[ STE Relay Column 043]
桑原 彩乃「『深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション』から得た、人生の指針」

桑原 彩乃 / 早稲田大学経営管理研究科 修了 

[プロフィール]京都府出身。大学卒業後、自動車メーカーにて部品調達に従事。工場での生産ライン保全業務、本社での調達戦略策定業務を経て、2009年から5年間タイ現地法人へ出向。現在は部品製造子会社、関連会社の課題対応業務を担当。2019年6月に退職し、夫の赴任先へ帯同予定。
2019年3月早稲田大学大学院経営管理研究科修了(夜間主総合コース・根来ゼミ)

はじめに

私は大学卒業後、約15年間、自動車メーカーで部品調達の仕事に携わってきました。そして、この6月で退職し、今まさに新しいステージへ、向かおうとしているところです。

今回は冬の集中講義で受講した「深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション」から学んだことを、お話ししたいと思います。講義については講師である高須正和さんや、受講生の岡田直也さん、武田信夫さんが既に詳しく書かれているので、このコラムでは私なりの視点で、この講義から得られたことをまとめたいと思います。

この講義を通じて、私は、大げさかもしれませんが自分のキャリアとしての「進むべき指針」が見えた気がしています。一つは、ハードウェアのものづくりの仕事が好きであると再認識し、自分自身の原点に立ち戻れたことです。二つ目は、高須さんの生き様から、自分のキャリアは自分で形作っていくものだということに、改めて気づかされました。
昨年秋に退職することを決めてから、この決断は正しかったのかと悶々と悩んでいましたが、WBS生活最後のこの講義で、その思いが一気に晴れる思いがしたのです。そういう意味で、大学院生活を最後を締めくくるに最高の講義でした!

講義を受講した理由

集中講義は特別講師による魅力的な講義がたくさんあります。他の科目とも迷ったのですが、最後は、中国のものづくりに対する興味に抗うことはできず、この講義を選択しました。
私は自動車メーカーの中でも二輪車のビジネスに携わってきました。入社してから、今まで何度か、中国からの部品調達ブームがありました。中国部品はコスト競争力があり、製造可能な部品のバリエーションも増えてきたので、その競争力を先進国で生産するモデルから、ASEAN諸国の廉価モデルにまで段階的に活用してきた歴史があります。
初期の頃は安かろう悪かろうでしたが、時を経るごとに品質レベルも改善してきました。しかし、ここ数年はインフレによるコスト競争力の低下や、各国の関税引き上げ等もあり、中国活用は下火になっていました。
ところが、EV車になると、途端に中国サプライヤーの存在感が増し、直近、何度目かの中国ブームが起きていました。今までと大きく異なるのは、単に自動車メーカー側が開発をしたものを製造するのではなく、中国企業が開発から製造までを一貫して行う企業が圧倒的に増えたことです。バッテリーやモーターというコアとなる部品を、深センを中心とする中国のものづくりのエコシステムの中で作っていることは、大変興味深く、また脅威に感じていました。その片鱗を学ぶべく、この講義を受講したのです。

講義から学んだこと1:やっぱりハードウェアはおもしろい!

ゾクゾク、ワクワクの連続でアドレナリンが出続けていた一週間でした。(こんなにも素直に、講師の方々との懇親会に参加したい!と思った授業は初めてです。)
そんな中でも、最も興奮したのは公板(ゴンバン)のシステムです。日本を含む西側諸国では知財を守ることで利益を保持するのが基本とされてきましたが、中国では製品の中身やソフトウェアまで開示されており、誰でも自身で手を加えることができる仕組みになっています。それらを用いることで、とてもスピーディーにかつ、低価格で製品が商品化されています。
ハードウェアの領域でも、信じられないイノベーションが起き続けているということを目の当たりにし、日本の、自動車業界のものづくりがスタンダードだと奢っていた自分を恥じ入る気持ちでした。

知財に関する見解は様々だと思いますが、少なくとも中国でエコシステムとして成立しており、イノベーションの創出に寄与しているということは評価されるべきだと考えています。高須さんは正解のないイノベーションという表現をされていましたが、まさしくこれからの時代は、それを困難ながらも模索し続けていく時代なのだと実感しました。
やっぱり、ハードウェアはおもしろい!と再認識し、次のキャリアでもハードウェアに関わっていこうと決意しました。

講義から学んだこと2:キャリアは自分で作り出すもの

講師の高須さんはとても不思議な方です。本職はスイッチサイエンスという電子部品商社のバイヤーとのことですが、世界各国のmaker fairに出かけるmakerおじさんでもあり、深セン在住の『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人であり、深センの今を伝える伝道師でもある。はっきり言って、一言では表せないキャリアの持ち主なのです。
そして、何よりも驚いたのは、それらすべてをご自身が好きでやってらっしゃること、そして自分で自分をブランディングされているところでした。(最初、普通のオタク!と思った自分を反省しました。)

かたや私は、大企業に勤めるサラリーマンでしかなく、直近、その肩書きを退職して失うことに大きな不安を抱えていました。しかし、高須さんと出会い、キャリアは自分で作り出すものだということが、初めて理解できたのです。「当たり前だよ!」と先生や同級生には怒られそうですが、頭でっかちで、いつも、「こうあるべき、こうすべき」と行動しがちな私には目から鱗の思いでした。

これから、退職し夫の赴任先へ帯同します。自分が何者かは、自分自身で決めればいい!
この気づきをもって、新しいステージでも楽しんでいきたいと思います。

最後に

こんなにも最高にアグレッシブな講義を実現され、かつコラム執筆の機会をくださった牧先生に感謝いたします。
最後に高須さん、たくさんの気づきをくださって、ありがとうございました。

追伸

そして、こんなにも熱く講義の感想を書いておきながら、最終成績が振るわなかったことを笑い話として記しておきます。やはり、正解のないイノベーションは難しいです!


次回の更新は5月31日(金)に行います。