[ STE Relay Column : Narratives 191]
池田真梨 「赤ちゃんと授業に参加した『技術・オペレーションのマネジメント2022秋』」

池田 真梨  / SOMPOホールディングス株式会社

[プロフィール]栃木県出身。2011年SOMPOひまわり生命保険株式会社入社。神奈川営業部神奈川支社、営業企画部ダイレクトマーケティング室を経験したのち、事業企画部にてヘルスケアアプリの企画運用や新規サービスの開発を担当。シリコンバレースタートアップサービスの日本ローカライズ展開を実施。2021年よりSOMPOホールディングスへ出向しスマートシティ・コミュニティ起点でのシニア向け新規事業に従事。シンガポール国立大学で学ぶSOMPO企業内大学「SOMPO Global University」の第4期生(16年度)。経済産業省&JETRO主催イノベーター育成プロジェクト「始動」シリコンバレー派遣第5期生(19年度)。大企業挑戦者支援プログラムの運営や事業会社の協業支援等実施。新規事業をスケールさせるためにビジネスモデルをきちんと学びたいと思い、2022年早稲田ビジネススクール(WBS)夜間主総合コースに入学。 家族構成は夫と娘1人(0歳4ヶ月)。趣味はサウナと珈琲。

はじめに
私は2022年夏に出産しました。娘は生後4ヶ月になります。現在育休中です。予めご了承いただきたいと思いますが、私は育休中にMBA取得をおすすめしている訳ではありません。
育休中に学校に通うことについて色々な考え方があり賛否両論あるかと思います。ただ、事実としてWBS夜間主総合の平均年齢は34歳であり、妊娠出産とキャリアに悩む女性が大変多いと感じています。またクラスメイトでもお子さんが産まれたと非常によく聞きます。私の経験が悩める誰かの参考になり、一歩踏み出す勇気になればとても嬉しいです。

WBS入学を決めるまで
MBA取得を目指してビジネススクールで勉強したいと思うようになったのはシンガポール国立大学に留学した28歳の時で、その後の新規事業の開発に忙殺され実際に行動したのは33歳の時でした。実は一度面接で落ちてしまって、なぜ勉強したいのかきちんと考え直し1年後再度挑戦し、念願叶っての合格でした。喜びも束の間、合格後に妊娠が発覚しました。本来はWでおめでたいことですが、不器用な私には両立は厳しいのではと思ってしまい、追い討ちをかけるように両親からは大反対されました。姉と私を産んですぐ仕事に復帰し定年までバリキャリだった母には理解してもらえると思っていましたが「今後10年は自分のやりたいことなんてできないと思った方がいい」と言われ、確かに妊娠出産は命がけだし子供が最優先なのだから学校なんて無理かと思うようになりました。(恐らく母は自分の経験上大変だったこともあり娘の私に無理をしてほしくないと思ったのかもしれません。)それでも諦めきれなかった私は知人でもありWBS在学中の櫨山さんにまず相談しました。すると実は結構WBS在学中に出産されている方がいること、休学もできるしとりあえずなんとかなりそうだから入学してみたらどうかということをアドバイスしていただきました。運良く入学前に在学中に出産された先輩から話を聞くことができ、そして夫からも協力するからと背中を押してもらったことで両親を説得し、絶対に無理をしないことを条件に無事に入学を決めました。

WBS入学と出産まで
4月は仕事も続けつつ、有給をうまく活用しながらほぼ毎日のように学校に通っていました。どんどんお腹も大きくなっていき、張り止めの薬を服用しながら必修科目であるファイナンスや財務会計、マーケティング等の講義を胎教にしつつ?、なんとか春Qを終え産休に入りました。クラスメイトがベビーシャワーをして早稲田の校歌を歌って送り出してくれたのは良い思い出です。その後実家に里帰りし夏Qは出産を控えオンラインのみの1科目だけ履修し無事に夏Q後半で出産しました。運良く安産で母子ともに健康だったので学校を続けることにしました。それは家族や周囲のサポートがあってこそなので本当に感謝しています。
また、WBSに入学して出会ったまさかの予定日3日違いだった窪田さんの存在も大きく、一緒に悩みを相談しあって無事に出産できて心強かったです。(育児中の今も)窪田さんいつもありがとう!

技術・オペレーションのマネジメント2022の講義を受けて
授業を受ける前に期待していたことは、イノベーションとは何か、イノベーションの生み出し方について自分なりの答えを持つことと、科学技術におけるビジネス上の倫理課題について、自分なりの判断基準や答えを持つことでした。授業を通してイノベーションやイノベーションの生み出し方について、正しい答えや正解がないものであるというのが学びです。ただし、正解に近いと自分が信じるものを見つけるための手段だったり、それを導くためのプロセスは8回の授業で学ぶことができたと思っています。(失敗が前提、シュミレーション、ABテスト、SCM、システム思考等々)経営者や意思決定者として自分が将来意思決定の判断する立場になった時、この8回の講義で学んだプロセスやフレームワークは有効なのではないかと考え、ぜひ活用したいと感じています。
またこの講義では「心理的安全性のあるラーニングコミュニティの構築」が最もポイントだったと感じています。赤ちゃん同伴授業も意外とそこまで不安にならずに授業に参加できたこともこのクラス自体が心理的安全性が高かったためだと思っています。毎日技オペのことを考えて毎週の学びを今週どう活かそうかとワクワクして過ごしていました。家事育児が大変でも土曜日の授業に行くことが1週間頑張ったご褒美?かつ楽しみになりました。授業も本当にあっという間に3時間が終わります。こんなにも授業を「体感」することはなかなかないのではないでしょうか。8回の講義では至る所に伏線が散りばめられ、全体を通して伏線回収がされます。牧先生の講義のデザインは圧巻なのでぜひ受講を考えている方はまずは受講をおすすめします!

声をあげることでできることが増える
秋Qに入り、夫の仕事の関係から土曜日は早稲田の託児所を活用することにしました。技オペでは毎回授業後に飲み会が開催されます。授乳中なのでお酒は飲めませんが本来楽しい場には積極的に行きたいタイプです。妊娠してから飲み会や旅行、イベント等は参加できず、楽しんでいるクラスメイトを羨ましいと思って見ていました。また「今後10年は自分のやりたいことなんてできないと思った方がいい」という母の言葉がひっかかり、今は家族優先の時期なんだと自分に言い聞かせていました。でも短時間でたまにはいいかな、、とTAの辻さんに飲み会に赤ちゃんと参加してもいいか、と勇気を出して相談してみるとすぐに場所を変えて私と娘が参加しやすい場所を手配してくれました。牧先生と話す中で、例えば土曜日は授乳室が閉室していることを言うと、声をあげた方がいいと言われ、ダイバーシティ推進室に相談するとあっさりと悩みが解決しました。マイノリティだからといって声をあげないと何も変わりません。勇気を持って声をあげる事で諦めないで済むことがあることを知りました。そして欧米の大学院では赤ちゃんを連れて授業に参加しているという話になり、授業に赤ちゃんを連れて参加することで今後のビジネススクールの運営の参考になるのでは?と盛り上がり実践してみることになりました。牧先生が赤ちゃんが泣いた時用に部屋を分けて隣の部屋でオンライン参加できるように配慮くださったこととTAの辻さんは娘さんが3人いらっしゃって育児でも大先輩だったので相談がしやすく、辻さんの存在が大きかったことが赤ちゃん同伴授業の実現のポイントだったと思います。

赤ちゃん同伴授業

<事前準備>
・家から教室までのルート確認(駅のエレベーター確認、教室までのエレベーター確認)
課題:3号館でエレベーターに乗るにはセキュリティカードが必要のため、防災室での手続きが必要になる。7号館の授乳室へ行くにはエレベーター乗れる
解決策:施設利用者として声をあげる

・授乳室の確認(授乳室までのエレベーター確認)
課題:土曜日は閉室されていた
解決:事前に問い合わせし、開室するようになった

・荷物の準備
おむつ、おしりふき、粉ミルク、お湯、哺乳瓶、ガーゼ、タオル、吐いた時用の着替え、肌着、スタイ、抱っこ紐、おもちゃ等
課題:荷物が多い
解決策:ロッカーに置いておく。あとは頑張るしかない

<教室で授業に参加>
課題:泣いたらどうしよう、他の受講生に迷惑がかかったらどうしようという心理的不安(これが一番大きいと思う。バスや電車等の公共の施設でも同様)
解決策:心理的安全性のある空間だと心配はだいぶ軽減されると実感した
それでもいいんだよ、という空気感や赤ちゃんも受け入れてくれる雰囲気(←これは本当にありがたかった)
特に赤ちゃんに対して石村さんがピカチュウのぬいぐるみをプレゼントしてくれたり、玉木さんがネームプレートを準備してくれたりとウェルカムな雰囲気を作ってくれたので、心理的安全性が高まった。ただし、みんながみんなそうではないというのを理解し、また授業を受けるという目的を阻害しないよう、迷惑かけてはいけないという意識は常に持つべきではある

課題:赤ちゃんを見ながらになると若干集中力が分散され、集中できないこともある
解決策:割り切る、録画で復習できるようにする(←これは本当にありがたかった)

課題:教室を退出しないといけない場合がある。特に泣くだけではなくうんちしたり吐いてしまったり色々起こる
解決策:録画で復習できるようにする(←これは本当にありがたかった)

課題:授業中赤ちゃんから発する音に敏感になってしまう。(泣き声だけではなく、しゃっくり、ゲップ、おなら、くしゃみ等)
解決策:心理的安全性のある空間だと心配はだいぶ軽減されると実感

課題:赤ちゃんが泣いた時の避難所として隣の部屋でZoom配信してくださっていたが、ギャン泣きだと授業の音が聞こえない
解決策:録画で復習できるようにする。おむつ替え、授乳などで別室にいる際は進捗がわかるのはありがたい。ただし赤ちゃんのお世話中なので集中力はあまりないことがわかった

集中力は一人で参加するよりはかけるので、録画で復習できる環境がありがたかったです。授乳の問題もあるので、長時間の同伴授業は厳しいが、3時間くらいなら意外といけると自信がつきました。ただ子供の月齢によってはかなり対応が変わると思います。娘は(参加当時)生後3ヶ月だったので、授乳問題はありましたがまだ歩き回ったりしないのでベビーカーの活用で乗り切れました。今後ハイハイするようになったり、歩いたりしたら、教室を走り回る可能性もありそれはまた違った課題が出ると思います。
また赤ちゃんの個性によってかなり対応が異なります。抱っこしていないと泣き続ける子、抱っこも縦抱き・横抱きの好み、ずっと寝る子、寝ない子もいるし、それぞれ対応が異なることにも気づきました。色々な子がいるという広い心で受け入れてくれること、そういう認識があると心強いなと思いました。森さんが抱っこを変わってくれたり、発表のサポートをしてくれたりとみんなの気遣いとあたたかい雰囲気がとてもうれしかったです。

ダイバーシティがもたらすもの
赤ちゃんを教室に連れてくることでクラスメイトの薄井さんから、「通常「赤ちゃん」を意識することはありません。しかし、「赤ちゃん」が実際にその場にいることで明らかに意識が変わりますし、大きなことを言えば、この子達が大きくなった時の未来はどうなっているのかな?と未来をより考えるきっかけになるかもしません。」とフィードバックをいただきました。なるほど、たしかに色々な人がいると頭でわかっていてもその場にいることでより意識的になるし、この経験があることで今後意識が変わるきっかけにもなると思いました。
私にとってもチャレンジでしたが、クラスメイトの気づきにもなってよかったです。また別の日に育休中の私が仕事に関わろうとすると、育児に専念してと職場の人から言われることに対し、マーケティングの川上先生がおっしゃっていた「配慮と差別の境界の話」をしました。そのことをシェアしたことで「育休中の休暇制度を設けるだけが本人にとってのサポートではないのだなと思った。その間どのようにキャリア・サポートができるのか、改めて考えてみたいと思った。私の部下にも数名育休中のメンバーがいるが、池田さんのように育休期間中も関わりたい、という人が出てきてなかったので敢えて考えることが無かったのが、良い気付きをいただいた。」とクラスメイトの桑原さんがtakeawayにコメントくださって、私の存在がクラスメイトの気づきになったのは大変嬉しかったです。色々な立場や状況の人がいて、考え方も全く自分と違う。普段は考えることもないことが多様性によって考える機会になるのは素敵なことで、それを体感できる授業だったと思います。

おわりに
自分のやりたいことと子育ては本当にトレードオフの関係なのか、悶々と考えることがあります。育休はもちろん休暇ではありません。でも100%育児に没頭するべきなのか、正解はないのではないでしょうか。特に女性は出産・育児でキャリアがストップしてしまう事実に対してその間に自己研鑽することもまた選択肢としてあるのではないでしょうか。「育休中に勉強(キャリアアップ)することは逆にチャンスだよ」とTAの辻さんからも励まされました。娘にはいつかこの時の話をして、自分の意見と意思をもってやりたいことを見つけ、挑戦する子になってほしいなと思います。
30代女性は結婚・出産・学業・キャリア、、と悩みが多いと思います。大変だけど色々同時にやってみる女性がWBSには何人もいて、WBSはそんな人をサポートする素敵な学校だなと思います。最後に授業をサポートくださったTAの辻さん、瀬戸口さん、牧先生、ラーニングコミュニティのみんな、本当にありがとうございました。


次回の更新は1月6日(金)に行います。