[ STE Relay Column : Narratives 180]
谷口 尚史「2022 L2M, 挑戦の支援 -TAの視点」

谷口 尚史/ 早稲田大学大学院経営管理研究科(平井ゼミ) 2022年修了

[プロフィール]埼玉県出身。青山学院大学経営学部経営学科卒。
外資系コンサルティング会社勤務の後、複数の企業でロボット事業、ドローン事業、家庭向けエネルギー事業、Web通販などの新規事業立ち上げに従事。現在は総合商社発スタートアップ企業にてバーティカルSaaSのBizdevとして従事している。
2022年3月 早稲田大学大学院 経営管理研究科 夜間主総合プログラム修了。平井ゼミ第3期ゼミ長。修士論文のテーマは大企業における新規事業で、複数の事業を事業化前後で分け、動員した資源が果たす役割や副作用について検証を行った。
無人航空機操縦技能の免許を有し、ドローン操縦が可能。

はじめに

 早稲田ビジネススクール(以下、WBS)における牧3部作(と私は呼んでいる)の一つの授業である「Lab to Market: 科学技術の商業化と科学的思考法」(以下、L2M)の2022年夏QのTeaching Assistant (以下、TA)を務め終えることができ、本リレーコラムを執筆することとなりました。
 なお、3部作の構成は春Q EBM(旧STE)、夏Q L2M、秋Q TOMとなっています。
 私は多くの方に勘違いされるのですが牧ゼミ卒業生という訳でもなく、ひょんなことからM2の2021年春Qに旧STEを受講することになり、それから牧先生との交流が始まりました。また、今回TAを担当したL2Mを受講した訳でもありません。なお、受講した旧STEは多くの受講生がリレーコラムで紹介しているとおり、英語の論文を毎週大量に読む必要がありWBSの中でも最も負荷の高い授業だったことが自身の実感としてもありましたが、この授業を受講したことで新しい世界を知る感覚を持ったのを今でも覚えています。
 その後、WBSのM2の授業を受けながら修士論文を書き上げ、卒業が視野に入った1月に、牧先生に”L2Mは興味があるが授業を履修していないので、TAを担当させてほしい”と依頼をしました。実際にはL2Mの内容にも興味がありましたが、旧STEで緻密な授業の設計をしていた牧先生の他の授業がどのように創られているか学んでみたいと考えたのでした。また、WBS卒業後も形を変えて学びを続けられる環境が欲しいと考えていました。

TA確定後から授業開始

 最初の仕事は自分以外のもう1人のTA探しでした。私のTA確定後の10日後に牧先生から”誰かTA推薦できますか?”と連絡があり、自分で探すことになりました。私は授業というのは目的と期間が決まっているので1種のプロジェクトだと考えています。そのプロジェクトの価値を最大化するためにも、L2Mの授業の内容への理解や既に決まっているメンバーである牧先生と自分との相性などを考慮し、牧ゼミ卒業生の葛西さんにお願いすることとしました。
 その後は授業が始まる6月までは大学の事務所と雇用関係の手続きをした程度で事前準備のようなものはありませんでしたが、これまでのWBSでの授業の体験を振り返ることで気持ちだけは準備をしていました。
 6月になり夏Qが始まり、L2Mの授業が始まりました。初回は1コマのみで牧先生が出張先の鶴岡からZoomでの実施でした。2022年のL2Mは、1週目の授業ではイントロダクションのみにし、それを受けて学生が履修確定をするという新しい取り組みをしました。結果として、L2Mの授業を運営するのに適切といえる22名の履修生が確定しました。
 2週目からが本番となり、教室での授業が始まりました。前日に牧先生から”明日って15時くらいに来れたりしませんか”と連絡があり、牧先生の研究室に行くことになりました。(L2Mは5,6限のため16:30開始)
 実は牧先生の研究室に行くのは初めてで、コーラの飲み残しが入ったペットボトルが沢山放置されているなど色々と噂は聞いていたのですが、意外に綺麗で驚いたことを覚えています。そこで授業管理システムのMoodleの使い方のレクチャーを受け、当日の事前打ち合わせをし、授業に臨むこととなりました。

L2Mの特徴

 L2Mの授業の特徴はシラバスによると”「技術経営」と「アントレプレナーシップ」の融合領域である。この授業の特徴は、「サイエンス」と「アントレプレナーシップ」の関係を (1) シーズとしての「サイエンス」の商業化、 (2) 新事業創造の手法における「サイエンス」の活用、の 2 つの観点から掘り下げる点にある。”とあります。このシーズは具体的には早稲田大学、慶應義塾大学の理工系の学部などで研究している技術です。2022年の履修生は6つのシーズを選びグループが決まりました。8週間の授業の中で各グループでシーズの研究者とコンタクトを取り、シーズの商業化に向けた検討をし、最後の授業で最終審査会でその成果を発表します。授業開始後の履修生と牧先生、TAとのやり取りはSlackを使用していました。視認性が高く、質問も公開Channelで行ったため共有の即時性という観点で有効な方法だったと思います。各グループのSlack Channel開設後は、”他の授業の勉強は大丈夫なのか?”と思わされるほど全グループで活発にやり取りをされていました。

TAの仕事

 ご覧いただくとわかりますが、牧先生のシラバスには授業計画、到達目標、各授業で行う内容、成績評価方法などが予め詳細に定められており、牧先生が頻繁に口にする”シラバスは教員からの約束である”という言葉を適切に表現した緻密な設計がされた内容になっています。また、TAである自分自身の名前も記載されており、授業を構成する一員であることを強く意識させられました。私はこの授業における自身の役割は”挑戦を支援する”ことだと定義し、TAの仕事に取り組むこととしました。
 TAの仕事は具体的には授業開始直前のPCやZoomのセットアップ、授業中は履修生の発言のカウント、授業後は上述の授業管理システム Moodleでの毎回の授業のTakeawayの取りまとめ、各種提出物の設定などが主なものです。具体的に書くと大したことはないのですが、曖昧にすると絶対に漏れが発生するので、スケジュールを先回りして確認し、案内をしていくことで授業や各グループの進捗が遅滞なく進められるよう支援をしていきました。
 また、色々と実験をしたがる牧先生ですので、それを見据えて授業開始前の土曜日の12時以降は何を言われても対応できるように予定を開ける牧モードにしていました。
 その他、毎週のように教室が暑かったため、中央管制室に電話をして、室温を下げてもらいました。
 
 
(固定電話を使い、室温を下げる依頼をする牧先生)
 
 

授業、TAの仕事を終えて

毎週熱気のある授業が続く中、7月23日の最終審査会を迎えました。もう1人のTAの葛西さんが業務の都合で参加できないため、代わりに葛西さんと同じ牧ゼミ卒業生の辻さんにTAとして来ていただきました。
最終審査員として5名の方に参加いただき、6グループに対し3時間以上かけて強い熱量で審査をしていただきました。そのため、その日の空調はいつもより温度を下げるよう依頼をしました。
最終審査員の方はいずれも牧先生と利害関係がある方ではありませんし、その他に途中の授業で見学された方も複数名いらっしゃいます。審査員、研究室の先生/研究者、TAを担当した卒業生といった多くの方を巻き込み、交流し、そして支援を得られる授業がこのL2Mであり、それを実現する牧先生の魅力を横で感じさせられた8週間でした。
※このような牧先生に集まる人のことを牧マニアと呼んだりしています。
授業が終わった5日後に牧先生はもう一つの本拠地のサンディエゴに向けて旅立っていきました。残された自身としては、大学院卒業もTAの仕事をすることで”挑戦を支援する”経験を通じ学びを続けられることができましたが、L2Mの各グループの最終審査を見ることで、改めて自身も”挑戦する”場を持ちたいと考えたのでした。


最終審査会後の記念撮影


次回の更新は9月2日(金)に行います。