[ STE Relay Column : Narratives 059]
梅原 輝彦 「『人間観察』視点のアントレプレナーシップ」

梅原 輝彦 / 早稲田大学大学院経営管理研究科/ JSR株式会社

[プロフィール] 大学・大学院時代は、有機ケイ素化学を専攻。大学を卒業後、化学製造業のJSR株式会社に入社し、新規事業立ち上げ業務に携わる。途中、新しい事業のネタを探索のために、ストラスブール大学(フランス)に2年間滞在。帰国後、CVC担当を経て、現在ベンチャーとの共同事業立ち上げ業務を行う。2018年4月に早稲田ビジネススクールに入学、樋原ゼミ所属。

大学時代まで陸上部だったが、走り過ぎて体を壊したのでもう走ってない。好きなもの:山登り、川瀬巴水、アルザスワイン、麻婆豆腐、「ピタゴラスイッチ」とその作成者である佐藤雅彦を尊敬している。子供二人がまともに育ってくれるか不安な日々。


高校の時に、趣味は「人間観察」だという妙な友人がいた気がする。自分は人のファッションだとか素行とかにはあまり興味がない人間だったので、彼の趣味は理解できなかったが、「科学技術とアントレプレナーシップ」の講義の「人間観察」は確かに面白かった。

各自個々の価値観は異なっていても、結局人は利己的に生きている。わざわざ好き好んで自殺する人はいないし、傍から見てありえない判断であったとしても、彼らなりに何らかの判断軸をもっていて利己的に行動しているはずである。企業が行う経済活動も、決断をしているのは人であり、当然利己的に活動している。「科学技術とアントレプレナーシップ(以下、科学技術とアントレ)」は、利己的な人の生き方や会社の活動を、如何に客観的に説明できるか問い続ける場だった。(と、自分は解釈しています。)

例えば、起業する人間はどんな環境に影響されたのか?とか、人はどんな成果報酬でより効果的に活動するのか?補助金はベンチャー起業をどう成長させるか?など。

そんな漠然とした問いに、答えがあるわけがないというのが、講義を受ける前の自分の考え。しかし、データを積み重ねて、まじめに論理を積み重ねる論文を目にすると、たしかに言わんとしていることは矛盾してない、というか、そうとしか考えられないと妙に腑に落ちる感覚があった。確かにこれまで知っていたの「理系」の論文とは違う、新しい学問領域の学びであった。データの面白さを追い求めていた、自分が知っていた「理系」の論文はデータ自体の面白さを追求する学問であり、「科学技術とアントレ」で出会った論文は、データの見方や、解釈を工夫することで面白みを見出す学問であったと観ることもできると思合う。

講義は、牧さんが論文を選択し、学生が事前に読み込んでプレゼンをする形式で進められた。短く言えば、学生の質が、授業の質に直結する形式(牧さんのコーディネートがあってこその授業であり、牧さんのコントリブ―ションを否定しているものではありませんので、あしからず)。基本的に論文は難しいし、大塚さんや、藤尾さん、舛永さん、と一緒にわからんねと言いながら授業に参加していたけど、みんなちゃんと説明するからレベルが高い。水野さんや、田中さんの、プロまがいのコメントがあり、コントリビューションがあり、みんなで作り上げる一体感のある講義でした。牧さん曰く、「アメリカのスタイルを持ってきました」そうですが、こんな形式の講義はこれまで受けたことがありませんでした。

怖いもの見たさで受講した「科学技術とアントレプレナーシップ」であったが、新鮮でセンセーショナルでした。「理系」とか「文系」とかいう敷居は、「人間」の前ではちっさい話なんだと思うようになったのが、自分のなかでは一番の収穫なのかもしれません。

以上


次回の更新は9月20日(金)に行います。