[ STE Relay Column : Narratives 225]
菅原 理名 「深圳で感じたハードウェアイノベーションと人の面白さ」

菅原 理名/ 早稲田大学創造理工学部経営システム工学科3年生 大森研究室

[プロフィール]神奈川県に生まれ、6歳でイギリスへ移住。小中学校を現地で過ごし、高校受験を機に帰国。早稲田大学創造理工学部経営システム工学科に入学。授業を通じてオペレーションの最適化に興味を持ち、また国際的なプロジェクトに魅力を感じ大森研究室に所属。研究室では昨年春にタイ郊外の工場現場改善プロジェクトなどに参加。


・はじめに
 早稲田大学・創造理工学部・経営システム工学科3年の菅原と申します。2023年10月より大森研究室に所属しております。今回指導教員の大森先生がスタディツアーで深圳へ行かれるということで、ご同行させていただきました。牧先生、高須さん、今回はご一緒させていただき本当にありがとうございました。
今回のスタディツアーに参加した目的や感じたことについて、以下にまとめさせていただきます。

・スタディツアーの概要
 今回のスタディツアーでは、牧先生、Switch Science の高須さんと共に深圳の企業を訪問させていただきました。訪問したのは主にスタートアップのハードウェアメーカーやVC、アクセレレーターなど。まさに深圳のハードウェアにおけるエコシステムを感じ取るのにふさわしい企業でした。各企業ではオフィスの見学やCEOの方と直接対談の機会を頂き、非常に貴重な体験となりました。

・ハードウェアイノベーション
 今回参加させていただくにあたって、まず興味があったのが、最先端の土地でハードウェアの動向を学ぶということでした。理由は純粋にテクノロジー分野に興味があり、将来ハードウェアに携わる仕事がしたいと考えているためです。
 さらに言うと、技術を取り巻く環境について、日本との違いを知りたいと考えていました。自分は小中学校時代イギリスに住んでいた頃、日本に対してとてもハイテクで便利な国である、と考えていました。洋画で東京を描くときよく車が空を飛んでいたりロボットが接客をしていたりする演出が見られるので、その影響かもしれません。しかし実際日本に来てみると、意外に生活自体はアナログで不便であることに衝撃を受けました。このような経験から、中国・深圳に対して良く耳にする技術革新は実際にはどのようなものなのか、自分の目で確かめてみたいと思いました。そして技術力をビジネスに落とし込み実社会に実装している現場を体験し、日本との違いがどのような点にあるのか知りたいと思いました。

 深圳に実際に行ってみると、やはり技術革新をいたるところで感じました。そして市や住民が技術に対し非常に前向きであることを実感しました。
 渡航前にまず驚いたのは、電子決済ツールの登録が必須事項であるということでした。現地では本当に現金が使えない場面が多く、年齢問わず全員がスマホ決済を使いこなしていました。それ以外にも飲食のドローン配送や街中を走る自動運転タクシー、手をかざし行われる決済などが非常に印象的で、最新の技術と日常生活が密接に関係していることを感じられました。

 このような状況が可能である背景には、まず法規制があるのだと思います。新しい技術に対し慎重に対応する日本とは対照的に、とりあえずやってみよう、といったプロトタイピングのような考え方がここにもあるのかもしれません。
 同時に、人々の間に新しい技術を受け入れる体勢が出来ているということも感じました。訪問させていただいた企業の特性上バイアスがかかってしまっているとも思います。しかし電子決済などのシステムをほとんどの住民が既に使いこなせているのは少なからず住民の情報リテラシーが高いこととも関係しているはずです。公園でドローン配送を待っていると、人だかりが出来ていました。そして中にはその新しい技術に関してを誇らしげに話しかけて来る人も居ました。深圳の人には少なからずこのような、技術に対する前向きな姿勢と誇りがあるのではないかと感じました。こういった人々の需要があるだけでなく、深圳ではハイペースなのものづくりが可能です。これら2つの条件が組み合わさることで「ハイテクな街」が実現可能なのだと確認できた気がします。
 これに即して考えてみると、日本では法や規制の都合上製品化が叶わないアイデア(ドローン等)が多い上に、市場での需要もあまりないということになりますが、実際にはどうなのでしょう。ここからはちょっとした推測になります。
 ここで私は、日本に来ている留学生から、日本の技術が「面白い」というコメントをよく受けるということを思い出しました。(特にゲーム機器やニッチなガジェットなど。)それに対して自分が深圳で感じたのは、「便利」「効率的」というものでした。日本では先端技術がエンターテイメントや、もしくは宇宙開発分野など、日常に馴染みがないものと紐づけられがちなのでしょうか。
 あるいは、日常で効率化の必要性を感じる場面が少ないのでしょうか。例えば入出国の際空港の検疫にて、羽田空港には有人レーンと無人レーンの2つが設けられてありましたが、両方とも列の進み具合はほぼ同じでした。ユーザが皆ルールに乗っ取って規則正しく利用することで、有人の状態でも十分効率的なのかもしれません。特に治安の良い日本ではセキュリティ面での改革も必要とされていないことも挙げられます。
 色々考察してみましたが、今回、日本のハードウェア市場の動向や世界全体における立ち位置について、さらに考えるきっかけとなりました。

・スタートアップとキャリアについて
 今回のスタディツアーで私がもう一つ達成したかったこととして、将来のビジョンを明確化させるということがありました。私は将来グローバルに、国内外で働きたいと考えています。一方で大学三年生として本格的にキャリアについて考えるようになって、数十年に渡る長期的なキャリアパスが思い描けずにいました。特に現在身を置いている日本の環境では日本でずっと働くということが標準とされています。そのため自分の興味のあるハードウェアの分野において、グローバルなビジネス現場を体験することで何か将来に関するヒントが得られれば良いなと感じていました。
 今回の訪問で最も印象に残っている瞬間の一つが、各CEO等の方々とのQ&Aでした。今までスタートアップで働く方と接したことがなかったこともあり、一人一人のキャラクターや強い思いに刺激を受けました。

 各CEOの方との対談はわずか一時間程度でしたが、その短時間の中でも彼らの信念や熱意を感じ取ることが出来たように感じます。そして彼らとともに働く社員も皆、物理的に近い位置にいることでこのような社長の思いを身近に感じるのではないかとも感じました。このような関係性はスタートアップならではの特徴として非常に面白かったです。同時にこういった性質のおかげでチームが一丸となって新しいものを作り出すことが可能なのだと改めて確認することができました。
 また、対談を通して、各CEOの方がそれぞれのビジョンややりたいことを持っており、これが企業経営に強く反映されているのだと感じ取ることができました。例えば、自分がつくりたい製品をつくるということを大きな軸として置いていたり、品質担保のためにサプライチェーンをとにかくこだわり抜いていたり。こういった企業ではCEOの存在感が非常に大きく、「彼ら自身のアイデンティティ」は「企業自体」と表裏一体であるように思えました。このように、自分自身というアイデンティティを肩書にキャリアを築く姿が率直にかっこいいと思いました。
 このような感想を振り返っていると、これは以前、牧先生が仰っていた「ナラティブ」とも通ずるところがあるのではないかという考えに至りました。各企業・個人が具体的に何をしているか、自体よりも、どのような背景やストーリーがあってそれをやっているのか。どのような思いやゴールに向かっているのか。などといったお話を聞いている時の方が面白く、価値のあるように思えたからです。私もこれを機に自分自身を振り返り、改めて見つめ直してみたいと思います。

・最後に
 3日間振り返ってみると、非常に刺激的なスタディツアーになったと思います。今まで自分が身を置いてきたコミュニティと全く異なる環境に入ってみると、行きかう情報や自分自身の意識が激変することを実感しました。これからも自らコンフォートゾーンを抜け出して学びを得たり、また研究室活動としてのコミュニティ作りを行ってみたいと感じています。
 改めて牧先生、高須さん、訪問させていただいた方々、大森先生、牧ゼミ・大森研の皆さん、今回は本当にありがとうございました!


次回の更新は3月1日(金)に行います。