[ STE Relay Column 041]
田中 達也「WBSデータ分析部の活動と今後の展望」

田中 達也 早稲田大学経営管理研究科 / 株式会社WelLife 代表

[プロフィール]1988年生まれ、福岡県福岡市出身。東京都新宿区在住。生命科学専攻修了(理学修士)。専門はがん・遺伝学。製薬メーカーで製造部門2年経験、品質管理部門1年経験。その後、ヘルスケア関連企業に転職して医薬統計解析職を担当。臨床試験データの統計解析業務に従事。昨年末に退職し、現在、株式会社WelLifeを起業し、ヘルスケア関連サービスを設立中。2018年4月に早稲田ビジネススクール・夜間主総合コースに入学。2018年10月にWBSデータ分析部を設立。2018年11月設立のLife Projectの運営にも関与。2019年4月より薄井ゼミにて活動予定。習得プログラミング言語は、R, Python, SAS, VBA。

0.イントロダクション

WBSに入った目的は、①ヘルスケア関連企業の起業につながる知識を得ること、②人脈を広げること、③医薬統計職で培ったデータ分析スキルを活かして、ビジネスデータ分析スキルを習熟すること、上記3点です。そのうちの1つの③を考えた具体的な理由は、臨床データ分析スキルを、ビジネスデータ分析スキルに横展開できたら、起業の幅も広がると考えたからです(経営分析スキル、マーケット分析スキルに加え、データ分析関連サービスの構築スキルの習得も視野)。③を実現させるための一つの方法として、WBSデータ分析部を立ち上げました。今回、このコラムではその「WBSデータ分析部」を紹介させて頂きます。

1.なぜデータ分析部か

「数字で語れない者は去れ!」「これからは多変量解析をしないやつはいらない!」これらはソフトバンクの孫正義社長が言ったといわれています。Googleのチーフエコノミストであり、高名な経済学者でもあるHal Varianは「統計家は今後最も魅力的な職業(the sexiest profession)だ」と述べ、社員採用において統計学を重要視しています。このように、ビジネスパーソンは客観的事実に基づいた意思決定が求められています。また、IoT、ビッグデータ、AIなどデータに関わるトピックが昨今さかんに議論されています。もはやビジネスパーソンにとって、データ分析リテラシーの向上は避けて通れない命題であると確信しています。ビジネスでの成功を目指すMBAの学生にとって、データ分析スキルを磨く場所は多いに越したことがないと考えています。

2.WBSデータ分析部の歩み

「WBSでの学びは、ゼミと授業だけではない」と常々考えていました。春学期の「企業データ分析」の打ち上げにて、データ分析に強い関心のあるメンバー4人でWBSデータ分析部を2018年10月に結成しました。私はデータの加工、統計解析が得意なのですが、データの収集の経験がありませんでした。また、臨床データの分析しか行ったことがなく、ビジネスデータの分析に関しては一切ノウハウをもっていませんでした。創業メンバーで、羽鳥百合子さんに調査データやマーケティングの知見を、星野祐介さんに実務的な財務データ分析の知見を提供してもらっています。データの収集に詳しい羽鳥さん、ビジネスデータの実務でのアウトプットに詳しい星野さんと、知識や経験を補完しあって運営していくことを考えました。まず、部を作るにあたり、「データ分析を通したネットワーク作り」及び「データ分析の実践力向上」を目的、「WBSにおいてのデータ分析のハブとなること」を理念に設定しました。次に、WBSの既存の部活を調べたところ、高頻度でかつWBS生自身が講師となる勉強会を行う部活がありませんでした。もちろんWBSの教授陣は素晴らしく、外部からお越しになる講師の方々も素晴らしいのですが、WBS生もすごいスキルをもった人が多くいるのに、なぜそのリソースをあまり有効活用していないのだろうかと疑問に思いました。そこで、部活動の一環としてWBS生自身が発表者となり、定例勉強会を隔週で行うことで差別化を図り、WBS内で存在感のある部活にすることにしました。その後、受講していた牧さんの授業の「技術とオペレーション」の飲み会にて、牧さんが統計の話をされていました。その際、「社会科学の研究で、バイアスを少なくするにはどうすべきか」との問いに、私は医薬統計の知識で、フィッシャーの3原則の「ランダム化」「反復」「局所管理」を答えました。それに対して、牧さんより「ではそれらが使えない状況ではどうすべきか」と追加でご質問頂きました。私は答えることができませんでした。牧さんは問いの答えとして、自然的にランダム化している状況を選び出すとお答えになりました。医薬統計を学んだことで、統計学がそれなりにわかっているつもりでしたが、分野が違うだけで知らないことが結構あるということに気づかされました。私は牧さんから統計をさらに学びたいと思い、出来たばかりのWBSデータ分析部を紹介して顧問の依頼をしました。結果、牧さんに顧問になって頂けることになりました。このことで、牧さんが統計コンテンツの提供や部の運営円滑化、適格なアドバイスをもたらして下さり、大変助かっています。牧さんの力なくしてWBSデータ分析部は成り立たなかったといっても過言ではありません。WBSデータ分析部の本格的な活動を始めると、勉強会の開催頻度が多く、課題や仕事で忙しいWBS生にとって異例の部活でした。定例勉強会は土曜日の朝9時からであったために参加者が少なかったり、場所の確保に苦労したり、価値のある勉強会にするためにコンテンツを考えたり、苦労の連続でした。特に最初の勉強会で、プログラミング言語Rをほとんど知らなかった状態で勉強会の準備を始め、3日間の仕事後の空き時間でRに関する勉強会の予備知識習得と資料作成を仕上げたのは苦労しました。仕事や課題で忙しいときも休まずに定例勉強会を開催することで、部の活動体制を確固たるものにしていきました。そうやって活動実績を積み重ねていき、WBSデータ分析部のメンバーの協力もあり、価値のある勉強会を毎回開催することができたと自負しています。この定例勉強会のおかげで、私個人としても、テキストマイニングや調査データの活用などの知識を深め、データ分析リテラシーを向上させることができています。(活動実績:R勉強会、テキストマイニング講座、調査データ講座、R-Excel連携講座 etc…)

3.これから目指すこと

活動実績ができたことにより、部としての確固たる地盤ができたと考えています。この実績を活かし、今後はこの活動をより多くの人に届けていけるようにします。発足以来、現役生のみの部活としてまずは運営してきましたが、今後は学年や現役/卒業生の枠を超えた縦のつながりのある部活にしていきたいと考えています。そして引き続き、部としての参加メンバーに対しての提供価値を高めるように奮起します。具体的には、初心者統計講座、データ分析に関するよろず相談、アンケート調査・分析の一連の練習、分析ツール開発、AIの勉強会、プログラミングのハンズオンセミナーなどを予定しています。現在、部の3大目標としては、「卒業後も続くWBS内のLearning CommunityおよびNetworkingの場にする」、「明日から使える実践的なデータ分析を身につける場にする」、「WBS全体のデータ分析リテラシーを高める」を掲げています。
WBSに在籍している期間しか周囲の方々と勉強できないことや、WBSに在籍している間しかネットワークを構築できないことは、非常に勿体ないことだと考えています。人生100年時代のうち、WBSの在籍期間はたった2年間です(もっと多い場合もありますが)。WBS卒業以降、WBS卒業生としての学習および人脈形成が困難な自分を想像し、在学中にWBSデータ分析部をこのような状況を打破する組織にしたいという強い思いを持ちました。WBS卒業後、学習意欲はあるが気軽に学べる場所がないという悩みを抱える方は多いのではないかと考えました。そのため、WBS生が卒業後も学び続けることができるLearning Communityとして機能させたいと考えています。またWBS在籍期間2年で形成される、一つ上の学年の人脈、同級生の人脈、一つ下の学年の人脈という3学年の人脈以外を築くことが困難であると考え、それを変えたいと思いました。WBSデータ分析部が学年を超えたWBSの人脈形成のハブになれればよいと考えています。以上のような理由で、このWBSデータ分析部を卒業生も参加しやすく、つながり続けられるLearning CommunityおよびNetworkingの場にしていきます。
また、複雑な公式を紹介するような勉強会ではなく、実務や修士論文ですぐに使える知識を紹介する場にします。先生方や著名人でもないWBS生がプレゼンする1回あたり1時間半の定例勉強会に、仕事や課題で忙しいビジネスパーソンには実利を提示しないとなかなか参加してもらえないと思っています。複雑な公式を説明したところで、ビジネスの役に立つシーンはそう多くはありません。それよりも説明してすぐに使える知識やツールを提供する勉強会を開催することで、価値を生み出し、参加したいと思ってもらうようにしています。授業では基礎知識を説明しないといけないことがあると思いますが、WBSデータ分析部の勉強会ではいきなり実務に直結する話を聞くことができるというメリットがあります。勉強会だけでなく、情報共有やツール開発、Slackにおけるデータ分析に関する質問の場(実務に限らず、修士論文の統計分析なども含む)もあるので勉強会に参加できない忙しい人にも参加するメリットがあります。
さらに、おこがましいとは思いますが、WBSデータ分析部がWBS全体の分析リテラシーの向上を担っていけたらと考えています。WBSで学べる場所はゼミや授業だけではないこと身をもって証明していきます。一見したら「(ゼミや授業以外の)余計なこと」をすることがあらゆる観点で、結果として自分の価値を高めることにつながると考えています。授業で得られない知識や人脈、経験はとても重要であることに加えて、自己アピールにもなっています。これは私個人の考えですが、ビジネスパーソンとしてのセルフブランディングを行い、何ができて何を周囲に貢献できるかわかりやすく提示することは非常に重要だと考えています。また、昨今のニーズのわりにWBSの授業でデータ分析の授業が少ないという声や数字が苦手な人にもわかる統計の講座をしてほしいという声、プログラミング言語 Rの初学者用の勉強会を開いてほしいといった声を聞いています。そのような声を丁寧に拾っていき、WBSでのデータ分析の学びのオプションとしての位置づけとなることを目指します。「WBS生はプログラミングもできるのですか」といったような声があちこちで上がるようにしていけたらおもしろいと考えています。
最後に、顧問の牧さん、いつも運営を一緒に行ってくれている羽鳥さん、星野さん及び活動に協力的なWBSデータ分析部のメンバー一同に感謝の意を表します。WBS生の皆様、WBSの先生方、WBS卒業生の皆様、WBSデータ分析部にぜひともご参加お願いいたします。また、WBSに限らず、WBSデータ分析部にて分析させていただける企業データや実験データ等を提供して下さる方、募集しています。加えて提携させて頂けるデータ分析関連団体様も募集しています。
(参加・詳細のお問合せは、wbs.data.analytics@gmail.comまで)


次回の更新は5月17日(金)に行います。