[ STE Relay Column : Narratives 184]
海老原 瑞貴「2022年Lab to Marketを受講して ~”That’s gonna be huge!”」

海老原 瑞貴 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]愛知県出身。名古屋大学生命農学研究科修了。2008年伊藤忠商事(株)に入社後、化学品部門で化学品商品の営業に従事。プラスチックの原料から飼料添加物や食品添加物まで幅広い商品を取り扱う。バンコク駐在を経て、2021年より伊藤忠ケミカルフロンティア(株)に出向し、食品添加物や農薬の営業を担当。
2021年に早稲田大学大学院 経営管理研究科夜間主総合コースに入学、菅野ゼミ所属。
趣味は海外旅行と、大学時代から始めたアイスホッケー部のマネージャー。現在も社会人アイスホッケーチームに所属。早稲田でホッケー部の学生に出会えないかと内心目論んでいたが、未だ巡り会えず。

『この授業の特徴は、「サイエンス」と「アントレプレナーシップ」の関係を (1) シーズとしての「サイエンス」の商業化、 (2) 新事業創造の手法における「サイエンス」の活用、の2つの観点から掘り下げる点にある。』という、「Lab to Market: 科学技術の商業化と科学的思考法」のシラバスの一文を読んで、就職活動時の初心を思い出しました。

 現在商社で営業をしている私ですが、実は学生時代はバイオ系の研究者を目指していました。院生時代に英国企業に研究留学をしていましたが、帰国後、恩師 北川泰雄教授が急逝されたことをきっかけに、180度進路が変わりました。
 その際に強く思い出したのは、イギリスでの生活です。滞在していた企業はケンブリッジ大学の研究室から派生して、サイエンスパークに居を構えるいわゆるベンチャー企業。2回の留学の間に、だんだんとオフィスが広くなり、従業員数もどんどん増え、活気のある企業でした。その企業を見て、研究室のシーズを起業という形で世に出せるのだ、という事実に驚いたと同時に、日本の大学には世の中に出せていないシーズがたくさんあるのに…と残念に思いました。(日本の)研究者はビジネスを知らないのでは、と強く危機感を持つも、理系学生の私にはビジネスって何?状態です。そこでまずはそもそもの『商売』を勉強しようと考え、総合商社に入りました。
 しかしながら、楽しくも日々の業務量に忙殺される15年間を過ごし、自身がやりたいと思っていたことを忘れてしまっていたのでしょう。MBAへの進学を決めたのも、そろそろ投資案件に携わる様になり、投資判断やその後の企業経営についてきちんと学びたい、またこれまでやってきた仕事は正しかったのか、といったことを見つめなおしたいという思いからでした。

 そんな早稲田での多忙な1年が終わり、必修科目をほぼ取り終え、少しだけ余裕のできた私が出会ったのが、冒頭の「Lab to Market」のシラバスです。
 なんということでしょう!若かりし頃のピュアな私がやりたかったこと、がまさにこの授業の内容ではなかっただろうか!思い出す研究室での日々、就活時の葛藤…
 牧先生の授業は課題が重いと定評があり、生後半年の乳飲み子を抱えた私は、自分で自分の首を絞めるのでは、と一抹の不安を抱えつつも、Week01の授業での牧先生のお話に聞き惚れ、家族の反対を押し切って受講を決めました。
 結果は、もちろん大満足の8週間でした。あの頃の私がやりたかったこと、のスキルは十分身につけられたと考えています、が、それだけではありません。
Week02に仮説思考を学んだ際は衝撃的でした。あれれ、これって昔はできていたよね!? 15年間の効率と成果を求められる日々の中で、すっかり抜け落ちていた能力…。いきなりの挫折。でもここでそれを取り戻せば、成長できるはず!と思い直し、本授業では恐れずに仮説検証を繰り返しました。
 本授業では限られた時間の中で、選んだシーズの事業化の可能性をいかに広げるか、チームなりの案を提示しなくてはなりません。私が幸運だったのは、楊さんと速水さんという優秀且つ優しく寛大なお2人とチームになれ、突飛な意見も否定することなく、面白いね!と言って頂ける環境が瞬時に出来上がったことだと思います。そんな心理的安全性の高いチームの中で、実に10種類以上の案を出し合いました。まさに仮説検証。
 また研究室の研究者の方々や、インタビューを受けて頂く方にも恵まれたのも大変ありがたかったです。(ご紹介下さった脇さん、ありがとうございました!)
 私達の案に対して、研究者の方から「なるほど、その使い方は考えてもみなかった!」と言って頂けた時、そして企業の方から「この素材で、この使用方法を思いついたのは誰ですか?これ以外考えられない!」と言って頂けた時には、感動と達成感に胸が震えました。正直、課題のことなんて忘れて、このシーズをいかに世に出すか、を純粋に考えぬいた8週間でした。過程で得たものの大きさは言い表せません。

 そんな純粋な気持ちで取り組めたのは、牧先生の奏でる交響曲とも言える授業構成にあったのではないか、と考えます。

 仮説検証からNarrative speakingまで、毎回100ページもスライドがあり(後々、読み返したいスライドを探すのも一苦労!作る牧先生の作業量はいかに!?という充実度。)、最終発表に向けたエッセンスが各所にちりばめられた緻密な構成。序盤にStokeでチームの心理的安全性を高めたのは、さすがとしか言い様がありません。上述の通り、心理的安全性はグループワークに欠かせない要素でした。ちなみに、牧交響曲に身を任せていると、自然と自分も音楽を奏でないといけなくなりますので、要注意。但しどんな音痴な発言もTakeawayも受け入れてくれるLearning communityがそこにありますので、ご心配不要です。
 尚、この授業は受講者である我々すらも被験者に仮説検証を繰り返し、来年以降もどんどん進化するそうです。まさに”That’s gonna be huge!”
 
 個人的には来年何らかの形でお手伝いできたら嬉しいですが、5年後くらいに存分に進化した交響曲L2Mを再度受講するには、どうしたら良いでしょうか?牧先生!!


次回の更新は10月14日(金)に行います。