[ STE Relay Column 031]
岡田 直也 「集中講義-深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーションを受講して-」

岡田 直也 / イオン株式会社 

[プロフィール]イオン株式会社にて、薬剤師資格を活かしながら、主にヘルスケア領域での店舗運営や立ち上げなどに従事。2017年から早稲田大学ビジネススクール(全日制グローバルコース)に企業派遣として入学し、マーケティングゼミである川上智子ゼミに所属。2019年3月修了予定。



-素晴らしい講義を受講できたことに感謝-


初めまして。早稲田大学ビジネススクール(以下、WBS)の修士課程に所属する岡田直也と申します。これから書くお話は、「深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション」というWBSの集中講義を受講し、私が感じたことを書きました。この講義は、WBSの数ある講義の中でも、物事の本質を考える能力の向上・情報密度の高さ・講師の熱量、どれをとっても最高レベルの本当に素晴らしい講義でした。この講義を通じて、新しい価値観と、深センで、正解のないイノベーションがどうやって生じているかの本質を理解できました。ムーアの法則(後述)がもたらした物は何か、それによって、私達の生き方がどう変わろうとしているのかなどなど、本当に気づきが多い講義でした。簡単にまとめると、今まで難しかったハードウェア領域ですら、深センのようなやり方であれば、誰もが短時間・低コストで、ビジネスに挑戦が可能な時代が訪れました。だからこそ、まずは、自分の力で、小さくプロダクト作りをやってみること!Learning by Doing !それこそが、これからの時代のイノベーションの源泉であるということです。パワーポイントでプレゼンを作る時代から、まずは、プロダクトを作ってみる時代へ。本講義からは、このような新しい価値観の大切さを理解すると共に、深センなら、圧倒的低コストと短時間でそれが可能であり、深センを支えるエコシステムが、どのような背景で生まれ、どのように機能しているのかをクリアに理解することができました。また、マスイノベーションを学ぶ為のこの講義自体が、イノベーションを起こしています。その点もこの文章でお伝えできたらと思います。



-2つの種類のイノベーション-


本講義では、イノベーションを2つに分類してお話がありました。それが、正解のあるイノベーションと正解のないイノベーションです。正解のあるイノベーションのわかりやすい事例が、半導体業界の成長でした。それを支えたのが、ムーアの法則です。ムーアの法則とは、半導体の集積密度が18か月から24か月で倍増するというもので、言い換えると、コンピューターの性能が、時間軸に対して、指数的に向上すると言うことです。半導体をできるだけ小さく製造し、単位面積当たりで、たくさん設置できれば、コンピューターの性能のイノベーションが進むことになります。つまり、イノベーションを起こす為に、何をすべきか方向性がわかること、これが正解のあるイノベーションになります。講義ではこのことを、外部講師として、ムーアの法則に詳しい金沢大学の秋田純一教授が来られ、文系の方でも理解できるように、とてもわかりやすく丁寧に教えてくれました。今では、私も1時間くらいムーアの法則について語れるくらい理解を深めています。そして、このムーアの法則は、世の中で起こっている様々なコストダウンに大きな影響を与えており、さらには、それがそろそろ限界に来ていて、すると世の中がどうなっていくのかなど、大局的な視点を考える機会を与えてくれました。1つの物事の本質から、大局を考える力は、まさにMBAに必要な価値そのものであり、本講義は、全15回全てにおいて、このような素晴らしい知の提供機会をいただけました。だから、間違いなく価値のある講義だったと言えます。



-正解のないイノベーション-


正解のないイノベーションとは何か?簡単に言うと、初音ミクのような好みが分かれるものです。言い換えるなら、好きなことを全力でやっていたら、いつの間にか世の中に必要とされる仕事になっていたみたいなものです。近年、こちらで大化けしているビジネスが多数存在しています。例えば、ソフト領域では、FacebookやInstagram、ハード領域では、ドローンなどです。好きなこと軸でやっていたことが、いつの間にかお金を生み出すようになり、世界に必要とされるサービスやプロダクトになっています。深センでは、ハード領域でこのようなイノベーションがマスで生じています。これは本当に凄いことです。これらについて、講義では、深センしかできない、たった12ドルで販売しても、利益を生み出せる携帯電話の製造メカニズムから、公板(ゴンバン)などが支える特殊なエコシステム、オープンにすべき知財と、そうではない知財など、深センのイノベーションの根源について、事例盛りだくさんでわかりやすく解説されました。西洋ではあり得ないエコシステムが、深センにあり、それらが密接に機能することで、誰もが、少額の投資金額と、通常の半分の時間でハードウェア製造に何度も挑戦できる環境が生まれ、それらが、マスイノベーションの源泉であることをクリアに理解することができました。また、中国製品を買うと、箱と中身が違うことがありますが、これもちゃんとした理由が存在していることを学べたのは大きいです。ニュースで流れている中国の情報がいかに間違っているかを少し理解できるようになり、情報処理の為の羅針盤を、沢山手に入れられたことも、本講義の大きな価値の一つでした。



-牧兼充准教授が起こしたMBAの講義のイノベーション-


この授業の立ち上げを行い、我々学生に素晴らしい学びの機会を用意してくれたのが、WBSの牧兼充准教授です。本当に感謝しています。今年初めて立ち上げられた本講義でですが、メインの外部講師であるスイッチサイエンスの高須正和さんの講義をWBSの正規の講義として認めて貰うことは、本当に難しかったと考えます。なぜなら、高須さんは、履歴書という従来型の枠に全く収まらない経歴の持ち主です。つまり、世の中にある言葉が古すぎて、高須さんの仕事を上手く表現できる言葉がないのです。高須さんのお仕事は、正解のないイノベーションのど真ん中なのです。正式な単位を与える有名大学の外部講師として、高須さんを認めて貰えたこと自体、異例中の異例だったと思います。まさに、MBA講義のイノベーションです。肩書きというラベルを超えた人選を通すことは、本当に困難を極めたと思います。牧先生も素晴らしいし、これを実現するために、多くのサポートを提供された淺羽茂教授や川上智子教授をはじめとするWBSの教授陣も本当に素晴らしいと思いました。牧先生が実現したことは、大学院教育における正解のないイノベーションです。わかりやすい肩書きの外部講師や有名教授を呼んで行う講義は、ある意味、正解のあるイノベーションです。そして、従来型の大学が得意とする教育も、もちろん正解のあるイノベーションです。でも、不確実性の高い現在、ビジネススクールに通っている人が本当に学ぶべきことは、実は、高須さんのような生き方の中に多く存在していたりもします。また、高須さんのような生き方の方は、自分の好きな領域を広く深く研究されているため、野生のアカデミックだったりもします。



-メイン講師であるスイッチサイエンスの高須正和さんと豪華なゲスト講師陣-


本講義のメイン講師である高須正和さんの紹介文を書くことが本稿で1番難航した点であることは間違いありません。なぜなら、高須さんのお仕事自体が、正解のないイノベーションど真ん中だからです。高須さん自身は、メーカーフェアおじさんと公言されていますが、メーカーフェアが好きで、参加して学んで楽しんで、その内容を多くの人に伝え、コミュニティを作ったりしていたら、いつのまにかそれが周りから必要とされ、仕事になっていたという方です。私は、高須さんをプラットフォーム型人間、かつ、野生のアカデミック教授であると考えます。両方自分の好きなことを好きなだけやり続けるという前提から始まり、前者が、熱量の高い仲間を増やし繋がり情報交換する、後者が、自分の熱量を行動に変えて研究しながら、どんどん学びを深めていく、その際、実務とかアカデミックとか関係なく、面白そうだから繋がって学ぶ、その知見を整理して、外部にわかりやすく翻訳して伝える、それを繰り返している方だと考えたからです。つまり、高須さんの仕事を○○の仕事と括れないのです。好きなことをしていたら、いつの間にかお金が貰えるようになった典型的な方です。講義でも、好きだからこそ伝える熱量は素晴らしく、翻訳力も、クロックアップ(難しい専門用語)をマグロの赤みとかで例えてしまうくらいわかりやすく、すごくディープな知識を持ちながら、視野が広い為、常に本質と大局についても語れる最強の野生のアカデミック教授だと思いました。このような素敵な方に出会えて、15回も連続して講義を受けられたことは本当に感謝しかありません。そんな魅力的な方だから、ゲストとして高須さんの講義をサポートされた方々もとても豪華でした。ムーアの法則では、バリバリのアカデミック教授の金沢大学の秋田純一教授が説明に来られ、中国についての講義では、東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授やジェトロ・アジア経済研究所の木村公一朗さんが来られ、実務では、電子部品業界として、スイッチサイエンスの代表である金本茂さん、スイッチエデュケーションの代表である小室真紀さんが来られ講義され、コミュニティ作りの挑戦では、ヤフー株式会社の水田千恵さんがヤフーロッジの取り組みについて講義をされました。アカデミックと実務を上手く繋ぎながら、所属に関係なく、これだけ多才で多様な人を呼び込めるのは、ひとえに、講師である高須さんの魅力そのものだと思います。そういった意味でも、いわゆる所属というラベルに関係なく、それを簡単に超えていける人こそ、これから必要とされる価値のある人だと学びました。



-これからのMBAのあるべき姿について-


改めて感じることは、これからのMBAにおいて大切な物とは何かです。
私がMBAの講義に期待するものをまとめると下記の3点です。
1.物事の本質を捉えられるようになれること(そのための正しい情報処理能力の向上)
2.思考の際の羅針盤となる知識が得られること(理論などの先人の知を正しく使う能力)
3.熱い想いが残り、自分の美学や哲学に強く影響を与えること(価値観の広がりと変化)
ビジネスの成功は、次々と生じる未知の問題に対して、本質は何かをちゃんと見据え、羅針盤を上手に使い分けながら、いろいろな価値観が存在する中で、私はここで勝負すると、熱い想いで走りきる(グリッド)ことだと思います。つまり、1→2→3が揃って初めて上手くいく。だからこの3点が学べることが本当に為になる講義だと考えます。
でも、講義でこれらをちゃんと学生に届ける為には、講師側にも次の3要素が必要だと考えます。

1.自分の言葉で、自分の経験も含めながら語れること(自分の考えを言い切ること)

2.今起こっている混沌とした現象を俯瞰しながら、整理できていること(翻訳力)

3.とにかく、伝えたいテーマが好きなこと、熱い想いがあること(熱量)

私が受講した、この「深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション」という講義は、まさに、講義内容と提供者である講師の両方が各々の3ポイントについて、抜群に満たされていました。しかも、15回の講義すべてにおいて、講師である高須さんは、最初から最後まで熱量落ちることなく、全力で素晴らしい価値を提供し続けてくれました。
だから、本当に最高の講義でした!そして、何より本当に素晴らしい機会を得たことに感謝です!!!
WBSは講師が素晴らしくカリキュラムも充実しています。しかし、今回の高須さんの講義を受けて、もっともっとこのような尖った講義を提供して欲しいと感じました。こういった講義が今後も増えることは、MBAの修了後の多様性を保つ上でもとても重要だと強く感じます。もちろん、基礎・応用は大事です。しかし、どこの大学院でもこれはほぼパッケージ化されています。でも、その先の超応用、今この瞬間、世界で何が起こっているかを整理する能力をすごい熱量と情報量の講師と共に学ぶことは同じくらい価値があると感じます。アカデミック教授や准教授がキュレーションして推薦する外部講師、つまり、今回の高須さんのような方の講義は、どんどん取り入れていただき、他の大学院にはない、新しい価値観を提供し続けるというのも、これからのMBAには必要なのではないかなと、特に、日本の大学院においては強く感じました。



-最後に伝えたいこと-
他人がやらない、自分が最高に楽しめることをやろう-

まず、来年もWBSにいる方は、ぜひ、高須さんの講義を受けて下さい。間違いなくオススメです。その熱量と情報量にきっと圧倒されると思います。そして、必ず何か持ち帰れます。
また、私としては、これからのビジネスは、AIに代替されていくことを加味しても、他人がやらない、自分の好きなことを全力で楽しみながら行い、仲間を増やしていったら、いつの間にかみんなからそれが必要とされていた、という正解のないイノベーションで溢れる世界が到来すると考えます。そして、それが生き方としても、一つの正解だと改めて感じました。儲る軸から、好きなこと軸へ。まずはやってみること。そして、そこから学ぶこと。つまり、Learning by Doing!これからの未来に生きる上で、とても大事な羅針盤を与えてくれた高須さんをはじめとする多くの講師陣と、その機会を提供してくれた牧先生に感謝して、本コラムを締め括りたいと思います。
本当にありがとうございました。

 


次回の更新は3月1日(金)に行います。