[ STE Relay Column : Narratives 143 ]
下平 哲大「Hello, New World ~2021年春学期までを振り返って~」

下平哲大 / 早稲田大学経営管理研究科 / ライオン株式会社

[プロフィール]千葉県千葉市出身。理学修士(生化学)。大学院修了後にライオン株式会社に入社し、一般用解熱鎮痛薬の研究開発、頭痛、腰痛等の痛みの発生メカニズムの基礎研究に従事。2020年より企業派遣で全日制グローバルに入学。大企業からのイノベーション創出を軸に日々見慣れない理論群と格闘する傍ら、コロナ禍の運動不足解消も兼ねて趣味であるテニスのスクールにも通い、ダブルスクール通学を実践中。

はじめに
こんにちは。全日制グローバルM2の下平と申します。第一回のコラムでは、WBS入学の目的と、入学早々に履修した牧さんの授業「科学技術とアントレプレナーシップ(STE)」の所感を書かせて頂きました。前回のコラム投稿から一年が経ちましたので、ゼミ活動を中心にこの一年を振り返り、残り7カ月間のWBSでの抱負について書かせて頂けたらと思います。第一回の私のコラムはこちらです。

ゼミ活動の振り返り|3つの牧ゼミ
現在牧ゼミでは、3つのゼミが動いています。4月・9月入学の全日制グローバル生が英語で行う英語ゼミ、全日制グローバル4月入学生が日本語で行う日本語ゼミ、そして夜間主総合プログラムの夜間主ゼミです。残りの一年間、イノベーションとアントレプレナーシップにさらにどっぷりと浸かりたいと思い、この春学期はこれらすべてのゼミ活動に参加させて頂きました。3つのゼミ活動に参加して思うことは、メンバーの目的やキャリアステージに合わせて、全てのゼミが異なる内容を扱っており、どのゼミに出ても新しい知識や経験が得られるということです。今学期、3つのゼミ活動に参加した立場から、それぞれのゼミの特徴と残り7カ月の抱負を記していきたいと思います。

全日制グローバルの英語ゼミは、グローバルな感覚を身に着けるための、ディスカッション、ファシリテーション、プレゼンテーションの“実践の場”と感じています。今期はアルゼンチン、アルジェリア、ウガンダ、タイ、台湾、中国、日本と7各国のメンバーが集まりワークショップから書籍の輪読まで、様々なトピックスをカバーしました。Nickが修論に機械学習を活用し、Pythonのレクチャーを開催してくれたことはプログラミングを始めるとても良いきっかけになりました。個人的には英語でのディスカッションに貢献できずに落ち込むことがめちゃくちゃ多かったのですが、日本人メンバーとリアルタイム翻訳ツールを試したことや、ゼミメンバーであるかみちゃんAlexOwenと英語・日本語のランゲージエクスチェンジを行い、言語を相互に教え合うことでコミュニケーションハードルを克服することができた経験は、今後グローバルでビジネスに取り組む際にも確実に役立つ経験であったと感じています。残りの7カ月では、一段目標を上げて、メンバーの学びになるような発言の回数を増やし、ラーニングコミュニティ活性化に貢献したいと考えています。

全日制グローバルの日本語ゼミは、当初は英語ゼミ内容のバックアップとして始動しましたが、今期は日本語ゼミオリジナルの内容として社会科学の研究手法に関する書籍輪読に取り組みました。そもそも、「定性、定量研究の違いは何か?」、「質の高い研究とは何か?」、「科学的とはどういうことか?」という普段何気なく使ってしまっている日本語の定義と境界線を歴史的変遷も含めて改めて深堀することでこれらの概念への理解を深めることができました。恥ずかしながら、自分自身、研究者と名乗っておきながら、「科学」ということについてこれまで深く考えたことがありませんでした。前職の研究所でもこのような話をする機会はなかったため、大変貴重な機会になりました。また、ゲストスピーカーとして、クラスター研究がご専門の東北大学 福嶋先生、GoogleでGrow with Googleという教育プロジェクトを主導されている岩田さんにお越し頂き、日本のイノベーション、DXの事例について学びました。このように、日本語ゼミは、素朴な疑問も含めメンバーとわからないことを“とことん質問・議論する場”だと感じています。

最後に、今期から参加させて頂いている夜間主総合ゼミは、定量論文をゴリゴリに読むのかと思っていたのですが、ここまで参加させて頂き、“ナラティブと情熱を交換する場”だと感じています。定員が6名ということもあり、牧さん含めた各メンバーの生い立ちや悩み、ライフマップからゼミがスタートしたのがとても印象的でした。続いて、リーダーシップとチームワークの構成要素を体験できるエベレストシミュレーション、ネットワーク理論に関するレビューとネットワークの可視化、HBSのケース“Heidi Roizen”など、メンバーの価値観やモノの見方、ありたい姿の相違点を相互に確認できる機会が多く設けられていたと感じます。私の職場ではここまでメンバーの相互の価値観や人生観を知る機会はないのですが、これらの観点を知ることができると、メンバーの意見や発言の意図を一歩踏み込んで捉えられるようになることを実感しました。私がWBSに入学した目的である、ワクワクして実験する組織を実現するためには、このようなコミュニティ作りが必要だと痛感し、修士論文でも心理的安全性を扱うことを決めるきっかけにもなりました。

ゼミ活動を越えて|ケースライティングとファシリテーション実践
2021年の春学期では、ゼミ活動外で2つの貴重な実践の機会を頂きました。一つは、Global Catalyst Partners Japan(GCPJ)のStructured Spin-In(SSI)モデルの成功事例をケース教材化するプロジェクトで、もう一つは京都大学が主導するHealthcare Innovation Design Entrepreneurship Program(HiDEP)でのデザイン思考ワークショップのファシリテーションです。

GCPJのSSIモデルは、コラム029を執筆した大澤さんが始めた日本の起業環境の活性化と大企業からのイノベーションの創出を目指す非常にユニークな仕組みです。そのSSIモデルの仕組みを、コラム076を執筆した松田さん、コラム 077を執筆した土肥さんがケースAとして教材化し、私はSSIモデルのExitの成功事例をケースBとして教材化するという形でバトンを引き継がせて頂くことになりました。1年間、溺れながら学んだ理論や知識を基に、ベンチャーキャピタリストであり、日本の起業環境を活性化したいという熱い思いを持った大澤さんと、SSIモデルを活用してExitを成功させたベンチャー経営者の飯島さんにインタビューできたのはとても刺激的な実践の機会でした。事前に公開情報と対応する理論を整理してインタビューに臨んだのですが、実際のインタビューでは想定とは異なり、起業からプロダクトマーケットフィットに至るまでの様々な苦労や工夫を伺うことができ、現場の“生”の情報がとても重要であることを痛感しました。企業派遣で現場から離れていたこともあり、MBAの一年間を通して自分が客観的になりすぎていること、整理されたきれいな情報や理論ばかりに触れてきたことを痛感し、実践の重要性を強く認識しました。残りの7か月間は、実践の比重を高め、自身の主観とやりたいこと、事業アイデアの構想と実行に時間を使おうと決める重要なきっかけになりました。

HiDEPでのデザイン思考ワークショップのファシリテーションは、情報としての知識を教えることと、相手の気づきを引き出すことは全く異なることだと痛感する実践の場になりました。以前のコラムで、WBSに二年間で「魚の釣り方を他人に教える」能力を高めたいと書いていましたが、「魚の釣り方」というメタファーを、今回の経験を通して一歩理解を深めることができたと感じました。文字や言語化できる情報を単に教えるだけでは魚を釣れるようにはなりません。他人が魚を釣れるようになるには、こうすれば釣れる!という体験を通した気づきを引き出すことが重要になると考えます。この気づきを引き出すためには、参加者の過去の経験とワークショップの共通点・相違点を見つけ出すような質問や課題、またそれらのタイミングを事前に注意深くデザインすることが重要になると考えます。秋学期のゼミでは、GCPJのケースBを題材に、この気づきのプロセスを自身で設計してケースリードすることで、気づきを引き出すファシリテーションスキルの向上につなげ、自社でのラーニングコミュニティの形成に繋げたいと考えています。

おわりに
今回コラム執筆に際し、一年前のコラムを見返すことで、この一年で出来たこと・できなかったことを棚卸することができました。M1では新しい知識と情報に溺れ、M2で整理!と思っていましたが(笑)、M2でも相変わらず新しいことを始めたり、挑戦したりする機会が本当に多く、牧ゼミの本当によいところだと思います。残りの7カ月も、常に新しいことや少し居心地が悪い環境にあえて身を置いて、全力で走り抜けたいと思います。
ここまでのご指導と、コラム執筆を含めいつも貴重な機会を下さる牧さん、そしてゼミメンバーに改めて感謝申し上げます。乱文を最後までお読み頂きました皆様、誠にありがとうございました。このコラムが少しでもお役に立てば幸いです。

 


次回の更新は9月3日(金)に行います。

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