[ STE Relay Column 040]
市村秀太「集中講義-Venture Capital Formationを受講して」

市村 秀太 / 株式会社フジテレビジョン 

[プロフィール]2005年早稲田大学理工学部卒業。株式会社フジテレビジョンに技術採用で入社。キャンパスナイトフジ、ショーパン等の照明チーフを担当。情報システム局にてセキュリティ・CSIRTおよび社内情報リテラシー教育担当を経て、インターネット動画配信業務に関わる。また2015-2018年の間、労働組合副委員長を務め、経営陣に対し企業ブランディングについての提言を行う。その他、五輪を迎える街にあるテレビ局として、ブランドの再構築を目指した街興し企画、『DAIBA CITY × DIVERSITY』を企画立案。港湾局を含む7団体が参加しアウェアネスカラーライトアップを行う等、お台場街協議会公式プロジェクトとして社会に貢献している。現在、テレビ業界のジョイントベンチャーである株式会社プレゼントキャストに出向中。2019年3月、早稲田大学大学院経営管理修士課程修了。

授業初日のアイスブレイクは、英語での1分自己紹介だった。“I Love Humans!”自分の自己紹介はこれで始まった。この一言に尽きるのだが、せっかくの場をいただいたので、自分の背景を書かせていただきたい。

私は小学生時代を南カリフォルニアで過ごした。短気な台湾人、日本語を話す祖母がいる韓国人、MC Hammer頭のアフリカ系アメリカ人、林檎とパンしか食べないインド人、体格の良いイラン人、背が180ある気弱な白人。とにかく色んな人がいる、多様性のど真ん中で育った。小3でキング牧師について習い、自分も差別を経験した。帰国後漠然と感じるものがあった、日本人は優秀な気がするが、その割に世界でのプレゼンスが弱いのではないか。それは、世界の端にあるからで、極東の島国マインドだからなのではないか。そのせいで思考が狭く、秩序ばかり優先するに違いない。日本人のマインドを変えるためには、3つの進路があると思った、先生・政治家・メディア。テレビという導火線を使って人の心に火を届けられるのではないか。「私は、心の聖火ランナーになりたい!」と言ってフジテレビに入った。
理系であったため、技術枠だった。通信と放送の融合を訴えたが、「そう言うのじゃなくて、ハートなんだよね」と伝わらず、自分の英語力が全く生きない照明部に配属された。部署を異動し、何か面白いことをやりたいと同期と話しているうちに、2014年10月、チャンスが来た。ローマ法皇が、同性愛者の信者を尊重すると発言したのだ。変化のゴングが世界に鳴り響いたように感じた。最も保守的な何かが、変化し始めようとしていた。海外生活でマイノリティを経験し、LGBTの友人がいる自分にとって、それは他人事では無かった。
フジテレビがあるのは台場、台場シティ、ダイバーシティ!2020年世界は多様性の街にやってくる!レインボーブリッジもある!多様性の街にあるテレビ局!WBS入学後に学んだが、Resource Based Viewと言うやつだ。駄洒落であるが、それ以上の意味がある。世界の人たちは、Diversityという言葉ありきでDaiba Cityに来る、多様性を期待して来る街なのだ。街全体のブランディングになると思った。
同期と企画書を練りまくり、LGBT当事者の方々にインタビューし、社長に直撃しプレゼンさせてもらった。ローマ法皇誘致の下りは理解していただけなかったが、ライトアップは承諾していただいた。が、LGBTを支援するレインボーライトアップは、難を示されてしまった。一部企業は取り組みを始めていたが、残念ながら2015年の段階では踏み切れなかったようだ。
ならば表から裏から押しまくろうと思い、社内横断組織のCSRメンバーになったり、経営陣と話すために労働組合の副委員長になったり、多様性への対応を要求しまくった。自閉症デーライトアップから始まり、乳がんのピンクライトアップ、エイズデーのレッドアップなど多数のアウェアネスカラーを経て、近隣企業を巻き込みながら起案から2年半、レインボーが実現した。

交渉しているうちに経営に興味を持ち、WBSに入学した。

前置きが長くなったが、ここから授業の話になる。
冬期集中授業の後半、つまり3月で早稲田大学ビジネススクール修了予定の私にとって、最後の授業枠であった。多くを学んだ2年間、その最後にどの授業を取るべきかとても悩ましく、意思決定が求められた。自分の足りない知識を補充するのか、自分の得意分野を伸ばすのか、現役の実務経験者から生の知識を得るのか、日中業務とのバランスが取れるのか、集中前半とのバランスはどうしよう。かなり悩んだ結果、Venture Capital Formationを選んだ。理由は大きく2つあった。

1. シリコンバレーの現役VCの話を聞き、リアルな投資判断を聞くため
2. 牧先生が激推されていたため

私はVCというよりは、VCと向かい合うアントレプレナー側の視点に興味があっての受講であった。今後サービスをローンチする際に、どうすれば投資を得ることができるのか、ヒントを得たかった。2年間色々と学び、長谷川ゼミ(別名アントレゼミ)に所属し、次第に自分のアントレプレナー像が作られていく中で、その像が他の視点から成立するのかも知りたかった。アカデミック視点でアントレプレナーを研究されている牧先生がプロデュースされた授業で、さらに現役シリコンバレーVCの教授。渦中にいると悩ましかったが、いざ決めてみると、何を悩んでいたのかさっぱりわからなくなるほどだった。
最大の期待を持って臨み、それ以上の収穫だった。書ききれない収穫があった中で、いくつかのEye Openingなキーワードと共に授業エッセンスを伝えられたらと思う。

1. Brain Fears
恐怖とは生物に必要なものであり、それが人類を数々の脅威から守ってきた。それ故に、我々の脳には深く恐怖の感覚が刻み込まれてしまっている。そしてそれは時として過度に作用することがある。案件を見つけた時、投資しない理由や、実行に移さない理由はいくらでも、誰にでも見つけることができる。もし、うまく行ったらどうなるのか、何が生まれうるのか、どうすれば実現するのか。そっちを考えることから道は開ける。
“What could go right?”

2. Money is Commodity
アントレプレナー側はお金を欲しているためVCのお金ばかりに目がいくが、現在は金余りの時代。お金はコモディティーであり、水みたいなもの。お金以外の何をVCが提供してくれるのかが差別化要素となる。拡大のためのコネクション、ノウハウ、アドバイスなど、今後アントレプレナーが事業を拡大していく際に必要な、お金以外のサポートを見定める必要がある。

昨年Silicon Valleyで参加したStartup Grind 2018でも同じことが言われており、VCが何をしてくれるかを見定める必要性が説かれていた。VCは最終的には投資によって得たシェアを売り、投資分+利益を回収するのが目的である。持分比率やTerm Sheetを巡っての交渉などがあり、アントレプレナーとVCは対立しそうなイメージを持っていたが、両者の目的は事業の実現・拡大であり、共通の目的を持った生産的な関係を目指すべきであると感じた。

3. Currency of the Silicon Valley is Narrative.
シリコンバレーはヒューマンドリブンであり、個々が持つNarrativeが通貨となっている。つまりNarrativeによって人は動き、繋がり、契約が交わされる。

NarrativeはStoryと違うもので、最高にSexyな言葉とのことだった。適した日本語が無いため、直感的にはわかりづらいニュアンスである。完全に私の解釈になるが、どのようなビジョンを持ち、どのように歩み、何を目指しているかが含まれた、『個の生き方を表す文脈』と理解した。信念は行動になり、実現に向けた原動力となるため、それを理解するためのNarrativeがシリコンバレーで意味を持つのだろう。

4. You can never forget the ideas, when you didn’t invest in it despite the chance.
投資のチャンスがあるにも関わらず、投資し損ねた大成功案件は、決して頭から消えることがない。昔のことでも考えるだけで吐き気がするとのこと。逆に、投資した結果失敗しても忘れることができる。

5. I invest in person, and the team.
Wickham教授は『人』を見る。20分で投資の判断なんてできる訳がなく、何ヶ月もかけて起業家、チーム、alignmentを見る。成功するまで約10年。それを乗り切るのは、並大抵のことではない。仲間内で揉めていたり、メンバーの考えの整合性が取れていないチームは、絶対に成功しない。Sozo Venturesは、投資を決める前からアントレプレナー側の力になることによって、他ベンチャーとの差別化を図り、信頼関係を作ることに注力している。

Wickham教授が『人』に集中できるのは、それ以外のデータやビジネスモデルを徹底的に精査する、共同創業者の中村幸一郎さんの存在が前提となっていると感じた。また、Sozo VentureのGive Firstスタイルは、昨年シリコンバレーに訪れた際に学んだ、シリコンバレーを表すフレーズ『Give, give, give, give, and be given.』に合致するものがあった。もちろんGive Firstスタイルが外れることもあるそうだが、会社としてのスタイルを貫いているのを感じた。これはSozo Ventureの組織にも現れていた。事務所よりも人に金をかけているらしく、会社規模からしたら社員数が多いとの批判を受けることもあるそうだ。“We are also a venture company.”と言っていたのが印象深かった。

あまりにも学びが多すぎるため、このあたりで締めさせていただきたい。私自身、今作りたいと思っているサービスがあるからこそ、一つ一つの言葉が示唆に富みすぎており、十分に消化しきれていない。現在私は、モチベーションを維持するプラットフォームを作るべく活動している。今回の授業から得た多くの学びは、自分が考えるサービス内容に沿っていた。私はやっぱり人間に興味があり、個々のNarrativeに興味がある。小3で学んだキング牧師の演説と、自分が経験した差別が原体験だったのだと思う。決意を新たにすることができた。後悔しない様、前進したいと思う。

最後にもう一つ。Wickham教授、中村さん、アシスタントをされていた松田さん、牧先生、皆さんの目には、お互いに対する圧倒的なまでの信頼があった。それぞれが、担当部分を説明しながら、他のメンバーが話している内容をしっかり聞いていて、捕捉し合いながら濃厚に繋がっていた。ジャズバンドの様な味わい深さと、Beastie Boysの様なテンポの良さがあった。Team Formationの重要性も体現していただいた授業であった。WBS最後にこの授業を受講することができ、とても幸せだ。先生方、ゲストの方々に対し、感謝の気持ちが溢れている。

皆さまありがとうございました、引き続きよろしくお願いいたします!

次回の更新は5月10日(金)に行います。