[ STE Relay Column : Narratives 109]
山崎 卓郎「MBAで、悩んで失敗して、それでもジタバタし続ける『技術』を学ぶ」

山崎 卓郎 / 早稲田大学大学院経営管理研究科 / SBIホールディングス株式会社

[プロフィール]岐阜県岐阜市出身。早稲田大学在学中、大学周辺で地域通貨を活用した地域活性化活動に従事したことがきっかけで「新しい金融」に興味を持ち、インターネットを基盤にした金融事業を展開するSBIホールディングス株式会社に入社。以来、グループ会社の銀行やFintech企業にて企画部や新規事業開発に従事。SBI Ripple Asia株式会社の経営管理部長に抜擢されるも、事業を立上げ運営していくための力不足を感じ、地力を上げたいと考えにWBSへ入学。現在内田和成ゼミに所属している。
趣味は登山やトレッキング。WBSを卒業したご褒美に、自然に囲まれた場所でゆっくり過ごしたい・・・(まだまだ先は長い)。
  • はじめに

Covid-19の影響で全授業がオンラインで実施されるという状況の中、私の大学院生活は始まりました。正直なところ、オンライン実施という通知を受けたときは本当に今大学院に入るべきなのかとても悩んでいました。オンラインでも学びの質は保たれるのか、クラスメイトや同期とは仲良くなれるのか、教室にいるからこそ感じるものもあるのではないか・・・不安要素はたくさんありました。
しかし、そんなに悩んでいたことが馬鹿々々しいと思えるほど、WBSでは刺激に満ちた講義が展開されています。そのうちの一つが、牧さんの「Lab to Market 科学技術の商業化と科学的実験(L2M)」でした。

  • Lab to Marketのシラバスを見つけたとき

私がWBSに入学した目的の一つに、新規事業の立ち上げ能力を磨くことというものがありました。そのため、WBSのアントレプレヌールシップという授業を受けようと考えていたのですが、まさかの抽選漏れ。でもせっかく入ったWBS、なにか面白そうな授業はないものかと探して目についたのが、L2Mでした。

「「技術経営」と「アントレプレナーシップ」の融合領域」、「「サイエンス」と「アントレプレナーシップ」の関係を (1) シーズとしての「サイエンス」の商業化、 (2) 新事業創造の手法における「サイエンス」の活用、の2つの観点から掘り下げる」、「現在米国の大学で用いられている英語によるアントレプレナーシップの教材を用いる」・・・という言葉に「なんかすごいアントレ系の最新のことが学べそう?!」と心惹かれたのを覚えています。

新規事業立上の能力向上を目指していた私には、うってつけの授業だと感じたのです。

  • PredictionとCreAction

そのインスピレーションは正しかったと感じたのは最初の授業。最初の授業のゲスト講師として、九州大学大学院経済学研究院産業マネジメント専攻で教鞭をとられている高田仁教授の「Prediction(予測に基づく行動)とCreAction(創造的行動)」についてのお話です。

これまでのMBAではPrediction-つまりはゴールを明確にしてそこへの最短距離を考えること-を教えることが多かったが、今の時代のようにイノベーションが求められる時代においては、CreAction-最初はゴールはわからないが、仮説を作ってTry&Errorを繰り返しながらゴールを探り当てていくこと-が大事であって、そのプロセスを学ぶのがこの授業だというお話でした。このお話によって、これまでの新規事業の立ち上げにおいて悩んでいた「どうやったら綺麗に進んでいくのか」ということではなく、「そもそも悩みながらやっていくもの」という考えを持つことができ、立ち上げ期のカオスな状況もストレスではなく納得し受け入れた上で行動できるようになれたと思います。

  • 仮説とは?検証とは?実験とは?

「悩みながらTry&Errorを繰り返してゴールを探す」ということを初回で教わった後は、それをケースやシミュレーションゲームを通じて実際に体感していきますが・・・頭ではわかっていても実際にやってみるとPredictionに行動する自分がいました。

最小単位で仮説を作りそれを高速で繰り返していくことでゴールへの最短距離を見つけていく・・・ということを理解しているはずなのにそうやって行動できない。ほかにも定量的に仮説・検証することや、定量的な検証方法の正当性を図ることなど、毎回落とし穴に落ちながら授業を受けていた記憶しかありません。

それでも、「失敗を評価する」という授業の方針から、落とし穴に落ちてもその失敗から何を学ぶか、そして次にどう活かすか、という前向きな思考ができ、最終的にはだいぶCreActionな考え方・行動ができるようになったのではないかと手ごたえを感じています。

  •  シーズの商用化の難しさ、その先にある可能性

L2Mではシーズレベルの研究テーマをグループ毎に与えられ、それを商用化する案を作っていくという、まさに実践することも課題として求められます。

私のグループでは早稲田大学データ科学総合研究教育センターで講師をされている谷口さんが研究している「ソフトロボット」をテーマに商用化案を考えました。途中、出していた案がひっくり返ったり、将来的にできると考えていたことが現場の方にヒアリングしたら全く見当違いであったりと、まさにTry&Errorの繰り返しでした。それでもほかのグループも含めて商用化案が出来上がっていく過程を見ると、CreActionのアプローチによるシーズの可能性を広げることの面白さを体感でき、自分の新しい引き出しを作ることができたと感じています。

  • さいごに

授業には様々な方にお越し頂き、様々な角度からシーズの商用化についてお話を聞くことができました。その中の一つが、早稲田大学副総長で大学のオープンイノベーション戦略研究機構の機構長も務める笠原教授のお話でした。

今回の授業を通じて、米国の大学がイノベーションに貢献する役割を知るとともに、日本の大学ではそれがなかなか実現できていないという点については、(なんとなく感じてはいたものですが)問題意識がより鮮明になりました。その点を払拭するために、早稲田大学では組織的にオープンイノベーション・エコシステムを作ろうとする動きがあるとのこと。早稲田大学出身者としては、母校がこのような取り組みをすることをうれしく感じるとともに、今回の授業で感じた大学での研究の可能性を考えると、なんだかワクワクしてきます。

冒頭の話に戻りますが、WBSはCovid-19の影響を受けてオンライン授業になっても、そこでオンラインの良さを取り入れて普段できない面白い授業にしようとする教授陣や学生がたくさんおり、私もこんな状況だからこそ感じ取れる刺激をたくさん頂きました。(特にこのL2Mでの牧さんのオンライン授業へのTry&Errorは群を抜いており、毎回1~2個新たなツールが登場します。)

この情熱と行動力を持つWBSと早稲田で動き始めたイノベーションへの取り組みが融合すれば、きっと停滞が続く日本経済にも活力を与える大学になるはず。そして私もそこに貢献ができるよう、WBSでの残りの時間を過ごしていきたいと考えています。

 

以上

 


次回の更新は9月18日(金)に行います。