[ STE Relay Column 014 ]
高山 千尋 「WBS・牧ゼミでの経験とこれから」

高山 千尋 / NTTコミュニケーションズ株式会社

[プロフィール]1983年生、東京都出身。早稲田大学理工学術院 基幹理工学研究科 情報理工学科修了。2009年、日本電信電話株式会社(NTT)サイバーソリューション研究所(現 サービスエボリューション研究所)に入所。グループ各社のサービスのユーザビリティ評価・改善、ネットワーク保守者の技能継承、サービス・デザインにおける方法論について研究。2014年より現職にて、オンライン日本語教育サービス、学校向けの教材コンテンツ認証プラットフォームの企画・開発を担当。2017年4月から早稲田大学 経営管理研究科(Waseda Business School) 夜間主総合コース 牧ゼミに所属。WBSものづくり部幹事長。趣味はスキー(野沢温泉、かぐら、ニセコ)、映画。

 はじめまして。牧ゼミM2の高山と申します。
今回は、私自身とSTEの活動の紹介ということで、Relay Columnを執筆しています。簡単に、WBSに入ったこれまでの活動と、これからについて述べています。

WBSに入るまで
 大学〜研究所を通じて、人と技術に関わる分野を研究してきた。大学では人をモチベートするコンピューターの研究、研究所入所後はネットワーク保守者のトラブルシューティング(故障修理)の研究を行った。その中で常に思うのは「どんなに優れた技術でも、使いにくければ意味はない」という点である。評価用のシステムを作っても、一部使いにくい箇所があるだけでユーザーの振る舞いは変化し、そのシステムの評価は大きく変わってしまう。
 ところが、研究所にて様々なサービスについてユーザビリティ評価を行い改善提案しても、実際にその案が受け入れられることは少なかった。一方でサービスに対する機能追加は頻繁に行われ、機能過多とも呼べる状況をよく見た。このような経験を通じて、企業において、サービスの使いやすさの追求と機能追加が、どのように意思決定されるのかという点に非常に興味を持った。
 企業における意思決定は、「経営学」という分野で研究されており、近年、心理学を取り込んで発展してきている、ということを知った。研究の中で「知識創造企業」「学習する組織」「リアルオプション」などの概念に触れ、また定性と定量を柔軟に使い分けるアプローチに魅力を感じ、その分野についてより詳しく知りたいと思うようになった。

WBSでの経験
 理論と実務をつなげる場として、ビジネススキル育成だけでなく、研究・ゼミ活動のあるWBSを選び入学した。WBSで受ける授業は、とにかく新鮮であった。数え上げればキリがないが、いくつか印象に残ったものを挙げる。(履修順)
・どんなに困難な状況でも打ち手はあること(ビジネス・リーダーシップ:大島洋先生)
・企業の強みは、ときに弱みになること(財務会計:山根節先生)、
・何が本当に大きな問題か、数字をもって明らかにすること(ビジネス思考法:三谷宏治先生)
・足りない能力は、チャレンジすることでこそ獲得できること(MOT:牧兼充先生)
・市場の視点と企業の価値(コープレート・ファイナンス:岩村充先生)
・Fuzzy Front Endは、混沌としたプロセスから一つの答えを見出すこと(マーケティングと新市場創造:川上智子先生)
 これらは、書き出せば当たり前に思えることでも、具体的なケースでの議論や実プロジェクトから得られた経験は、書籍での学習では代えがたい、身になる知識になったと実感している。
 また、授業におけるグループワークでは、様々なメンバと議論する経験を通じて、仕事のスタイルや、様々な業界の特性を学ぶことができた。特に、藤本賢一さん、鈴木一喜さん、小椋崇之さん、鈴木聡史さん、伊藤由さんと行った、エーリッヒ・フロムの「自由への逃走」を読んで一つの意見文書を作り上げる「ビジネス・リーダーシップ」の課題では、多様な意見をまとめ上げる難しさを感じつつも、大きな達成感を得ることができた。他にも「組織デザイン」のグループワークでは、毎週異なるメンバと特定のテーマについて事例分析・報告することを通じて、毎回少しずつやり方を工夫する機会を得、オンラインツールを活用して議論し、短期間で成果物を生み出すノウハウを学ぶこともできた。

 所属するWBSものづくり部は、広くモノづくりに関心のあるWBS生のための部活動であり、私は幹事長を務めさせていただいている。この活動では、梶谷拓郎さん、宮本達郎、成田大輔さんという、最高のメンバに恵まれ、また、会長の長内厚先生、牧兼充先生のサポートもあり、ゲストトーク(ツチヤデザインコンサルティング 土屋氏、スイッチサイエンス 高須氏)、ホンダ工場見学・ヤマト物流センタ見学など、WBS生、OB生に楽しんでいただけるコンテンツを提供することができたと考えている。授業の課題とは異なり、自分たちで自由に進める部活動は、とても楽しい経験になった。来年度以降も、新メンバらが引き続き活動できるよう、準備を進めている。

牧ゼミについて
 牧さんとは、「技術とオペレーション」(MOT)の授業で知り合い、「なんて誠実な人なのだろう」という印象を持ったことを覚えている。授業中に出た運営上の課題は、必ず次回までに解決策を考えて試し、授業中の質問についてもFacebookのネットワークに聞いて周り、答えを持ってきていた。TAの佐々木達郎さん、平山毅さんのDJのような画面操作もあり、毎回白熱した議論が楽しい授業であった。

 「技術をどうやって市場へ届けるか」というテーマと、実験が難しい条件でも因果関係を示そうとする定量分析手法・批判的思考は、是非とも身に着けたいと考えていたため、迷わず牧ゼミを志望した。
ゼミメンバの松田大さん、林田丞児さん、草地慎太郎さん、畝村千里さんは、みんな本当に優秀かつ建設的で、私はメンバにとても恵まれたと思っている。皆、家庭・学業・仕事・部活動(牧ゼミは部長、幹事長が多い!)に忙しい中、ゼミ運営ではいつも助けてもらっている。また、創薬・ヘルスケア分野における研究開発の違いなど、これまで知らなかった分野について、より深く知れたことは、自分の業界を相対化する上でもとても意義があった。今後の新たな牧ゼミメンバとも、良い関係を作っていければと思っている。

 ゼミでは、多くのゲストの方に来ていただき、お話を伺う機会に恵まれた。みな非常に興味深かったのだが、特に、スパイバー社を起業した水谷英也さんの話は、とても印象的であった。CFO・会計士として起業を支えたリアルな体験談には、本には書けないような、資金繰りや人間関係の苦労が滲んでいた。ゼミという小さい単位で、当時を知る人たちを交えて、詳しくお話を伺うことができたのは、とても有意義な時間であった。

 スタディー・ツアーで訪れたサンディエゴは、初めて見た隆盛する産業クラスタであった。牧先生の授業にお邪魔したUC San Diegoや、成相さんにご案内頂いたIlluminaを見るに、明るい気候と兆しは、人を引き付けるのだなと改めて思った。日本にもこのような場所があって欲しい、日本の学園都市とは何が違うのか、どうすれば日本にも出来るのかと思った。
 また、初めて使ったUberでは、帰宅途中の脳外科医のお兄さん、妻のUCSD留学を機に渡米した夫、リタイアしたドジャースファンのお爺さん、朝からキャンプ・サーフィンをしている家族など、少しだけだが様々なドライバーと関わることができ、多様な生き方を見ることができた。緩やかな雰囲気は、確かに魅力的だと思った。

これからのこと
WBSでの学習を通じて、技術を世に出すアプローチは沢山あること、そしてそこには必ず強い「志」が必要であることを学んだ。将来の選択肢に「絶対」「確実」はなく、築いてきた強みは弱みにもなりうる。
これまで積み上げられてきた数多くの優れた技術を人々に届けるためには、まだまだやるべきことはある。ここでの学びを持ち帰り「人にやさしい技術」の実現に貢献していきたい。

最後に、いつも支えてくれる妻に感謝。ありがとう、あなたのおかげです。

 


次回の更新は10月26日(金)に行います。WBS修士2年の草地 慎太郎さんです。