[ STE Relay Column 034]
宇佐見 彰太「ビジネスのフィールドで、第二のカンブリア紀を起こしたい。」

宇佐見 彰太 / 住友商事株式会社 

[プロフィール]1990年、東京生まれ。2歳から19歳まで、北海道札幌市で育つ。東京大学文学部歴史文化学科(西洋史学)卒。
在学中、ソーシャルベンチャー Ridiloverにおいて社会課題現場へのツアー企画・運営、社会課題解決を主たる目的に掲げる社会起業家・起業・個人のカンファレンス R-SIC(Ridilover-Social Issue Conference)の運営をお手伝い。卒業後、住友商事に入社。インフラ事業を担う部門の企画部署において戦略・業績管理・ガバナンス関連の業務を担当。2018年より早稲田大学ビジネススクール(夜間・修士課程)に所属。
『マッキンダーの地政学(H・J・マッキンダー)』『なぜ、それに気付かなかったのか(チャールズ・W・マッコイJr.)』『スプートニクの恋人(村上春樹)』等、好きな本多数(著書なし)。特技は店の常連になること、動画作成。元コピーライター志望の旅好き人間。(写真:サハラ砂漠にて)

2019年2月25日月曜日、私は赤坂見附のルノワールの不自然に奥まった席でこのコラムを書いています。もうすぐ麻生裕一と井上渉という2人のパートナーがやってきて、これから動き出すプロジェクトの打合せをする予定です。このコラムでは、その「プロジェクト」に懸ける私たちのビジョンと、その周辺でなんとなく思うことを書くつもりです。

                   ◆ ◆ ◆

その前に、少し自己紹介をさせていただきます。私の名前は宇佐見彰太です。幼少期から小・中・高と北海道の札幌で育ち、一年間の浪人生活ののち、東京に出てきました。大学ではラクロスに明け暮れ、教室で過ごす何倍もの時間を練習場・ジム・銭湯のトライアングルで過ごし、気づけば学部5年生。ようやく勉強かと思いきや、先輩方からベンチャーの仕事をもらい、毎日のように仕事場に通う日々でした。当時の仕事として、動画広告配信プラットフォームの会社をお手伝いするとともに、後段に登場するRidiloverというソーシャルベンチャーのお手伝いもしていました。さまざまな出会いもあり、仕事そのものの面白さに目覚めたのはこの1年があったからだと思います。この時期には、ちょこちょことバックパック旅行を挟んでおり、ウズベキスタンやトルコ、モロッコ等、15ヶ国ぐらいを旅しました。その後、住友商事という総合商社のインフラ系の部門に就職し、部門の企画系の業務を担当しながら仕事・ビジネスの基礎を学び、2018年4月に早稲田大学ビジネススクール(WBS)に入学しました。(その入試の面接が、牧さんとの出会いでした。)

自己紹介を書くたびに思うのですが、とにかく一貫性が見出しにくく、バラバラです。サッカー、ラクロス、歴史学・地政学、動画広告、ソーシャルベンチャー、バックパッカー、インフラ、ファイナンス、イノベーション、経営学にカメラマン・ムービーメーカーと、関心領域・やってきたことのどれをとっても全くもって専門家ではありませんが、何か面白そうなことが起こりそうな方向へ、興味のままに進んできました。これまでのカオスから何か形あるものをつくれるようになりたい、つくりたい、というのがWBSに来るにあたっての私の想いであり、今回の「プロジェクト」に懸ける個人的な想いでもあります。
                   ◆ ◆ ◆

「プロジェクト」の話に戻りましょう。私は今年から、前述の麻生・井上、(本日欠席の)加藤昌文と(現在のところ)4人のWBS同期生で、”Inclusive Business & Innovation Lab.”という団体をリードしていきます。この団体は、WBSに昨年発足した”Inclusive Business & Innovation Student Club”をリニューアルする形で引き継ぐものです。「急にInclusive Businessと言われましても…」という声が聞こえてきそうですが、それが何かは一旦置いておいて、私たちがやりたいことは、「社会課題の現場にビジネススクール生が実際に行き、そこで社会課題解決型のビジネスプランニングを実践的に学ぶ場をつくること」です。

しばしば「今や企業は自社の経済的価値のみを追求するのではなく、環境的価値や社会的価値を提供することが使命である」などと語られるのを目にします。確かにその通り、その通りだと思います。しかし、社会課題の現場に行くことの意義は、こうした言説よりももっと生々しいところにあると考えています。私は、大学5年目のおよそ1年間、株式会社Ridiloverというソーシャルベンチャーをお手伝いしていました。Ridiloverという会社は、社会課題の現場で活動する企業・NPO・個人と一緒にスタディツアーをつくり、それを個人向けツアー、企業研修、修学旅行の一部として提供し、収益の一部を現場に還元する事業を主軸にした「旅行会社」です。そこでの活動の中で目にした、現場で課題解決に取り組む人の姿は勿論印象的でした。しかし、最も私の記憶に焼きついたものは、現場で学ぶ中でみるみる顔つきが変わっていく参加者たち、ひいては数か月後に現場へ移住してしまう人たち等、課題の現場がその人の人生やキャリアに影響する様子でした。その人たちはなぜ移住までするのでしょうか。おそらく、そこに生活基盤があり、コミュニティがあることは大前提ですが、某登山家風に言えば「そこに課題があるから」移住するだと思っています。私たちは、ビジネススクールの仲間にその衝撃を体感してほしいと考えています。その衝撃が、その人の仕事やキャリアに影響することで、さまざまな社会課題の現場に還元されるものがあるはずだと考えています。

                   ◆ ◆ ◆

さて、今回のコラムのタイトルには、「ビジネスに第二のカンブリア紀を」と銘打ちました。カンブリア紀とは、今から5億年以上前に生物種が爆発的に増加した時代のことです。これは、私の祖父の古くからお付き合いがある文筆家の方から伺った話ですが、この爆発的な進化の引き金となったのは、目の誕生だったとのことです。目が生まれると「距離」が生まれ、距離が生まれることで「時間」が生まれ、そして生き物は「考える」ことができるようになった、これが爆発的に多様性を生み出したとの話でした。目が生まれて、それまで触れることによってしか対象を認識できなかった生物が、対象と離れた状態で認識できるようになること。これが「距離」の誕生。距離があれば、接点を持つまでに時間がかかるので、相手が何者なのか、自分はいま危険なのか否かを考えることができる、という具合です。翻って現代の人の暮らしやビジネスを考えたときに、この「カンブリア紀」の話はとても示唆に富んでいるなぁと感じています。というのも、指先で触れているスマートフォンから大量の(しかも自分にとって都合がいい)情報が流入する現代において、人は情報に対してゼロ距離で接することが多くなっていると思われるからです。先程の話になぞらえれば、カンブリア紀以前の「距離をとって考える」ことができない状態になっているのではないか、ということです。Ridiloverにいた頃、創始者の安部敏樹は、社会課題には「認知の壁(見えないものには関心が持てない)」「関心の壁(社会課題の情報がまとまっていない)」「現場の壁(課題の現場へいく術がない)」という3つの壁があるという話をしていました。これはまさに「見る」こと、「考える」こと、そして「距離」ことに相当すると思います。そしてこの、リアルな「距離」を挟んだ対峙こそが現場にいく意味だと思うのです。

いま、企業の影響範囲は非常に広範になってきていることは誰もが認識していることと思います。その中で、Inclusive Businessとは、これまで見過ごしてきた「自社の影響範囲」について(CSRやCSVの時代以上に)視界を広くもち、そこで起こっている課題の本質を考え、働きかけるビジネスの在り方であると私は考えています。組織が人の集まりだとするなら、そしていまの時代が、「距離をとって考える」ことがしにくい時代になっているのなら、上記のような人・組織・社会の関係性をつくっていくためには、「見て」、「距離をとって考える」ことのできるリーダーが必要です。

そんなワケで、私たちはビジネススクールの仲間と社会課題の現場を繋ぐ場をつくり、誰かの所属する企業の在り方や、誰かのキャリアにスパークを起こしたい。そのスパークが、社会課題の現場に対してプラスの還流を生むInnovationを起こすタネになる。やがて爆発的に様々なビジネスが生まれる土壌になる。それがタイトルに記した「第二のカンブリア紀」の意図したところでありまして、Inclusive Business & Innovation Lab.をその一端を担う場にできるように頑張ろうと思います。

                   ◆ ◆ ◆

これで最後の一節です。スタートラインに立って、そわそわしながらもどことなく感覚が研ぎ澄まされていくあの感じ。小学校のかけっこに出るときなんかに感じたことがあるのではないでしょうか。私はいま、いいトシしてその状態です。それでも、とても楽しみです。Inclusive Business & Innovation Lab.という場を任せてくださり、ここに発信の場をくださった牧さん、甲子園球児に優るとも劣らない熱量で関わってくれているパートナーたちに、私はとても感謝しています。また、さまざまな形でご意見・アドバイス等、支援して下さるWBSの方々、WBSに通うことをサポートしてくださっている私の会社の方々、家族・友人たちにも、とても感謝しています。WBSに入学して、何よりもよかったと思うのは、こうした熱量のあるディスカッションパートナーが沢山できたことです。しかも皆多様なバックグラウンド・経験・問題意識を持っている。そんな方々とディスカッションをさせてもらえる時間は、とても貴重で贅沢で幸せなものです。一方で昨年1年を振り返ると、なんとなく、殆どの時間教室にいたなぁという気もします。たまには教室を飛び出して、一緒に現場で学びに行きましょう!新入生の方も卒業生の方も、是非ご一緒させてください。そして僭越ながら、この活動にご興味のある方や、「現場もってるよ!」という方と是非つながりたいなと思います。

さて、「いい加減帰れ」という意味でしょうか、3杯目のお茶が出てきました。
お読みいただいた方へ、ありがとうございました。
 


次回の更新は3月22日(金)に行います。