[ STE Relay Column : Narratives 101]
中本 広計「ハートで感じたサイエンスの重要性」

中本 広計 / 早稲田大学経営管理研究科 / 武田薬品工業株式会社 

[プロフィール]兵庫県神戸市出身。9歳の時に阪神淡路大震災で被災。中学、高校、大学と10年間陸上競技部で長距離を専門としていた。甲南大学経済学部を卒業後、武田薬品工業株式会社に就職。MR(医薬営業担当者)として和歌山県で7年半、兵庫県で2年半経験を積み、2018年に社内公募で東京本社のマーケティング部に異動した。2019年4月に早稲田大学経営管理研究科(夜間主総合)に入学し、佐藤克宏ゼミ(戦略とファイナンス)に所属している。
趣味は海外旅行で妻と毎年ラスベガスに行っている。

今年の科学技術とアントレプレナーシップはCOVID-19の影響ですべての授業がZoomを用いたオンラインで行われた。その第一回目の授業で牧さんの印象的な言葉があった。
「この授業における学びの深み」=「今まで学んできたことの総量」×「今どれだけ時間を割いて学ぶか」である。私にとっては深く突き刺さる言葉であった。

【一生懸命生きてこなかったことへの後悔】
私は小学生のときに中学受験をきっかけに勉強が大嫌いになってしまった。理由は社会人になったときにわかった。本当は勉強が嫌いなわけではなかった。学校や塾で有名なほど頭の良かった年子の兄と比較されて、テストのたびにガッカリする両親と塾の先生の顔を見たくなかったからだ。今でも塾に入ったときの先生の異様な期待感と、テストを受け終わった後にガッカリされた顔は覚えている。それがきっかけで勉強から逃げるようになってしまった。高校のときに目が覚めて勉強するようになったが、遅れを取り戻すのは難しかった。小学校、中学校のときに勉強しなかったことを後悔した。
もう一つの後悔は大学のときだった。ちょうど20歳のときに母親ががんになった。親孝行ができなかった後悔はもちろんのこと、自分は生きているのに一生懸命生きてこなかったことを激しく後悔した。このことがきっかけで武田薬品に入社した。
しかし、社会人になってから10年間、「今まで学んできたことの総量」が少ないことによって様々な場面で苦労することになった。

【卒業後に活躍するために必要な授業を取る】
「今まで学んできたことの総量」を変えるためには「今どれだけ時間を割いて学ぶか」に力を注ぐしかない。そのため、社会人になってから割とすぐにMBAには興味を持っていた。しかし、MBAに入るまで10年かかった。周囲からMBAには意味がないと反対され続けていた。最終的には反対を押し切ってWBSに入ったが、「どうすればMBAを実務に活かすことができるのか」ということを常に考えながら、履修科目を選択し、授業に取り組んでいた。
そして、WBSに入ってから決めたことがある。Sales & Marketingの世界で生きてきた人間にとって「戦略」の授業は楽しい。もちろん非常に大事な授業であることに間違いないが、「統計やファイナンスなど馴染みのない分野から逃げない」ということを心に決めた。「取りたい授業」を取るのではなく、卒業後に活躍するために「必要な授業」を取ろうと思った。
その中で「科学技術とアントレプレナーシップ」の履修は最後まで迷っていた。WBSで1番負荷が大きいと言われる授業で、最後までついていけるか不安があった。
そのような中、牧ゼミの修論発表会を聴講する機会があった。その時、牧ゼミの方々の定量分析のレベルの高さに圧倒された。特に今回TAを務められた徳橋さんの発表は印象に残っている。自分がここで逃げたら、きっとまた後悔すると思った。最後は同じゼミのRolaさんにも背中を押してもらい、履修することを決めた。卒業後に活躍するために「必要な授業」だと思った。

【科学技術とアントレプレナーシップを履修して】
授業が始まると履修者のレベルの高さに圧倒された。普段の授業でも活躍しているメンバーに加え、修士や博士を持っている方々も多く、自分は明らかに場違いだと感じた。そのため、論文発表は簡単なものを選んで迷惑をかけたくないという気持ちが強かった。しかし、少しずつその気持ちは無くなっていった。
オンライン授業になったことで、牧さんが事前課題のビデオを作成してくださり、「定量研究の基礎」と「実証研究の具体的事例」を学ぶことができた。また、オンライン教材としてHarvard Business Publishingで統計を学ぶことができた。私のように「今まで学んできたことの総量」が少ない人にとってはとても有難かった。授業についていくために何度も視聴した。
また、この授業は初回に大きな仕掛けがされていた。トピックとして取り上げられたのは「オンライン授業は対面授業と同等の効果があるのか?」という論文。読むと優秀な生徒はオンライン授業になるとむしろ成績が向上するという内容で、履修者がオンラインを上手く活用しようというモチベーションが高まる内容となっていた。
さらに、私にとって特に有難かったのは「オフィスアワー」だった。毎週水曜日22:15から授業とは別に牧さんが相談に乗ってくださる。論文の発表が当たっているときは必ず参加するようにしていた。論文のわからないところを聞けることはもちろんのこと、牧さんが想定されているディスカッションポイントも確認することができるため、当日の発表のイメージを具体的に持つことができた。
そして、この授業最大の特徴は受講生同士のラーニング・コミュニティである。Slackで情報交換を行っていたのだが、最終課題提出前に藤居さんが「最終課題と修論準備」というチャンネルを立ち上げてくれた。最終課題も非常に重たいのだが、自然と全員で知恵を共有して高め合おうという意識が働いていた。他の履修者の修論テーマ発表も視聴することができ、自分の修論テーマを考えるうえで非常に参考になった。

【ハートで感じたサイエンスの重要性】
最終的には、簡単な論文を選んで迷惑をかけたくないと思っていた私が3つの論文発表を行った。特に印象に残っているのが、COVID-19のテーマを取り上げた授業だった。参加されたゲストは伏せさせていただくが、製薬企業で働く私にとっては雲の上の存在である。自分の論文発表をしっかり聞いてもらえるのか不安があった。一緒に論文発表を担当した天野さんと事前に何度も打ち合わせをし、オフィスアワーで牧さんにもアドバイスをいただき、当日の発表を迎えた。結果として、ゲストの方とCOVID-19に関してサイエンスベースでディスカッションすることができ、内容もわかりやすかったと仰っていただくことができた。私がサイエンスの重要性をハートで感じることができた瞬間であった。人生で忘れられない1日となった。

【最後に】
繰り返しになるが、私は「今まで学んできたことの総量」が少ない。高校生のときから必死に勉強するようになったが、それでも周囲に追いつけたとは全く思っていない。会社では「今まで学んできたことの総量」が多いと見られることがあるが、「今どれだけ時間を割いて学ぶか」でごまかしながら背伸びして強がっているというのが事実である。
小学生、中学生のときに一生懸命勉強してこなかったことは後悔している。しかし、その経験があるからこそ、後悔のないように一生懸命生きようと思えるようになった。それに甲南大学、武田薬品、WBSに入ったことで幸運にも人との出会いに恵まれた。
「科学技術とアントレプレナーシップ」は単なる授業の枠を超えて、これまでの人生、そしてこれからの人生を考えさせてもらえる授業だと思う。
WBS卒業後は自分自身で学び続けなければいけない。過去は変えられない。これからも「今どれだけ時間を割いて学ぶか」を日々意識しながら生きていきたい。そしていつか「今まで学んできたことの総量」が多いと胸を張って言えるようになりたいと思う。

牧さん、TAの森田さん、徳橋さん、授業の受講生の皆さん、素晴らしい時間をありがとうございました。


次回の更新は7月24日(金)に行います。