[ STE Relay Column : Narratives 177]
大塚 聡太 「補助輪付きの自転車でプラトーを走る」

大塚 聡太 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]2022年春、夜間主総合プログラムに入学。1993年生まれ。埼玉県出身。
早稲田大学教育学部を卒業後、池袋の複合商業施設「サンシャインシティ」を所有運営する株式会社サンシャインシティに入社。
入社後は経営企画部で中期経営計画策定・設備投資予算の管理業務に携わり、現在は施設運営部門に異動してショッピングセンターの運営管理を担当中。

 お読みいただきましてありがとうございます。夜間主総合M1の大塚聡太と申します。
2022年春クオーターの「エビデンス・ベースド・マネジメント」を履修した縁で、こちらにリレーコラムを書かせていただきます。
入学後最初のクオーターでこの授業を履修し、牧さん(敬意を込めて、敢えて「さん」付けで呼ばせていただきます)や受講生の皆さんからたくさんの刺激を受けることができましたので、授業内での体験を中心に、個人的な感性のもとで共有させていただきます。
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・2009→2022
 “あまりにも毎日が早く、無為に過ぎていくので、日々の出来事や教訓を残しておくため、試しに今日から日記を始めてみる。
休日の深夜に始めたものがいつまで続くのか、そんなことは知ったことではないが、ブログよりは秘匿されていて、誰にも見られないから少しは書きやすいかもしれない。“

 2009年の11月末、高校1年の私が手に取った日記帳はそんな言葉で始まっていました。
その日記を、一回り歳を重ねた28歳の自分が更新を続けていることなど、飽き性の彼にはおそらく信じてもらえないでしょう。
 当時の私は、その後にどんな進路を選ぶのか、知る由もありません。
 受験勉強が奏功せず浪人することや、就職後に改めて大学院に通い始めた今の自分の姿は想像もつかなかったはずです。
時は2022年の今春まで進み、そんな私が前後不覚の心持ちで必修科目に紛れて登録した授業が「エビデンス・ベースド・マネジメント(EBM)」でした。「WBSの中で最も高い水準の授業」と銘打たれ、どんな授業なのだろうと不安を持つと同時に、今春から始まる新しい授業であり、授業自体にプロトタイプの要素が含まれているということに「実験的で面白そうだ」と期待を持ったことを覚えています。

・「実験」と「妥当性」に没頭
 授業は種々のアカデミックな研究論文を取り上げて、履修生が順番に発表を行うセミナー形式で進行していきます。テーマは心理学分野から経済学分野、イノベーションの誘発要因や人のパフォーマンスを高める報酬設計といった具体的テーマから、学び方や働き方や思考法そのものについて、といったメタ的なテーマまで様々でしたが、“論文の「妥当性」をどう評価するか?”という問いは通底していました。
 論文が妥当であるということは、仮説と実験デザインとその結果が論理的に整合していること、あるいは異なるフィールドや別の集団でも実験の結果に再現性があること、あるいはバイアスの少ないランダム化実験が実施されていること。そんな金科玉条を後ろ盾にして、論文の査読者になったつもりで実験の良し悪しを議論する時間は楽しいものでした。
 次第に要領を掴み、今まで科学的思考法の定義すら分からなかった私も、日々の業務の中でやれこの主張の妥当性がどうだ、説明変数がどうだと授業で得た思考の型を使って頭を働かせるようになりました。そんな風に「妥当性」を頼りにして論文が描く実験の世界に足を踏み入れた快感が、私にこの授業を履修して良かったなと思わせしめたのですが、そんな愉快な時間は、ほどなく終わりを迎えることになります。

・補助輪付きの自転車
 春Qも中盤を過ぎた頃、授業の冒頭に牧さんから、「皆さん、『学んだつもり』になっていませんか?」と問いかけを受ける場面がありました。比較的読みやすい論文を扱い、そのうえ授業では、統計的な手法よりも論文の概要についての議論を主にしている中で、要領よく学んだ気になっているのではないかという問いに、私は何の反論も持ち合わせていませんでした。
 比喩的な表現で恐縮ですが、この時の私は補助輪付きの自転車に乗っていたのだと気付かされました。何もしなくても転ばず、漕げばその分進んでいく気持ちのよい乗り物に乗って、普段と違う景色を楽しんでいたのだと。「WBSの中で最も高い水準の授業」を進んで履修しておきながら、総和として十分とは言えない勉強量で心地よく議論に混ざろうとする、フリーライダー然とした自分の分不相応な振る舞いが浮き彫りになった瞬間でした。
 その後は何か貢献に足る振る舞いができないか、少しでも実験デザインや統計の内容に深く切り込めないかと苦慮したものの、多少の反省で見違えるような変化があるわけでもなく、何とも歯がゆい心持ちのまま、気づけば春Qが終わってしまいました。
こう書いてしまうと少しネガティブな印象が残ったように感じられるかもしれませんが、それでも私は最終的に、やっぱりこの授業に参加できてよかったと思うのです。
 後半の授業では、補助輪付き自転車の例えに戻れば、少しでも学習効果を高めるべく、上り坂に挑むきっかけを得ることができました。やはり転びはしないけれども、漕ぐには相当に力を込めなければならないし、漕いだ分すら進まないような状況を味わえたことは、今後の学びに好影響を与えてくれるだろうと確信しています。
 また、対馬で資源管理の手法を取り入れ、科学的思考法に基づいた漁業に取り組む銭本氏、UCサンディエゴのEric Floyd助教授によるリサーチデザインの講義など、ほかでは聴くことのできない講義に触れ、より学習への意識づけが高まりました。こうした場に立ち会えたこと、とてもありがたく感じています。

・コミュニティ
 少し話は戻りますが、先述した科目登録の数日後、早稲田アリーナでの入学式を済ませ、入学者の方々と迎えた飲み会の席でのこと。卓を囲んだ5人のうち、私を含めた3人がこのEBMを履修していたことがわかりました。授業の規模感も分からなかった当時の私は、EBMは大規模な授業なのだなと思っていたのですが、いざ初回の授業に来てみると履修者は20名ほど。M1メンバーも両手に収まるほどしかいなかったことに驚かされました。
 そんな規模感で密度の高いコミュニケーションを取るEBMを経て、学び続けるための仲間と出会えたのですが、これは授業の学びの内容に負けず劣らず、とても大きなことだと感じています。
入学式後に卓を囲んだ縁もあってのお二人、常に盛り立ててくれるモチベーターの本間さん、悩みがちな私に根気よく付き合ってくれ、指針をくれる平井さん。ほかにも思考体力と自律性のすさまじい伊藤(靖)さん、授業で誰より素晴らしいプレゼンを披露してくれた舩場さん。
 ゼミでもない中、EBM終了後もこうした皆さんと定期的に集まって勉強会ができていて、月並みな表現ながらこれは本当に掛け替えのないことだと感じています。
上記にとどまらず、EBMを履修された皆さんから得られたものはここに書ききれないのですが、それはまたの機会とさせてください。

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 とりとめもなく書いてしまいましたが、全体を通して、EBMは学ぶ楽しさ、学びきれぬ不甲斐なさ、学ぶ仲間が見つかる喜びが得られるという、私にとってたいへん密度の高い授業でした。
当時日記を始めた自分が想像もしなかった状況に今の私がいるように、EBMを経て、このコラムを書いた今の私の想像を超える自分になっていければと思います。

 この授業をWBS生活の最初に受講できたことはとても幸運だと感じています。最後になりますが、素晴らしい機会を提供していただいた牧さん、本当にありがとうございました。


次回の更新は7月22日(金)に行います。