[ STE Relay Column 029]
大澤 弘治 「 アントレプレナー 募集!」

大澤 弘治 / Global Catalyst Partners Japan 

[プロフィール]1985年、三菱商事入社。情報産業関連の事業開発や投資に従事。同社在職中、1999年までの6年間は、同社シリコンバレー事務所にて、NeoMagic社、Centillium Communications社(共にNASDAQに上場)の創業に係るなど、多くのベンチャー企業との事業機会創出に貢献し、総合商社における新しいベンチャー投資ビジネスモデルを開拓。
1999年に三菱商事を退職後、Kamran Elahianと共にGlobal Catalyst Partnersをシリコンバレーにて設立しGeneral Partnerに就任。これまでに総額約3億ドルを調達し、数多くの米国並びにアジアのアーリーステージのIT関連ベンチャーへの投資・経営に携わる。
2014年には、Global Catalyst Partners Japan(45億円)を設立し、Managing Directorを務める。
日米の投資先9社並びに米国NPO 2社の社外取締役を務めると共に、経済産業省 先進的IoTプロジェクト官民合同支援機関委員、情報処理推進機構 未踏アドバンスト事業ビジネスアドバイザー、㈱NTTデータ オープンイノベーションファーラム スペシャルアドバイザー、Innovation Leaders Summit アドバイザリーボードメンバー、東京工業大学グローバルリーダー大学院プログラム担当なども務める。
慶応義塾大学理工学部卒。東北大学工学研究科博士課程終了。

1. 牧さんとの出会い
皆さん、はじめまして。この度、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センターの招聘研究員に就任致しました大澤弘治です。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるGlobal Catalyst Partners(GCP)と日本のベンチャーキャピタルであるGlobal Catalyst Partners Japan(GCPJ)をそれぞれ創業し、マネージング・ディレクターを務めています。
牧さんとの出会いは、2000年代前半に遡ります。私が、シンガポール国立大学で開催されたNUSビジネスプランコンテストで最終審査員を務め、同時開催の起業家向けイベントで基調講演を行った際、イベントに参加していた牧さんに登壇後にお声を掛けて頂き、そのままホテルのバーに飲みに行き、牧さんの熱い思いに意気投合したのが始まりでした。
当時は慶応義塾大学で授業をされていた牧さんのお誘いで、何度か授業でお話をさせて頂きました。その後もUCSD、スタンフォード大学、政策研究大学院大学と牧さんの節目節目でお声がけを頂き授業にお招き頂いており、今回は招聘研究員としてご一緒させて頂く事になった次第です。
このRelay Columnでは、なぜ招聘研究員としてWBSに係らせて頂く事になったかをお話したいと思います。

2. 日本への思い
私は、1993年から23年間、米国シリコンバレーで仕事をしてきました。90年代前半は、半導体・コンピュータ・通信・AVといったIT市場での世界トップ3は全て日本企業でした。ところが二十数年たつと、大きく様変わりし、韓国、中国、アメリカ、台湾といった企業にトップの座を取って代わられてしまい、シリコンバレーでビジネスをしている日本人としては非常に忸怩たる思いがありました。マクロ的にも、過去30年間で世界に於ける日本のポジションは大きく低下し、更なる人口減少を背景に最新の世界GDPランキング予想では今から30年後にはメキシコやインドネシアにも抜かれ、更に下落する事が見込まれています。一方で、GAFAの時価総額合計は約376兆円(2018年9月時点)で、米主要500社に対する時価総額占有率は13.2%に達しており、IT企業・イノベーション企業が米国経済を牽引しています。
日本が成長軌道を取り戻す為の一つの課題として、イノベーションによる新たな価値の創造は必須であり、これまでに日本並びにシリコンバレーで培ったベンチャー企業育成ノウハウを駆使し、日本のイノベーション活性化に貢献したいという思いでGCPJを設立しました。
シリコンバレーのイノベーションのシステム・インフラに関する研究は数多く存在しますが、23年間のシリコンバレーでのVCとしての実務経験から、その源泉は「若い有能な起業家の大きな母集団」、「異なるバックグラウンド・価値観を持つチームの組成」、「多産多死とそれを受け容れる土壌」の3点に集約出来るのではないかと思っています。
シリコンバレーと同様に日本でのイノベーション活性化には、如何に多様な価値観を備えた起業家母集団を拡大し、多産多死を許容する環境を提供出来るかが肝要と言えます。
日本の現状はどうでしょうか?メルカリ・PFN・ラクスル・マネーフォワード等、ベンチャー業界にも優秀な人材の流入が拡大しており、また健全な人材流動も活性化してきています。しかし、大学の就職人気ランキングを見れば一目瞭然、依然として有能な人材の大多数は大企業に入社する傾向にあります。つまり、大企業は有能な人材の歩留まりの高い組織と言え、イノベーションの母集団拡大には、大企業内の若い有能な人材の活性化と、その人材を活用したイノベーティブな活動促進が課題といえるのです。
では、日本の大企業では、優秀な人材がその力を遺憾なく発揮し、イノベーティブな活動が活発に行われているのでしょうか?残念ながら、多くの企業で答えはNOです。大企業で新規事業を開発する時に障害となる大きな問題は、「既存ガバナンス、社内システムとの闘い」と「新規事業推進者のモチベーション」ではないでしょうか。企業には、本業で培ってきた経験則や失敗をベースとしたガバナンス・社内システムが存在しています。企業の根幹をなすルールでもあり、新規事業開発促進に際して、これを見直したり特例化する事は必ずしも合理的なアプローチとは言えません。しかしながら、多くの社内システムが各社主要事業を対象として設計されている為、基本的に「一発必中」をベースにデザインされており、「ライアビリティ問題(ブランド、品質など)」、「ビジネス規模見込み」、「飛地感による理解不足」など、新規事業開発に適していないのも事実です。また一方で、新規事業推進者個人のモチベーションも課題と言えます。大企業にお勤めの多くの方は終身雇用を念頭に就業しており、将来的な社内でのキャリア形成は大きな関心事です。新規事業開発はベンチャー企業と同様に必ずしも成功確率が高いとは言えない為、「チャレンジに対する評価」 と「失敗に対するペナルティ」を天秤にかけるのは極めて自然な発想であり、多くの場合、ペナルティがハイライトされているのも事実です。そこで、成功・失敗といった結果に拘わらず新規事業開発にチャレンジにすること自体を評価する事が、大企業に於けるイノベーション母集団拡大に必須と考えます。また、既存の社員教育制度も企業人育成という視点では有効である一方で、モノカルチャー醸成の側面も否めません。
GCPJでは、こういった大企業が現在抱えている問題点を短期間で改善する事は難しいとの認識の下、その環境下に於いて如何に「イノベーション母集団拡大」、「失敗を許容する場の提供」、「イノベーション人材育成」するかを考え、日本に於けるイノベーション活性化への貢献を目的にStructured Spin-inモデルという投資戦略を立案し実行してきました。

3. Structured Spin-inモデル
シリコンバレーには、以前からStructured Spin-inモデル(SSIモデル)という投資戦略があります。Cisco Systemsや創薬メーカー等がベンチャー投資をする際に活用してきた手法であり、将来的なSpin-inの設計を投資時点に行うことで、競合他社による投資先ベンチャー買収リスクを回避する投資手法です。具体的には、「投資実行時に、将来達成すべきマイルストーンを設定し、マイルストーン達成時には、投資時に合意した買収金額をベースに買収の優先交渉する」という手法で、投資の際に買収優先交渉権をパッケージで入手するモデルです。
GCPJでは、このSSIモデルを日本流にアレンジすることで、日本の大企業の既存ガバナンス・社内システムを変えることなく、シリコンバレー流起業メカニズムの実践を可能とし、且つ新規事業推進者がチャレンジすること自体で適正に評価されるプラットフォームを提供しており、このプラットフォームを通じて「イノベーション活性化」、「イノベーション人材育成」に取り組んでいます。つまり、大企業とベンチャーキャピタルとの協業による、オープンイノベーション・プラットフォームです。
「こんな都合の良い仕組みが出来るのか」というご意見もあろうかと思います。確かに、私にとっても大いなるPOCとして4年前に実践を始めた訳ですが、既にこのモデルで4社のベンチャー企業を設立し、大きな成果が出始めています。今年中には、更に数社を設立予定です。色々なケースを想定し詳細デザインされたモデルではありますが、簡単に言うと、「先に述べた様々な問題の為に大企業内での事業化が難しいアイディアは、GCPJに里子に出して貰い、GCPJが100%出資のベンチャー企業として初期の不確実要素の多いシード・ステージの事業育成を担い、育ったら大企業が買収する。その為の買収優先交渉権を当初から大企業に対して提供しておく。勿論、推進する個人が確実に評価される仕組みも組み込む。」というモデルとなります。もっと詳しく知りたい人は、是非直接ご連絡を下さい。

4. WBSへの期待と係り
SSIモデル投資で設立されたベンチャー企業では、産みの親である大企業から人材を受け入れ事業を育てていく事を基本としています。SSIベンチャーに派遣される個人にとっては、大企業に所属していながらベンチャー企業の立ち上げに参画する事となるわけです。つまり、セーフティーネットが用意された中で起業経験積む事となります。良く「退路を断って臨め」と言われますが、GCPJでは「母集団拡大」を最優先課題と捉えており、少々温かろうと先ずはチャレンジする人を増やす事が重要と考えています。SSIベンチャー起業・経営にチャレンジした人は、キャリアの早い段階で会社経営を実践する事となります。大企業ですと、一般的に会社経営に当事者として係わる事が出来るのは、子会社幹部が最初の機会ではないでしょうか?多分、年齢的にも30代後半であったり40代であったりするでしょう。SSIベンチャーでは、面白いアイディアを持っていれば20代であっても会社経営に携わる事が出来ます。ビジネスキャリアの早い段階で、起業・経営経験が積めた人は、その後の大企業内でのキャリアパスに於いても、異なるキャリア開発の道が開けるのではないでしょうか。また先にも説明した通り、SSIベンチャーの成功失敗に拘わらず適正な社内評価も担保されています。
一方で、大企業から派遣される人が、必ずしもCEOとして適任であるとは限りません。GCPJとしては、SSIベンチャー企業の成功確率を高めるために、GCPJのメンバーが社外取締役としてきっちり伴走しハンズオン・フルサポートを提供します。また、派遣された方が経営者としてReadyではない場合には、外部からCEOを招聘します。外部招聘CEOにとってみれば、SSIベンチャーという仕組みの中で、初期投資と将来的な潜在的買収がプリパッケージされたベンチャーの立ち上げを担う事となります。勿論、外部から招聘した場合には、ストックオプションをインセンティブプランとして提供しています。
WBSには、将来企業経営を担う方々が多く集まっており、中には将来自ら起業を目指している方、既に起業をしている方も多くいると牧さんから伺っております。また、起業部は、特に起業に関心のある方がたくさん集まっていると聞いています。
GCPJでは、SSIベンチャーを今後も毎年数社設立していく予定としています。つまり、常に起業家候補、ベンチャー経営者候補を大募集しています。上述通り、SSIベンチャーは、初期投資と潜在的買収がプリパッケージされており、将来的に自分のベンチャーを立ち上げたい人にとっては、またとない起業・経営の実践トレーニングの場となります。そこで、これからは招聘研究員という立場で、起業やベンチャーに関心をお持ちの方とどんどんお話をさせて頂き、これまでの日米での経験をシェアさせて頂ければと思うと同時に、起業部の活動にも係わらせて頂き、実際の起業や独立に向けてメンターリングやアドバイスをさせて頂く事が出来ればと願っております。

これから一人でも多くの方と熱くお話をさせて頂ければと願っています。
宜しくお願い致します。

 


次回の更新は2月15日(金)に行います。次回はTomoya Ookadoさんによるコラムです。