[ STE Relay Column : Narratives 213]
山本 恒久「『エビデンス・ベースド・マネジメント』= 〇〇な授業」

山本 恒久 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]2009年に慶應義塾大学医学部卒、その後は千葉県鴨川市にある医療法人鉄蕉会 亀田総合病院で初期臨床研修、2011年4月から慶應義塾大学病院循環器内科へ入局。循環器内科医としての臨床トレーニングを受けながら、大学院博士課程で心不全の基礎研究に励む。2016年に博士号を取得。その後も循環器内科医として臨床と基礎研究の二刀流を続け、2018年から米国ペンシルベニア大学Daniel Kelly研究室へポスドクとして研究留学。1人でも多くの方の健康問題を解決する、というMissionを達成するため2021年からブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社という外資系製薬会社のメディカル部門へキャリアチェンジ。自社製品の価値を最大化するような戦略策定に日々奮闘中。


■牧先生との出会い~日経ビジネススクール MBA Essentials 2022~

どれだけ医学的・科学的に優れている医薬品シーズでも、開発費と市場規模とのバランス・既存品との相性などの理由から開発が中断されることを経験し、自分自身にビジネス・経営学という新たな軸を作りたいと感じていた。そんな中で早稲田大学のビジネススクール(WBS)に興味を持ち、その前段階として2022年の日経ビジネススクール MBA Essentialsを受けていた。様々な迫力のある講師陣の方々が毎回エキサイティングな授業をしていたが、その中で明らかに浮いている、異質な講師がいた。牧 兼充先生だ。授業の進行から内容から全て違う。クセが強い。もしWBSに入ったら牧先生の授業を受けてみたい、そう思わせるには十分すぎる数時間だった。

■「エビデンス・ベースド・マネージメント」という授業

WBS入学後、授業選択の時期となりシラバスで牧先生の授業を探した。春タームでは「エビデンス・ベースド・マネージメント」とあった。なんだこれは?どういうこと?医療の世界では「エビデンスド・ベースド・メディシン」という言葉があり、数々の臨床試験に裏打ちされたエビデンスが蓄積された治療法をまず患者さんへ使うべきという考え方だ。これのマネージメント版っていう意味だろうか。ビジネスの進め方にエビデンスが必要なのかな?と様々な疑問が駆け巡った。
自分自身は自然科学(医療科学)という分野では英語論文34本を執筆している。なので英語論文を読むことや“エビデンスに基づいてアクションを決める”ことについては特に抵抗は無い。そんな私だが結果として、この授業は非常に大変だった。毎週の課題論文の内容を把握し、グループ内でも紹介できるように自分の中でサマライズする作業をこれでもかと繰り返す。さらに授業内でも論文の批判的吟味を毎週繰り返す。中学校時代にテニス部でひたすら素振りをしていた頃を思い出した。自然科学から社会科学へ要素を1つ変えただけで、こんなにキツイのかー!と再発見できた。ではこの授業を受けたところで、ビジネス・経営分野の英語論文を読み、エビデンスを収集し、自身のビジネスの意思決定がバシバシ出来るようになるのか。いや、ならない。この授業の学びを実務に少しずつ少しずつ試していく作業が必要だし、さらに自身のセンス・直観と上司のセンス・直観の混ぜ込み、その絶妙な配合バランスを自身でチューニング出来るように再び素振りをすることが大切だと感じた。

「エビデンス・ベースド・マネージメント」=「ひたすら素振りをする授業」である。

 


次回の更新は8月18日(金)に行います。