[ STE Relay Column : Narratives 198]
高崎朋子「Go ahead, and jump」

高崎朋子 / 早稲田大学 経営管理研究科

[プロフィール]1983年生まれ。2006年早稲田大学英語英文学科卒業後、大手芸能プロダクションに入社しタレント・マネジメントに従事。複数の著名タレントの戦略立案、マーケティング、セールス・プロモーションをはじめ、あらゆる業務に携わる。2010年より独立系の音楽プロダクションでPR、セールス・プロモーション、新規事業開発を担当している。

 
 こんにちは。全日制グローバルM1の高崎朋子と申します。WBSでの1年目を終え、こちらのコラムを書く機会をいただきました。改めまして自己紹介と、1年間終えての今の心境をシェアさせていただきます。

 

バックグラウンド

 生まれも育ちも埼玉です。蔵造りとさつまいもで有名な川越にある川越女子高校で、箸が転んでも犬が歩いても笑える青春時代を過ごしました。1年生の時の成績はビリから4番目、隣の席の親友は上から数えてそんな感じだったと思います。ですが、川女生の凄いところはその圧倒的な全人的理解力にあり、誰とでも分け隔てなく一緒に学び、遊び、歌い、食べ、踊り、笑い、泣き、語り合い、尊敬し合い。かけがえのない一生の友人を得ることができました。女子校は一見多様性がないように見えますが、私のDEIへの理解は、川女での3年間で土台ができました。振り返ると素晴らしい先生方に恵まれていたのだと思います。

 学びを通して生きる力を育むことに興味があり、小説も好きだったので、ちょうどいい教育学部英語英文学科に進学しました。専攻はイギリス文学で、19世紀後半から20世紀前半にかけての文学、特にThomas HardyやVirginia Woolfの作品を好んで読んでいました。それぞれ1冊ずつ挙げるとしたら、”Tess of the d’Urbervilles”と”Mrs.Dalloway”です。当時は好きなフレーズを繰り返し口にしては、ただその響きと世界観に酔いしれているだけでした。弱き者、つながりへの渇望、超越、そういったものに対して心が動きました。また、毎週末どこかのクラブに入り浸っていまして、国内では物足りず、リバプールのフェス、ロンドンのパーティーに行くためにバイトに明け暮れるという、真面目な学生ではありませんでした。

 「音楽は作れないので、音楽を創る人を支える仕事をする。」そう決めてから、新卒でまずは芸能プロダクションに入社し、一生の恩師を得て、タレント・マネジメントにおける全てを学ばせていただきました。タレントの戦略立案、マーケティング、ブランディング、メディアリレーション、セールスにおけるいろははもちろんのこと、それ以上に与える人でいることの意義、その技術を学びました。その後、恩師に背中を押してもらい、私が日本で最も尊敬する音楽プロデューサーが代表を務める現在の会社に転職。前職で得たネットワークとソフトスキル(だけ?)を強みに、PRセクションの立ち上げから大型アーティストのプロジェクトまでたくさんの経験をさせていただきました。入社して今年で13年目となりましたが、その間に結婚と3人の出産、育児休業もいただき、仕事に家庭に、この上なく楽しく幸せな毎日を送ってきました。

 

なぜWBS?

 2017年より、新規事業開発のプロジェクトにPRとして参加しています。ヒットソングを学習した、オリジナルソングを無限に生成する作曲AIの開発です。2022年8月にWEBサービスとしてリリースしました。この新規事業に携わったことが、私のキャリア感を180度変えるきっかけになりました。新人タレントも新人クリエイターも新人アーティストも、ある意味新規事業開発ではありますが、人ではなく「モノ・コト」を価値あるサービスとしてどう創っていくのか、みなさんが当たり前のように会社でやられていることを、私は何も知りませんでした。知らないことがこんなにある、と気づき始めて以来、ワクワク感と一方で不安や焦り、不甲斐なさを感じ、全く疑問に思っていなかった自分の存在価値や存在理由について考えるようになりました。がむしゃらにやっていましたが、3人目の妊娠もきっかけとなり、この機会に新規事業開発、ひいては経営全般を体系的に学びたい、学ぶのであれば最高の環境で学びたいと決心し、母校でもある早稲田、WBSに入学しました。

 

なぜ牧ゼミ?

 ここまで私のWBS入学までの背景を読んでいただきどうもありがとうございます。ご覧のとおり、私のこれまでの歩みに、「サイエンス」「テクノロジー」「アントレプレナーシップ」「科学的思考」「大学発のスタートアップ」「イノベーション」「実験」「スターサイエンティスト」「定量分析」といったキーワードはありません。しいて言えば前述のAIですが、私が事業を興したわけではありません。ですが、牧さんのブログやこちらのコラムを読んで、このコミュニティの人たちは自分とは全く違う世界に住む人かもしれないけれど、価値観、大切にしているもの、思いは、もしかしたら同じなんじゃないかと、出願前より勝手に共感していました。

 私は何よりもまず人への興味が先行します。人が好きです。どうしてその作品(音楽のみならず技術、製品、サービス、事業、組織含め、作品とします)を作ったのか、どんな背景があるのか、何が原動力なのか、どうすればその人がもっとクリエイティブに、能力を最大限発揮することができるのか、組織行動と能力開発に興味があります。全日の牧ゼミではちょうど行動経済学に関する文献のリーディング、アクティビティに取り組んでいました。ゼミ見学ではIMBA生のそのレベルの高さに圧倒されてしまいましたが、真っ新な気持ちで一から学び、新しい自分の強みはここで増やしていきたい、そして彼らと一緒がいいと思い、牧ゼミにジョインさせていただきました。

 

牧ゼミでの1年間

 春学期前半は、HBRやIrrational Lab.の記事やDan Arielyの著書のリーディング、そしてディスカッションを通して、行動科学の基礎と実験デザインを学びました。後半はフィールド実験に関する学術論文をピックアップしサマリーをプレゼン、そして一人ひとりが実際にフィールド実験のデザインに取り組みました。

 正直なところ、リアルタイムで内容をすべて理解できていたかと言うとできていませんでしたし、今でも「あれは何だったんだろう、どういう意味だったんだろう」と頭に浮かんでは、miroのアーカイブを見に行ったり、共有されたスライドやGoogleドキュメントのメモを繰り返し見返しています。英語もろくに話せなければ内容の理解にも人一倍時間がかかるので、事前の準備でカバーするよう努めました。グループワークに際しては予め英語で台本を作り、スライドのドラフトはまず私が担当させてもらい、英語でのプレゼンは何度も練習。同じグループだったBenに事前にチェックしてもらうなど、振り返ると必修科目や選択科目より張り切っていましたが、少なくともこの春学期の成果?はTOIECのスコアには出ていました。(ゼミ活動だけで740から840に!)

 秋学期は牧ゼミIMBA1期生、財政破綻に陥ったスリランカ出身のRameshのためのビジネスデザイン、IDEOのオフィス訪問、人的ネットワーク構築に関するシュミレーションワークショップをはじめ、他にもたくさんのアクティビティがありました。振り返ると全てのプログラムはリンクしていて、先端的なアカデミックな知見を体系的に学んで終わりにするのではなく、必ず実践がともなった形で設計されていました。何より、内省を促すような、さりげないメッセージや仕掛けが随所に散りばめられていたように思います。

 

新学期に向けて

 これまでのキャリアとしましては一貫して、大きな夢を語る人のそばで、その人の夢を叶えるためのあらゆるサポートをする仕事をしてきました。それは私の天職であり、さらに極めていきたいと考えています。ですが、牧ゼミでの学びと活動を通して、少し欲が出てきてしまいました。私自身の夢です。

 今年の11月で40歳になります。40代ではクリエイティブな人材・組織開発におけるエキスパートになり、人の能力や可能性を最大化させ、持続的成長を実現できる社会を創る担い手の1人になることを目指して、M2ではさらに濃い1年間を過ごしたいと思います。


次回の更新は3月3日(金)に行います。