[ STE Relay Column : Narratives 223]
甲木(内堀)夢弥 「サンディエゴ・エコシステムを探る」

甲木(内堀)夢弥 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]千葉県出身。早稲田大学卒業後、文部科学省所管の基礎物理の研究所である高エネルギー加速器研究機構(KEK)に就職し研究者支援に携わる。2017年からスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)に赴任し帰国。現在は、KEKに新たに設置された量子場計測システム国際拠点(QUP)の立ち上げに携わる。科学技術の社会実装促進を目指して2023年より早稲田大学ビジネススクールに入学。


 早いもので、9月に1週間のスタディーツアーを終えて、2ヶ月が過ぎようとしています。振り返りと今後に向けて、コラムを書かせていただきます。
 
 私が今回のスタディーツアーに臨む目的は大きく2つありました。
 それは「自身のナラティブ(物語)を語れる」ようになること、もう一つは「サンディエゴのエコシステムを理解し足掛かりを築く」こと、です。
 「ナラティブ」については、前回のコラム でなぜビジネススクールに通うことになったのかという観点から書かせていただきましたが、スタディーツアーの前から、牧さんがネットワークを築くにあたって特に強調していた点でした。こちらについてはゼミ生同期のまるちゃん(丸川友幸さん)が素晴らしいコラム を書いているのでそちらに譲り、私は特にサンディエゴのエコシステムについて、書かせていただこうと思います。

 まず、サンディエゴの特徴について。
 ひろさん(加藤寛崇さん)もコラム で書かれていますが、簡単にまとめるとここは「サイエンスベースでイノベーションが発展してきた地域」です。
 背景として、サンディエゴは大きく分けて4段階のフェーズを経て発展してきました。
 まず地理的な優位性(パナマ運河、ハワイに近い)により軍需産業が発達したフェーズ、次に研究所の集積やフィランソロピストと呼ばれる篤志家によって支援されたフェーズ、さらにコンピュータ産業誘致失敗の反省からの大学予算増加という転換期。そして最後に、起業家を取り巻くネットワークを仲介する媒介組織の出現です。これらのフェーズを経て、今ではシリコンバレーやボストンと並ぶ米国3大エコシステム(バイオクラスター)のうちの一つになっています。

 さて、そんなサンディエゴ・エコシステムの学びは、春学期から始まっていました。
 春学期の牧ゼミでは、「The Rainforest -The Secret to Building the Next Silicon Valley」という書籍を輪読していました。この本は、ベンチャーキャピタリスト兼シリアルアントレプレナーであるGreg Horowitt氏と、カウフマン財団の前Vice President of EntrepreneurshipであるVictor W.Hwangによって書かれた、イノベーション・エコシステムの成り立ちや仕組みを解明し、イノベーションを強化するための実践的な手法について書かれた本です。

 ちなみに、皆さんは「Rainforest」という単語からどのようなイメージを思い起こすでしょうか。
……私はアマゾンのような、植物が鬱蒼と生い茂っていて、色とりどりの猿や鳥、それから昆虫などの個性的な生き物が生態系を作っている様子が思い起こされました。
そうです、このようなRainforestでは独自のエコシステム(生態系)が築かれており、シリコンバレーやサンディエゴなど、イノベーションが盛んな地域でもこのような鬱蒼とした多種多様の生物が独自の生態系を築いているということが、本では語られています。
 皆さんにもう一つ想像していただきたいのですが、イノベーションが起こる地域と起こらない地域の違いは何だと思いますか。
これにはさまざまな理由が挙げられるかと思いますが、実際にイノベーションが起きた地域(この本では1990年代のカリフォルニア)と起こらなかった地域(シカゴ)の比較をすると、そこには「ソーシャルネットワークの有無」という違いが浮かび上がってきます。
 つまり、優れたテクノロジーだけでは優れたビジネスが成立するわけではない、ということです。
何となくそうだよな、と思うかもしれませんが、ではそのようなソーシャルネットワークはどのように築かれるのか。
理想的に言えば、ネットワークを広げることがよしとされている昨今、誰でも彼でも仲良くなれたらよいですが、実際はそのようにはいきませんよね。地理的な障壁とか、文化・言語が違う、簡単に他人を信用できないなどが原因で、ネットワークを広げることってそう簡単ではないと思います。
 それでもネットワークを広げるコツについて、皆さん経験則から多少思い当たることはないでしょうか? ……つまり、「知人から紹介された人」って仲良くなりやすいと思ったことありませんか。
この本では、たくさんの比喩が用いられていますが、生態系において特に重要なのは「キーストーン」の存在です。キーストーンとは、wikipediaの説明を借りると「生態系において比較的少ない生物量でありながらも、生態系へ大きな影響を与える生物種」を表す言葉です。
 例えば、ミツバチ。蜂の受粉は植物への生態系にとても重要な役割を果たしています。それから、海の世界で言うとラッコ。ラッコは旺盛な食欲でウニをたくさん食べることで、海の生態系のバランスを保つ役割を果たしているようです。
このような「キーストーン」が、自然界においてイノベーションを生み出すコミュニティにおいても、エコシステムの活性化に重要なのです。

 図で表すとこんな感じです。

 

 

 

①理想的なネットワーク

②実際のネットワーク

 

 

 

③ネットワークは小さなハブ(A、B、C)が中心となって拡大していく

 

 ここで、話はサンディエゴに戻ります。
 スタディーツアーでは、牧さんをハブとしてさまざまな方とお会いでき、どのようにネットワークが構築されているのかを知ることができました。
 例えば、製薬会社アステラスから独立し起業された松本さん、UCサンディエゴ校(以下UCSD)で眼治療の研究やSINGという次世代研究者の支援団体の代表をされている林さん、USCDビジネススクールに通う日本人留学生などにお話を伺うことができました。
また、USCDのInstitute for Global Entrepreneurの主催するイベントでは、医学部、工学部、ビジネススクールの学生やメンターとして地域のVCの方々が参加されていました。さらに、JETROの起業家支援プログラム(Beyond JAPAN Zero to X)参加者もおり、学部を超え、大学を超えた、さらに国を超えたダイナミックな交流が生まれていました。
 その背景には、UCSDの国際アウトリーチディレクターである和賀さん、工学部長のPisano 氏、マネジメントスクール長のOrdóñez 氏などがハブとなって異なるコミュニティを繋ぎネットワークが生まれていることを学びました。(そして、Rainforestの著者であるGreg氏ともお会いすることができました!)
 さらに、修論テーマ発表会では高エネルギー宇宙物理学を専攻され現在は量子コンピュータのビジネスをされている浅原さんや、阪大准教授/UCSD客員研究員の猿渡さん、シリコンバレースタートアップに携わられている新井さんなど、それぞれに背景や経歴の異なる、さまざまな方からフィードバックをいただくことができました。

 このスタディーツアーを通じて、私も今回お会いした方々のように異なるコミュニティをつなぐ「ハブ人材」になっていけたらと思うようになりました。
 そしてやはり、人と人とのネットワークを構築するにはやはり自分の「物語(ナラティブ)」を語れることが重要だと感じています。というのも、人との関係性をためには自分はどんな思いを持っているのか、またどんなことができるのか。それが元になって人間関係が生まれていくからです。
 サンディエゴに訪問するにあたって、SING代表の林さんからはアメリカにおける研究支援と日本との違いや、近年アメリカでは履歴書よりもBioscketch という、文脈で自分の経歴を語ることが重視されているようになっているということを伺っていました。
私も世界的な文脈で自分の物語を語れるようになりたいと感じ、その一歩として帰国後にBioscketchを書き始めました。これからも、自分の想いやあり方を語れるようにアップデートしていきたいと思います。
 
 加えて今後は、ハブ人材になるという目標に加えて、なぜ科学技術ベースのスタートアップがサンディエゴや一定の地域に集まるのか、(ひろさんのコラムでも書かれていましたが)起業に「適した環境が整っていた」という点、条件や制度面をさらに掘り下げ、研究所発スタートアップ支援の体制構築に繋げていきたいと考えています。

 最後に、今回ツアーに関わっていただいた皆様、一緒に参加したゼミ生、理工学研究科の大森先生とゼミ生の清水さん、そしていつも多大な労力と時間を割いていただいている牧さんに感謝いたします。どうもありがとうございました!


次回の更新は11月10日(金)に行います。

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