[ STE Relay Column 026]
川村 聡宏 「日本でもっと競争力のあることを実現させるために我々ができることは?」

川村 聡宏 / 日本マイクロソフト株式会社 

[プロフィール]1976年生まれ神奈川県出身。現在、日本マイクロソフト株式会社にて、働き方改革の支援としてコラボレーション環境の改善を支援。担当としてはMicrosoft Teams、特にPBXのクラウド化を主。2000年4月に経営学部卒業後 ITバブル崩壊の年にIT業界に就職し、通信事業の変革期に立ち会う。ベンチャーに入社後、半年で40人から3人までのリストラやリーマンショックで倒産ということにも挫けない心を持つ。また、アパレル事業及び海外での飲食事業の創業メンバーとして起業に参画する。リーマンショック後は一部上場企業で大企業でのITによるコラボレーション変革の支援や通信事業者のコラボレーションサービスの立上げ支援を行う。また、国内の災害復興支援活動にも定期的に従事。
*写真は2018/12早稲田大学理工学部キャンパスにて

1.自己紹介
こんにちは、川村聡宏です。2018年3月に早稲田大学経営管理研究科(早稲田ビジネススクール、以下WBS)を修了しました。現在は、在学中に転職した日本マイクロソフトにて、コラボレーションサービスであるMicrosoft Teams及びSkype for Businessの技術営業を担当しています。働き方改革の支援をコミュニケーションのあり方から提案を行っています。
私と牧さんのご縁は、2017年1月に牧さんに修士論文の副査を引き受けて頂くというところから始まっています。推薦して頂いた指導教官である長谷川先生に従っていましたが、この時点ではどんな人かもわからず、調べれば調べるほど、多様な経歴で、下手に相談に行ったら、これは修了できないと感じていました。その後、2017年秋学期の授業を受講し、修論相談ということで授業及び飲み会終了後に、3時過ぎまで議論となり、更に解散後に4時過ぎでもチャットで相談が続くという生活を行っていました。今となってはいい思い出です。2018年の春学期の常行には聴講、夏にはゼミ合宿にも参加させて頂き、サンディエゴにて様々な研究者や企業訪問を行い、秋学期には授業のティーチングアシスタントとしてお手伝いさせて頂くという形で継続的に色々な機会を頂いています。Takeばかりになっているので、何とかGive側へと貢献できるようになっていい関係を継続したいと思っている次第です。

2. 働き方と多様性はなんのために
 2018年12月に大学時代の卒業生によるゼミの授業がありました。ここでは卒業生が現在働いている会社の企業研究を行い、最新の動向を報告し、質疑応答を行うというものです。卒業して20年も経つと、1期生は定年退職を迎えるほどの歴史になっています。今回は15名程度のメンバーで実施され、今回の発表は国内上位の飲料メーカに新卒で入社し、15年目位の人事に所属している女性による発表でした。前半は会社のマーケティングの在り方、後半は働き方改革について取り上げられていました。
 この会社の取り組みの目的は、「労働力の確保」、「企業の成長のための多様な意思決定」のために実施しているとのことでした。そのために、女性が結婚や出産を機に退職するのではなく、復帰後も昇進にも影響がない環境を提供することや、中堅の年代の社員が家族の介護があっても働きづけられる環境を提供することを推し進めているとのことでした。そのために、具体的な施策としては労働時間を柔軟に選択するためにテレワークの導入を進めている状況です。このように多様な働き方を提供することで、様々な環境の人々が働けることで多様な人材を確保することが多様な意思決定、ダイバシティにつながるという内容でした。この会社では、外部から多様な人材を採用することは想定しておらず、実際に中途採用はほぼ皆無であり、新卒から徐々に育てていく文化とのことでした。

3. 所変われば、捉え方も異なる
 ダイバシティの実現、働き方改革を実施している会社の方針としては、上述の方針をとっている会社は多いと思います。この状況に対して、私自身が昨年、アメリカの西海岸の企業に訪問した際に、働き方の変革やダイバシティの実現を行っている理由をヒアリングした結果としては、働きやすい環境を提供することによる優秀な人材の獲得や多様な人材を獲得することによりイノベーションを起こしやすくすることが目的とされていました。実際に私が働いている会社においても、一定数の入れ替わりが発生するような仕組みがあるように感じており、中途入社員やインターン生から聞くギャップは新たな気付きを与えてくれることが多々あります。例えば、学生から見ると、なぜ社員はパソコンを使って業務をしているのであろう?という疑問が出てきたことがあります。彼らからすれば、大学生活においては、スマートフォンでほぼカバーができる方法を知っているのです。こうした発想は、社員が常識と思っていたことがひっくり返され、新しい働き方を模索するきっかけにも繋がりました。

4.働きながら多様性を感じた日々
 日本企業の方針は、企業文化の継続性を維持し、採用や教育コストを抑えるには、非常に効率的な仕組みと考えます。その一方で、海外企業ではイノベーションを優先した仕組みで、日本企業がその後追いをするような形になっては、競争という観点では不利な仕組みになりかねないとも考えます。急激な人材の流動化は現実的には実現は厳しいと考えます。
 そうした中で、私自身の数回の転職経験による各社の企業文化や実務経験を持って移っていくという方法も1つの解ですが、短期間で同様の経験を得られたのは、大学院での2年間でした。この大学院においては、多種多様な会社、年齢、性別、国籍、更に各々の業界の専門家と交流し、議論する機会を得られ、更に自分の業務の相談をすることもでき、ました。このような環境を通して、客観的に自分の業界や会社を見直すいい機会につなげることが可能でした。ここでは企業に所属しつつも、多様な経験や発想を交換する場としてベストな環境といえます。この場で得た経験や知識を社内に持ち帰り、実業務に昇華していくことが可能となっていました。

6. 多様性のある環境を実現するためには?
 大学院に籍を置いている時期は有限であり、大学院修了後の現在では、自分の所属する会社の業務に集中する生活に戻っています。結果として、議論する機会も同じ会社のチームメンバーであったり、上司であったりと同じ基盤を持つコミュニティに回帰していく結果になりました。結果、無意識的に組織への同質化が進んでいっていると感じています。
 では、同質化せず、異質な知見を得るには、どのような方法があるのでしょうか?一つは継続的に外部からの刺激を受け続けるために、リカレント教育を受け続けることです。このことは新しい知見を得て、人的リレーションを得ることが可能です。授業料等のコストや時間を確保することは負担が高いです。また、一定的に転職を繰り返すという方法もありますが、前述した中途採用のない日本企業では多様性を持つイノベーションを起こせないことになってしまいます。

6.【提言】アントレプレナーインレジデンスの実現
私が提言したいのは、海外の大学の一部で保持しているアントレプレナーシップインレジデンスという仕組みです。元々は起業希望者が支援企業内で起業準備を行う環境を得る場合や、起業希望者に対して専門家、起業経験者の知見を提供し支援する仕組みを提供しています。このような仕組みで大学を基盤として、大学で研究された技術を活用した起業家や自分のビジネスアイディアを起業する人を支援していっています。
例えば、早稲田ビジネススクールの場合は、各業種から集まった中堅のスペシャリストが集まっています。その修了生やそこから派生する人材が起業希望者を知見から支援し、必要に応じて所属する会社と連携させることを実現させたり、1つの議題について多様な分野の人材で議論を重ね、成功するためのプランニングを支援したりする。定期的に勉強会を開き、各分野の最新情報を共有する。ここをきっかけとして、企業内ベンチャーを起こす人、自ら起業を実現する人、経営人材としてベンチャーに参画する人が出てきます。その際の相互支援をする場を作る。日本企業の人材が自らの知見を提供し、逆に得た知見を持ち帰って自社を変えていくことができようになるでしょう。
具体的に修士論文執筆準備で忙しかったM2の安江さん、関田さんや新しく入学したばかりのM1の複数メンバーが盛り上げているWBS起業部を触媒として活用することで短期的に実現が可能です。現在、起業部顧問である長谷川先生、根来先生、そして、牧先生といったWBSの先生方に加え、Edgeプログラムや理工学部の領域の朝日先生とも連携し、アカデミック領域は整いつつあります。また、起業家希望のWBSやEdge Programの学生がきています。そこに修了生、在学生や関係者が各領域の専門家として、メンターとして入ってくことが可能と考えています。
起業という社会へのイノベーションへのチャレンジを支援しつつ、社内起業家も含めてイノベーションを起こしていく相互互助の仕組みを作っていく。何かあれば、支援するよという人であれ、思い切って動かしていきたいという人も含めて、皆で実現していきませんか。

 


次回の更新は1月25日(金)に行います。次回はSBエナジー株式会社の土肥淳子さんによる「講義TA業務から学んだこと – 学びの深め方とLearning Communityの構築 -」です。