[ STE Relay Column : Narratives 204]
小林 一博「EBMによるトリートメント効果に関する実証実験報告書」

小林一博 / 早稲田大学 経営管理研究科 夜間主プロ・ファイナンス専修

[プロフィール]一橋大学商学部商学科(竹内弘高ゼミ)卒業後、ベンチャーキャピタル入社。ベンチャー投資部門にてIT関連の投資先の株式公開支援、バイアウト部門にて株式非公開化案件、事業再生案件などのM&Aに携わった。その後、商社に転職し、食料関連の国内外のM&A、グループ会社の事業再編などに従事。2022年早稲田大学ビジネススクールに入学。2023年4月、情報通信関連の事業会社へ転職し、M&Aや新規事業開発に従事。

~ トリートメント前(EBM受講まで)のNarratives ~
産業の変革に貢献をしたいとの思いから、ベンチャーキャピタル、事業会社にて、一貫して企業投資、M&A関連に従事してきた。一方で、経営管理のケイパビリティの向上が課題と感じていた。また、自らの役割が企業価値向上に貢献したかどうか、経営層が適切な経営判断を行うためのケイパビリティは十分かという問題意識を持っていた。この様な背景からMBAの取得を目指した。M&A案件を検討・実行する際、財務、経理、法務、人事など経営全般におよぶ多岐にわたった知見と経験が求められる。そして、そのための人材確保、育成策として、例えば外部調達した場合でもパフォーマンスを発揮するまでに期間も要する。従って、自社における経営管理のケイパビリティをいかに進化させるかが喫緊の課題と認識していた。

21年夏、コロナ禍となったことも相まって約2年に及ぶ交渉を経て、合弁会社化のM&A案件を成就させた後、「MBA」というワードが目にとまった。学部生時代、海外のMBAを取得されている先輩が多くいた環境下でもあり、自身もいずれはMBAに・・・と内心で思っていたが、よろず屋稼業的に様々な経験を積み重ねることに充実感があり、気がつけば歳を重ねていた。MBAでの学びの沼に身を投下することで、自身の経営管理や経営判断に関する問題意識に対して有効な示唆を得るきっかけになりうると直感的に考え、翌月の入試申込をし、気がつけばほぼ毎日早稲田に通う生活リズムとなった。

M1では自身が最も関心を抱いていた企業価値、事業再生、M&Aなどのファイナンスや経営に関するカリキュラムを受講した。根来先生、奥先生、鈴木先生などの数多くの先生方の豊富なご経験、含蓄のある示唆、信望厚いお人柄に触れる中で、様々な気づきを得ることができたとても充実した1年であった。それと同時に、自身が興味を持ち得意とする領域を深掘りするだけで良いのか?との思いを抱きつつ、M2での履修をどうするべきか検討する中、以下の挑戦状(?)が飛び込んできた。

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企業や組織のマネジメントにおける判断・意思決定は、過去の経験や直感、他者の成功事例等に過度に依存することが少なくない。しかしながら、マネジメントにおいても、医療などと同様にエビデンスを重視することが重要になりつつある。この授業では、エビデンス・ベースド・マネジメントと呼ばれる、科学的思考法に基づいたデーター・ドリブンの経営の意思決定手法について学ぶ。

本来であれば博士課程レベルの内容をMBAの学生に提供するものであり、難易度はやや高めの授業である・・・授業の予習・復習には、基礎学力にもよるが、 最低でも毎週3時間程度の時間を割くことが必要となる。

負荷が高い授業ではあるが、定量研究の手法の基礎を身に着けるためには、結局のところ効率の良い方法である。

WBSの中心においてはいけない授業。

この授業は履修者のために水準を落とすことはしない。

論文を読み込むためには、因果関係の推論などの科学的な思考力が求められる。その訓練をあまりしていない者は、他の履修者よりもより準備に時間を割いてもらうことが前提となる。
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「EBM」に挑戦することで、未知の領域や視点に触れることができた。

ハードルがとても高いのは自明ながら、好奇心を刺激する牧ワールドの独特のにおいに惹かれてしまった。発車後は、著名な論文をシャワーのように読みまくる怒濤の日々。何より想定を超えていたのは、論文のテーマが、行動経済学から見たBias、unconscious bias、Gender、discriminationなどの最先端の領域に関するもので、普段の日常で会話することがなかった内容でもあったため、毎回のディスカッションは脳みそをグラグラ揺さぶられ、約3時間半の授業が光速で過ぎていった。
エビデンスの限界や怖さを理解することが大切だとのメッセージを通して、それまで無意識的に定量を尊重する意識が自身には強かったことにも気づかされ、ハッとした心境だった。また、数多くのRCT実験や分析の論文を読み、いざ自身でリサーチデザインの設計を行なう課題においては、思うように筆が進まず、牧さんからの壁打ちの洗礼を浴び、自身がいかに理解していた気になっていたという誤解を再認識させられた。そしてそれはとても充実したトレーニングだった。
(実は、意図的にDiscord上で、とある行動変容の実験も行なった)

「鯛」のようなすげぇ~論文の数々、メンバーの方の鋭い意見、鳥肌が立つ牧さんのメッセージに触れ、自身の圧倒的な実力の足りなさを痛感させられた。
短期集中特訓に身を投じ、学びを深めるための手順の基礎編は持ち帰ることができ、これを梃子として、今度は自身の手で「鯛」を釣れるよう、自らのスキルの磨きを怠らず、自己研鑽を努めていこうと思う。

EBMは、WBSの中心ではないとしても、私の中では最も刺激的で印象的だった。

最後に、「奇跡的に成り立っている授業」に縁ができたこと、そして運に巡り会えたこと、深く感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。

EBMトリートメント後のNarrativesはまた追って報告します。

L2Mでいっぱいいっぱいの最中より。

 


次回の更新は7月11日(火)に行います。