[ STE Relay Column : Narratives 206]
齊藤 想 「EBMと、魚と、ダイバーシティ」

齊藤 想 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]京都府京都市出身。京都大学大学院エネルギー科学研究科社会環境科学修士課程を修了後、2018年に株式会社資生堂にサプライチェーン領域の担当者として入社。初期配属先の工場ではパッケージ担当としてトイレタリー製品の外装設計に従事。その後本社に異動となり、約3年間、海外向け製品の長期在庫計画を担当。執筆現在は、全社的な構造改革プロジェクトの専属メンバーとして、S&OPプロセスのデザインやシステム導入、タレントマネジメントなどを担当中。2023年にWBSの夜間主総合に入学。趣味は犬と戯れること。

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お読みいただきありがとうございます。牧先生の2023年春Qエビデンスベースドマネジメント(EBM)を受講したご縁でこちらのコラムを書かせていただきます。

EBMのテーマが「お金を出して魚を買うのではなく、魚の釣り方を学びたいと思う人へ」だったので、「魚」に絡めながらEBMについて書いていこうと思います。
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● 泳ぎ続ける鮪
 鮪や多くの鮫は、水中で止まることができないというのは多くの人がご存じかと思います。彼らが止まることができないのは、止まってしまうと呼吸ができないからで、休む際には泳ぎながら右脳と左脳を交互に眠らせているようです。
 魚に絡めてこのコラムを書こうと思ったとき、真っ先にこのことが思い浮かびました。私は常に何かを考えていたい性格で、考えるのをやめることは自分にとって耐えがたい、窒息にも似た苦痛だからです。
 そして、WBS入学にあたり、WBSという大海の中で何か面白いものがないか、ワクワクしながらシラバスとにらめっこしていました。

● EBMという名のアクアリウム
 そんな中、EBMというひときわおもしろそうな授業が目に留まりました。前述のような性格の私にとって、特に次の文言は非常に魅力的にうつり、結果として、牧先生が垂らした糸に食いつく形でEBMを履修することとなりました。「この授業は、本来であれば博士課程レベルの内容をMBAの学生に提供するものであり、難易度はやや高め授業であることが予測されるので、そのことを了解した者のみ履修して欲しい」 
 振り返ってみると、EBMはまさに水族館のようだったと思います。シラバスの内容からして受講者のレベルが高いのはもちろんなのですが、ちょうど水族館には魚だけでなくペンギンやワニがいるように、みなさんのバックグラウンドや考え方が多岐にわたっていたからです。海を泳いでいるだけでは絶対に出会えなかった方々と同じ空間で講義を受けられたことは、非常に良い経験だったと思います。

● まな板の上で水を得た魚
 そしていよいよ授業が始まります。EBM以外の講義もある中で、コロナに感染したり、仕事で担当するプロジェクトが大詰めを迎えたりと、公私ともに非常にタフな毎日が続きました。会うたびに痩せました?と言われることも少なくなかったです。
 そんな中でもEBMの授業は毎回楽しみで、講義で扱った内容はその日のうちに家族とも話して、自分なりの消化をしていました。プロジェクトの兼ね合いもあり、WBS入学と同時に忙しくなることは分かっていましたし覚悟の上だったので、EBMという脳のオアシスを確保していたことは、振り返っても非常に良い判断だったと思いました。(もちろん、体力的には大幅に削られましたが・・)

● ギョギョギョ
 授業の基本の流れは、前回の振り返りや先生の講義で始まり、事前に決めた発表者による課題論文の内容発表、質疑応答、ディスカッションと続き、最後にゲストスピーカーの発表で締めくくるという、非常に盛りだくさんの内容でした。その中で、私が特に印象に残っているのは、牧先生のファシリテーション力と受講者の皆さんのハイレベルな議論です。
 牧先生は状況と時間を見ながらイルカショーのごとく議論を回されていました。EBMの講義の趣旨とは違う観点ですが、EBM受講中はプロジェクトの関係でトレーニングをしたり、大勢の前で何かを説明したりすることが多かった時期だったので、大変参考になりました。
 また、毎回いろんなテーマで行われる議論において、受講者の皆さんのハイレベルな発言に常に刺激を受けていました。発言の内容もそうなのですが、発言までのスピードも非常に早く、いかに自分の知識が不足しているか、目の前の課題をきちんと整理できていないか、ということを身にしみて感じました。
 一方、講義を重ねるにつれて、自分の考えと皆さんの発表内容がよく食い違うことにも気が付き始めました。この気付きが確信に変わってきたころ、ちょうど講義のテーマは差別やダイバーシティといった領域に入っていきます。

● スイミー
 春Qが終わりに近づき、EBMの講義を重ねるうえで最も考えたのはダイバーシティの意味でした。正直に言うと、EBM受講前まで、ダイバーシティはみんなが言っているから大事、くらいにしか思っていませんでした。しかし、ほかの先生の講義とEBMを組み合わせて考えたときにダイバーシティがどれだけ重要か、そしてその実現がいかに難しいかということを知りました。
 そんなこんなで思考を巡らせていると、ある時ふと小学校の時の国語の授業で習ったスイミーという本を思い出しました。物語の最後の方で、スイミーは、自分と同じような魚たちが捕食されることを恐れて岩陰に隠れているのを見つけます。そこで、スイミーは、各自が身を寄せ合うことで大きな魚に見せかけ捕食者の魚を追い払うことを提案します。結果、一人だけ体の色が黒いスイミーが目の色の役割を果たすことで見せかけの大きな魚が完成し、捕食者の魚を追い払うことに成功する、という話です。
 このエピソードにおいて、スイミーは完全に部外者で、ほかの魚たちと色も違います。そんなスイミーを完全に拒絶すれば、岩陰に隠れていた魚たちはずっとそのままだったでしょう。仮に、岩陰から出て大きな魚のフリをしようとも、目の色の役割をするスイミーがいなければ完成しなかったでしょう。そういう意味で、このスイミーの物語において最も重要なのは、みんなで協力すれば大きな魚も追い払えるということでもなく、スイミーの個性や機転が光っているところでもなく、岩陰に隠れていた魚たちがインクルーシブだった、ということなのではないかと、EBMを受講後に改めてスイミーを思い返して感じています。

● さいごに
 いろいろ魚に関することで例えて書いてみましたが、最後まで釣る側の視点から文章を書くことができませんでした。自分はまだまだ釣られる側の人間だということでしょうか。いちはやく釣る側の人間になれるようにEBMやその他の講義での学びを自分のものにしたいと思います。
 最後になりますが、牧先生はもちろんのこと、一緒に授業を作ってくださったTAの皆さん、ゲストスピーカーの皆さん、メンターの皆さん、受講者の皆さんに感謝の言葉を述べて締めくくりとさせていただきたいと思います。

ありがとうございました!!!

 


次回の更新は7月18日(火)に行います。