[ STE Relay Column : Narratives 205]
舩場 智代 「失ったのか、失われたのか。未来を創れるか。」

舩場 智代 / 早稲田大学経営管理研究科在学中

[プロフィール]熊本大学法学部卒業。在学中にドイツのザールラント大学に1年間交換留学し、縁があってドイツ系ソフトウェア企業であるSAPジャパン株式会社に就職。ERP基幹システム営業を4年、人事・タレントマネジメントシステムの技術営業を5年、2023年から人事・タレントマネジメントシステムにおけるカスタマーサクセス部門のマネージャー職に従事。
2022年の春にWBS入学し、取りたい必修授業の抽選に外れてたまたま受講を決めた牧さんのEBMの授業が楽しく、定量実験の面白さに魅了され牧ゼミ6期生にジョイン。ゼミ長。専門領域は、人事、人材開発、業務プロセスのべスプラ化、SaaS業務システム。

 こんにちは。夜間主総合M2の舩場と申します。4月より牧ゼミに入り、刺激的な毎日を過ごしております。牧ゼミでは、Narattive合宿、各業界のプロフェッショナルを及びしての勉強会、スタンフォードの授業のエッセンスを取り入れた授業など、毎週内容の濃い時間を過ごしています。今回は、6月上旬に牧さんに同行する形で参加させていただいた鶴岡会議が自分の過去と未来を見つめなおす良い契機となりましたので、改めて自分の心境などをまとめさせていただきたくこの場をお借りすることになりました。

『失われた30年なんて言わないでほしい、他人事のように聞こえます』
これは、鶴岡会議の「ジンカタ」で、新卒4年目となる参加者の方から発せられた言葉です。私はこの言葉が今でも胸に刺さっています。

 まず、鶴岡会議をご説明させてください。山形県の鶴岡市は、慶応義塾大学先端生命科学研究所の設立から始まり、9社のベンチャー企業が生まれ、世界に通用するイノベーション、そしてイノベーション創造のエコシステムが確立されている場所です。この研究所の所長を長きに渡って務められた(現在は退任)冨田勝教授が発起人となり、鶴岡の地で何が起きているのか、名だたる日本企業から20名を超える人達が集結しセッションや企業訪問を通じて学びを深める場が鶴岡会議です。2泊3日の旅程で行われます。牧さんが鶴岡会議のセッションの一部を担う事から今回一緒に同行させていただきました。

 第4回目となるこの会議では、『失われた30年。なぜ日本は30年成長していないのか?』そんな問題提起から始まりました。Spiber株式会社関山さん、サリバテックの杉本さん、YAMAGATA DESIGNの山中さんの創業にかける想いを直にお伺いし、冨田さんからはこの鶴岡市を中心としたこれまでのプロジェクトのお話をお伺いし、企業から鶴岡市に派遣されてきている方々のリアルなお話を沢山お伺いし、頭の中がパンクしそうになるほどの情報をインプットすることができました。

 冒頭に書きました「ジンカタ」は人生を語り合う場、ということでリラックスした場でそれぞれが考えていることを出し合い、思考を深めることのできる場です。毎晩2時間~3時間語りつくす場で、2日目のテーマは『失われた30年。なぜ日本は30年成長していないのか?』でした。小グループに分かれた中で、様々な意見が交わされる中で、それまであまり発言をしていなかった20代の男性から出てきたのが冒頭の『失われた30年なんて言わないでほしい、他人事のように聞こえます』という言葉でした。

 私は2023年現在32歳です。生まれた時には日本の景気は失速しており、失われた10年、20年という言葉を耳にしながら青春時代を過ごし、社会人としても10年目を迎えました。失われた30年、いえ、『失った30年』の10年は自分も責任を持っていたな、と気づきました。日本という大きな文脈にすると途端に遠い世界になりますが、身近に寄せるとチームメンバーには「自分事で考えて」というような指示を出しつつも、「会社の方針がー」「上司がー」と根底では思っていたように思います。
 10年後に「失った40年」と言われている未来を創造すると背筋が凍ります。

 鶴岡会議に参加して、自分の判断軸の中に「いまの自分の判断は10年後を見据えられた判断になっているだろうか」という軸が加わったのをゼミの中で、仕事の中で実感しています。

 私は、人事・給与・タレントマネジメントシステムの領域を自分の専門領域としてお仕事をしています。「ヒト」という存在は無限大の可能性を秘めています。やる気スイッチを押すことができたら、文化祭の前日のような熱量でアッと驚くようなパフォーマンスが出て、人と人の出会いで思わぬ化学反応が起きたりもします。
 では、その可能性を引き出すことができる企業内の人事制度はどうあるべきなのでしょうか。システムという仕組みを通じて世界の企業考え方に日々触れていると、人材開発における個の自律を重視した制度設計が主流になってきているように思います。わかりやすいところで行くと、会社主導の異動ではなく自らキャリアを選択できるようにする。そのために社内の自発的人材流動性を高めるキャリア開発機会の提供、公募制度の整備、ポジション・仕事の明文化、人件費コントロールのためのHeadcount需給管理、など個人を主軸において大きな制度の枠組みが作られています。 

 一方で、日本企業は歴史ある企業も多く、人事制度一つをとってもまだまだ人事主導・企業が主軸に据えられた制度は多く存在します。その変革は簡単にはいきません。その変革にシステムの刷新を伴うことは多く、システム導入から制度変更に伴う業務定着、活用に伴走する役割(カスタマーサクセス)が重要となります。私は、このカスタマーサクセス部門の一部を率いております。変革の中では様々な痛みを伴います。この変革に自分は、自分のチームは真剣に向き合えているだろうか。目の前のお客様の10年後を考えたときに、嫌われても怒られてでも価値ある提案ができているのか。

 日本の未来に対して自分にできること、範囲は極小的ではありますが目の前の事象に対して未来を見据えて行動をしたいな、と思えた3日間でした。鶴岡会議の正式名称は、「未来創造企業 鶴岡会議」。改めてお会いした方々のお話を振り返ると、情熱と想いを持って未来を創っていこうと切り開いている方々ばかりでした。私も、未来にポジティブな一石を投じ続けられる人でありたいです。残り少なくなってきていますが、WBSでの研究活動も「ヒト」の可能性を広げられる、未来に影響を与えられる研究になればと思います。
このような機会をくださった牧さん、鶴岡会議で出会った皆々様に改めて感謝を。ありがとうございました。

 


次回の更新は7月14日(金)に行います。