[ STE Relay Column : Narratives 220]
丸川 友幸 「あり方”の探求: 場所を変え、人を変え、そして牧さんを理解する?」

丸川 友幸 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]公認会計士。2017年に慶應義塾大学卒業後、大手監査法人であるEY新日本有限責任監査法人に入所。上場会社監査、IPO支援業務を中心に従事。実務経験を経て、2021年に公認会計士開業登録。2022年に監査法人を退所し、短期の語学留学を経て、2023年より早稲田大学ビジネススクールに在学中。好きな監査論点は、「会計上の見積り監査」と「循環取引による不正会計」。趣味は将棋。特技は「世界地図を目隠しして一筆書き」。

 「ナラティブ」。耳にタコができるくらいには牧さんに言われ続けたこの言葉。「なるほど、ナラティブ(自分自身の物語)って重要だよね」、と頭では理解していた。一方で、今までそういったことをやってこなかった自分はどうも腑に落ちないという感覚・そして反感を感じていた。サンディエゴに行くまで、その思いはずっとあった気がする。
 牧ゼミでは春学期に「ナラティブ」の一環として「Life story presentation」を行った。これは、自分の人生を振り返り、どういう辛さや苦労・悩みがあり、どういう人生だったかをゼミメンバーの前で発表するというもの。要は、ナラティブをプレゼンするというものだ。ゼミメンバーの発表、特に9月に卒業したBrendonやNancy、M2のちゃんともさん(高崎さん)の発表は本当にその人のあり方が伝わってくる素晴らしい発表だった。私ももちろん発表し、自分の中では「まぁ、良いプレゼンテーションできたんじゃないかなぁ」と自画自賛。内容は字数的に割愛するが、今思うとそれは「着飾った、頭で考えた抜いたナラティブだった」という風に思う。
 さて、そんなお膳立てがあった上で行ったスタディーツアーであったが、サンディエゴでは本当にパワフルな方々に出会った。その中で特に私に影響を与えたのは、修論発表会&BBQに参加いただいた、松本さん、新井さん、猿渡さん、浅原さん、三谷さん。
少しだけ、どんな方々か記載させてく。

・松本さん:ラグビーをされており、肉体的にも非常にパワフル。自らの「したい」のため、日本の大企業からサンディエゴスタートアップへ。直近で60億の資金調達をされ、非常に大事な時にも拘わらず、多くの時間を頂いたことに感謝。
・新井さん:眼鏡と口髭が印象的で、少し気難しい方かと思っていましたが、お話させていただくととてもおおらかで、クレバーな方。アメリカJINS社長を経て、スタートアップでの挑戦をしているあり方に感動。
・浅原さん:博士号を取られてかから自らベンチャーを立ち上げ、苦節ののちに成功。現在は宇宙系スタートアップのGINTAIでHR(このキャリアで今HRしているの?と失礼にも最初思ってしまった)をされている。領域を問わず、何事にも挑戦し続けているその姿に感動。
・三谷さん:その素晴らしいキャリアからは信じられないほどの気さくさ。後半に色々お話していただいたのだが、ひたすら日本酒の話で盛り上がった記憶しかない。
・猿渡さん:BBQ前の修論発表会で、各発表後真っ先に厳しい質問をされており、「厳しい人」だというファーストインプレッション。自分は「会計学」に関連した発表(猿渡さんのご研究分野とはイチミリもかすらない分野)をしたのだが、BBQの時に色々質問していただいた。本当に知的好奇心が高く、自らの探求に全力を注がれる方だと実感。このことは、猿渡さんの研究室にお伺いし、自己紹介という名のナラティブストーリーをシェア頂いたときに本当にそう感じた。


 牧さんは、スタディーツアーに行く前にこんなことを言っていた。「アメリカ人は人の過去や経歴なんかに基本興味ない」。なので、ナラティブを書くときはそんなことたくさん書いても意味がないのだよ、ということ。このことも私は正直よくわからなかった。初対面の人とネットワーキングするときに、自分の過去や経歴を話さずして何を話すのかと。自分であれば、高校・大学が慶應で、公認会計士になって、EYに入って監査業務とIPO支援をして、・・・・だから、こんな私と交流してみませんか? という具合。
 しかし、サンディエゴでお会いした方々は、決してそうではなかった。もちろん経歴や過去を全く話さないわけではない。しかし、彼らが重視しているのは過去ではなく、「あり方」であるということ。松本さんは「パワフルである」というあり方、新井さん・浅原さん・三谷さんは「挑戦し続ける」というあり方、そして猿渡さんは「探求し続けるというあり方」をされていると感じた(違ったらごめんなさい)。そして、牧さんは「情熱を広げ続ける」というあり方。
誤解を恐れずに言えば、牧さんはよく日本人MBA生のことをアメリカで活躍する人たちと比較してディスる(牧さんのFBをフォローしている方はわかるはず笑)。そんな時私は、「そりゃあ確かに、牧さんはずっとアメリカで生活してきたわけだから、アメリカの依怙贔屓だろう。優秀な人材がアメリカに行くわけだから、結果的にそうなるのは自明の理だろう」と思っていた。
今になって少し牧さんの言いたいことが分かってきた。牧さんは、私を含めて多くの学生が「あり方」がない、学歴や所属、過去で覆った空虚さを指摘していたと。そして、もう一つ付け加えるとすれば、その「あり方」は決して将来そうなりたいではなく、今どうあるかということ。そこに誰もが一番興味があるのだと。
 そういえば、牧さんはこのスタディーツアーで会う人に一貫してこの質問をしていた。
“What is your life goal?”
 曲解かもしれないが、これは「あなたはどういう人(あり方)なのか?」と聞いているのだと思う。そして、一か月前の自分はこの質問に答えられなかった。でも今は少し話せる気がしているので、少しお付き合いください。
私の親友の1人は、赤子のころからの付き合い。大学時代はビジネストークで盛り上がった。どんなビジネスなら儲かるか?このビジネスの将来性はあるのか?などなど。今思えば恥ずかしいアイデアをたくさん出しながら、将来一緒に起業しよう、ということを言っていたと思う。そんなこともあり、スタートアップというワードは自分のホットトピックになっていった。そういった経緯もあり、EY新日本有限責任監査法人では上場企業の主査(現場の責任者)以外にもIPO支援業務の主査も行っていた。何か新しいことに挑戦しないと気が済まない性であり、公認会計士取得後もビジネス実務法務検定2級やIPO実務検定上級を取り、女性起業家支援プログラムの運営のお手伝いをしたり、と小さいながらも様々な挑戦をしてきたと思う。しかし、よく考えるとこれらの挑戦は全部手に届くとわかっていた挑戦ばっかりだったなと思う。始める時点で、「だいたいこれくらいやれば達成できる」という感覚。それは、もはや挑戦ではなく停滞だったかもしれない。
 せっかくWBSに来たのだから、そんな面白くないチャレンジはやめて、もっと不確実だけど面白い挑戦をすることにした。ちょうど10月からAttachというスタートアップ向けの人材紹介事業の創業メンバー兼CFOとして関与することにした。正直、これが上手くいくかわからないし、こういう先の見えない挑戦は今まで避けてきた。でも挑戦しようと思う。

“What is your life goal?”
“My life’s goal is to keep challenging myself until the end”


次回の更新は10月6日(金)に行います。

, ,