下船・隔離により大幅な感染拡大を阻止し、②同対策が一切されない場合には、更に感染者が増加したと推定される、との結論を導く内容であった。
 この論文が取り上げられた講義では、実際厚生労働副大臣、政務官から、限られた情報の中でどの様な意思決定をするかについて同副大臣・政務官の実体験に基づき、様々な事が日々発生する壮絶な現場において、前例なく入手出来る情報が限定的な状況下で、どの様な意思決定をするか、その意思決定にどの様な責任を政治として取るかとの実話を伺い、自分がその立場であれば何が出来たかを考えさせられた。
 本件については、この講義で論文発表した中本広計さん、牧さんと一緒にケースに纏めさせて戴いた。私としてケースを作成するのは、初めての経験であったが、講義での発表がケースになるとは全く想定しておらず、ケース現物を見た際に不思議な感激を味わせて戴いた。

【地域イノベーションとエコシステム研究会】
 牧さんが取組まれている取組の一つとして、昨年度の「技術・オペレーションのマネジメント」の授業で「サイエンティスト冨田勝」というケースをつくり、慶應義塾大学先端生命科学研究所(在鶴岡)の冨田所長をゲストスピーカーでお呼びして、鶴岡のエコシステムについての学びの場を提供戴いている。
 私も商社という仕事柄、過去に国内の様々な地域の企業とお付き合いする中で、地域で様々な取組があるが、色々な取組が中々持続的にならず、地域の取組を、行政だけでなく、大学等の教育機関や企業が組み合わせることで、東京と双方向にして持続、拡大出来る様なことができないかとの課題意識を持っていた。
 偶々、牧さんにお声掛け戴き、私も2回程鶴岡入りし、鶴岡在住で科学と芸術を用いて伝統を発展的に学び伝えるNPOやまいろ代表理事の伊藤卓朗さん、慶應先端研に派遣され、鶴岡市をフィールドに活動している社会人大学院性の高木慶太さん、元NHK記者で鶴岡のベンチャー企業であるヤマガタデザインに転職された長岡太郎さん他との接点を持たせて戴く機会を得た。鶴岡では、地域の伝統芸能や伝統工芸に触れ、地元の美味を味わいながら、どの様に地域イノベーションとエコシステムを築いていくかについて情報交換ことが出来た。
 コロナ禍において、元々本年3月に想定していたスタディ・ツアーは実現に至っていないが、WBSにおいても、この様な活動を進めるべく、牧さんが作られたWBS地域イノベーションとエコシステム研究会において、伊藤さんや高木さんに地域での取組をZoomで発表してもらう機会を設け、冨田所長との意見交換の場も持たせて戴いた。
 牧さんと、WBSの現役学生と修了生の有志が集まって、半年に一度くらい地方にいって、そこで活躍する若手・中堅と交流して「地域イノベーション」を学んでアクションを起こしていく場が作れたらと話をしており、その為に在東京の方と在鶴岡の方がお互いを知り、定期的に相互に行き来する中で、この取組が定着、拡大することが出来ればと考えている。今後、地域イノベーション、インクルーシブ、サイエンス、エコシステムなどがキーワードの研究会として、微力ながら私が出来ることから持続的に取組みたいので、興味ある方は是非御一緒させて戴きたい。

【最後に】
 私が商社において国際協力機構(JICA)等の方々と取組んできた開発経済の分野において、牧さんは開発途上国の人へのサポートは「魚を提供するのではなく、釣りのやり方を教える」ことと紹介されている。それをSTEの講義を通じ、「受講者に「知識」を提供するのではなく、「知識を獲得するスキル」を提供したい」と述べられているが、私自身もSTEの講義・講義外のラーニングコニュニティを通じ、知識の獲得に対しての感度が格段に上がったと自覚する。
 このSTEの講義を通じて学んだ、「科学的思考法」により、何が因果関係かを自分の力で理解し、日々の事業運営において、経営の意思決定の質が飛躍的に高まることを示したいとの想いを強くしている。
 COVID-19の論文を読んだ際には、ケースになることも、この論文が経営の意思決定の現場にも繋がるものであるも認識するとは想像もつかなかったが、一つの論文からこの様な展開や繋がりが出てくることを体現出来たことは、学びの場を作って戴けた賜物であり、自分自身もこの様な機会を作れる様に努力したいと思う。
 地域イノベーションとエコシステム研究会は、鶴岡に始まり、他の地域にも展開し、ネットワークが拡がり係わる人達がお互いに学びや理解を得ることが出来る持続的な取組となる様に、取り組む所存である。皆さんの理解を深める観点からも、早々にスタディツアーが実行出来ることを期待する。
 私自身のことであるが、WBSに入り1年半が経過し、残り半年を残すばかりとなった。これまで、牧さんをはじめとする先生方、TAをして戴いた卒業生、そしてWBSで一緒に学ぶ皆さまに支えされ、何とかやってくることが出来た。伝えきれない部分も多々あると思うが、WBSでの学び、牧さんを核とするラーニングコニュニティの素晴らしさが少しでも皆さまに伝わると幸甚である。
 改めて、素晴らしい時間を共有させて戴いていた皆様に、感謝申し上げます。本当にありがとうございます。

以上


次回の更新は10月9日(金)に行います。