[ STE Relay Column : Narratives 060]
松田 靖子 「WBS生と家族 〜WBSが家族にもたらしたもの〜」

松田 靖子 / 牧ゼミ一期生 家族 / グラクソ・スミスクライン株式会社

[プロフィール] 愛知県出身。東北大学大学院 薬学研究科 修了。外資系製薬企業の研究所に入社し、薬効薬理研究に従事。2009年にグラクソ・スミスクライン株式会社に入社、臨床開発(精神疾患、希少疾患、自己免疫疾患等)に携わり、現在は臨床試験リーダーとして臨床試験のマネジメントや、クリニカルサイエンティストとして承認申請関連業務を担当。牧ゼミ1期生の松田大の妻。12歳と6歳の2人の女児の母。

●イントロダクション
こんにちは。初めまして。牧ゼミ1期生の松田大の妻、松田靖子と申します。なぜ家族の人?と思った方が多いと思いますが、この度牧先生からお話をいただきまして、”家族から見たWBS生”をテーマに、このRelay Columnに寄稿させていただくこととなりました。牧先生にはこのような機会をいただき、ありがとうございます。早速ですが、主人のWBS生活について、家族の目線から振り返りたいと思います。

●主人がWBSに入学するまで
主人はWBSを受験するまで、数年間に渡ってMBAの学校に通いたいと思っており、受験を迷っていました。通うとなると、仕事と勉学の両立、休日の家庭生活への影響(そもそも平日は家庭への貢献度ゼロですが)、授業料の家計への影響など、一つ一つが気になったのだと思います。主人は元々から、いろんなことにチャレンジしたいタイプで、最初は私も、また何か言ってるな〜というレベルで捉えていたのですが、この話が比較的長期に続いたため、一時の熱や口だけではなく、心から学びたいと考えていると感じました。そうこうしているうちに、”全く決断できないタイプだなぁ”と思ってきて、家庭のことは問題ないからやってみたらいいじゃん!と応援することになりました。そしてトントン拍子に受験が進み、無事にWBSに入学したのです。

●WBS生と家族の生活
WBSの講義が始まるや否や、とにかく主人は家にいなくなりました。平日は夜間授業のため終電で帰宅し、朝は早く仕事に出て行く。土曜日は一日授業。日曜日は勉強のために図書館にこもる。家にいてもレポートを書いたり、他のWBS生とディスカッションしたりしている。通勤の電車や隙間の時間では本を読む。そんな主人を見ていて、本当に大変だなぁ、頑張ってるなぁ、の感想に尽きます。睡眠を削ってでも目標に向かって毎日努力し続けていた主人に対して、家族の全員が、心配しながらもあたたかく見守っていました。
一方、家族の生活はというと、我が家には私の両親という非常に有難い協力者がおり、共働きで遠距離通勤ということもあって、平日は両親が家事と子供の世話を一手に引き受けてくれています。休日も私が大人一人で大変なときは、両親のヘルプが入ります。主人が家にいなくても、私には強い味方がいるのでそれなりに居心地が良く、また、子供たちも、(口うるさい)パパに気を使わずに過ごせている。”パパがいない”の変化に家族が一旦慣れてしまえば、子供たちはのびのびとしているし、私も主人への家事や育児への期待がなくなりイライラすることが減り、家族は意外にも、主人がいないなりの生活を送れていました。
誤解しないでいただきたいと思うのは、これは一概に主人が家にいない方が良いと言っているわけではなく、主人が忙しい中でも、WBSで学ぶことやWBSのみなさんとのつながりを楽しんでいるという事実が、家族の中で一番大事なことでした。家族はみんな、活き活きと充実した生活を送っているパパが好きで、そんなパパを応援したい、という気持ちでした。結果的にはwin-winの関係だったのかもしれません。

●私のゼミへの参加
主人から、ゼミに顔を出してみたら?と何度か声を掛けられていたのですが、私はWBSを受験したわけではないし、話についていけずに居づらいかなと、勇気がなかなか出ず、消極的な態度をとっていました。ある時、ファイザー株式会社の瀬尾亨さんが講師としてゼミに来るよ、と誘われ、それなら行こう!と決めました。瀬尾さんのお陰でやっと重い腰が上がったのです。瀬尾さんは、私の研究所時代の上司で、私のキャリアをつなげて下さった恩人です。当時、研究所の閉鎖と、プライベートな話なのですが初期流産が重なり、私の精神はどん底で何もかもを諦めようとしていました。そんな時に、キャリアを諦めるなと、背中をしっかりと押して下さったのが瀬尾さんでした。お陰で、”やれるところまで”はやってみようと前向きになることができ、無事にGSKへの転職を決めたのです。転職後は、長女の子育てと遠距離通勤の両立に苦戦したものの、”やれるところまで”という限界が未だにどこなのかが分からないまま、早10年も経過し、子供が2人になった現在も働き続けることができています。前置きが大変長くなりましたが、このような経緯で、牧ゼミに初めて顔を出すことになりました。
ゼミでの瀬尾さんの講演は製薬業界の内容でしたので、自分も理解しやすく、牧ゼミの方々は日々、濃い勉強をしていることを実感しました。また、牧先生はじめ、メンターの櫻井さん、牧ゼミ1期生の林さん、草地さん、高山さん、畝村さんにもあたたかく迎えていただき、大変感謝しています。主人が普段WBSで何をしているのか、どういう方々とどんなコミュニケーションをとっているのか、学ぶ姿勢など、家庭とはまた違った一面を見ることができました。主人は家ではきちんと生活する能力に欠けているけれど(”っぱなし”は治らないものですね)、WBSでは緊張しながらもしっかりやってそうで一安心でした。ゼミへの参加は、私にとって、仕事や家庭にはない、自分をupdateするような、貴重な時間でした。

●アントレプレナーシップ
主人が牧ゼミ生になり、”アントレプレナーシップ”の言葉に触れる機会が増えました。簡単に表現されているのは”起業家精神”だと思うのですが、本当はもっともっと深くて広いもの(こんな表現ですみません)だと知りました。
WBS生の方々とはこれまで、上述のゼミへの参加、卒業発表、学位授与式でお会いさせていただきましたが、ビジネスノウハウを基礎に持ち、創造力、行動力、人とのつながりなどの要素をみなさまから感じ取ることができ、アントレプレナーシップを発揮される/されている方々だと感じました。アントレプレナーシップは、私のようなまだWBS生になっていない人々に訴える必要があるものかもしれないなぁと感じました。

●WBSが家族にもたらしたもの
主人のWBS生として努力する姿は、家族への前向きな変化を生み出しました。影響を受けた一人は、現在小学6年生の長女です。以下は長女からのコメントです。
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私がパパが大学へ行っていて、思ったことは『努力は実を結ぶ』ということは本当なんだという事です。
パパはいつも深夜まで一生懸命にやっていました。睡眠をとらない日も多くありました。それでも集中を切らさずにやっていました。そしてその努力が実ったのか、よく成績優秀者に名前が載ったところを見せてくれました。正直に言って、私はそんなパパが心配でたまりませんでした。でも、パパがいい成績をとって喜んでいる姿を見ると、すごいな、努力をする事は本当に大切だなと思いました。
今年、私は中学受験をします。私もパパのようにたくさん努力して、受験に合格したいです。
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本人の言葉通り、小学生ながらも毎日努力している姿は頼もしく、長女から、また次の良い影響を周りに生み出しているのではと感じています。

もう一人は私自身です。私は現在、会社の研修の一環として、東京大学大学院薬学研究科医薬品評価科学講座のレギュラーコースを受講しています。5月から11月までの半年間、毎週月曜の夜に大学に出向き、講義を受けたり、チームディスカッションをしたり、レポート提出も毎週あります。今までは家庭への影響を鑑みるとこのような研修の受講には踏み切れなかったのですが、主人がWBSを卒業し、今度は自分もチャレンジしてみようと、一歩踏み出すことができたのです。こういう気持ちの変化は、私としては並大抵では起こせるものではないですが、WBS生からの刺激は私にとって大きいものだったのだと思います。
ただ、私だとなぜか、週末に一人の勉強時間を作りづらい。パパとママでは、家庭での待遇が同じようにはいかない、では時代遅れだと思うので、我が家の課題かもしれません。

●最後に
このように主人のWBSを振り返ってみると、WBSへの入学前には見えていなかった世界が、WBS生本人だけではなく、サポート側の家族にも見えてきていて、それぞれが一歩二歩と踏み出すことができていると思います。WBS生となってくれた主人にはもちろんですが、卒業した今でもずーっと大変お世話になっている、牧先生はじめ、牧ゼミ1期生・2期生の皆さま、WBSに関わる皆さまに、大変感謝しています。これからも家族共々、何卒よろしくお願いいたします。


次回の更新は9月27日(金)に行います。