[ STE Relay Column : Narratives 171]
神谷 宗「私が牧ゼミで得たもの・手放したもの ~ 2年間の振り返り~」

神谷 宗 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]愛知県高浜市出身。中央大学大学院理工学研究科博士課程前期課程土木工学専攻修了後、JR東日本へ入社。実家の瓦製造業を承継する前に経営学を学ぶため、2020年4月に早稲田大学大学院経営管理研究科 全日制グローバルプログラムに入学。2022年3月修了。当初の予定から変更となり、事業承継せずに転職活動中(2022年3月現在)。

荒波に揉まれて未だ混乱中
 この度、2022年3月WBSを卒業することになりました神谷です。この2年間は、私が今までいたような環境とは全く異なる世界であり、新鮮かつ目まぐるしく様々なことを体験してきた2年間でした。そのため、実は未だにフワフワした感覚で、お恥ずかしながら一体何を学び、何を得た2年間であったのか整理がついていない状態です。コラム執筆のこの機会に自分の中でのある程度の整理と振り返りをさせて頂きたいと思います。

なぜ牧ゼミを志望したか?
 今更ですが、まず、そもそもなぜ牧ゼミを志望したのか?私と牧さんの出会いは、実は2020年度入学試験(冬募集)の面接時でした。牧さんが進行役となり、他の教授陣から応募書類に基づいて、主に「WBSに入って何をしたいのか?」「WBS卒業後にはどんな人物になって、どんな仕事をしたいのか?」など将来について様々な質問をされました。しかし、牧さんからは、「筆記試験の感触はどうでしたか?」「あなたの筆記試験の点数を上げるには、どのような経験が足りなかったのでしょうか?」など、過去の(今まで積み上げてきた)私を理解しようとする質問をして下さりました。将来のキャリアプランについては非常に重要である一方で、今までの努力・実績や弱点についても確認し、その時から牧さんは他の方より「人」を見てくれている印象でした。
 晴れて試験に合格し、入学してから間もなくしてゼミ選考がありました。私はとても印象に残っていた牧さんへ面談を申し込み、面接時には「冬に面接した人ですよね。覚えてます。確か瓦関係の・・・・」という具合に、人をとても見てくれているのがより伝わりました。さらに、様々なことにチャレンジし・どんな小さな成長でもいいから日々それらを実感したいしたいという思いから、牧ゼミの「今日は昨日までできなかったことだけをやってみたい人へ」というフレーズに惹かれて牧ゼミを志望しました。

牧ゼミで得たもの・手放したもの
 「今日は昨日までできなかったことだけをやってみたい人へ」は、嘘偽りなく、常に新しいAppの使用や個々人持ち合わせているスキルを活用したワークショップの開催など様々な経験をしました。また、それらチャレンジを通して、ゼミ内での留学生との関係構築にも繋がったため、以下にそれら経験から得たもの・そして手放したものをまとめました。

《得たもの》

新しいApp・サービス・ハードの知識、常に最新のものを使用したいと思う貪欲さ
 以下の表に、ざっとこの2年間で私が初めて使用したApp・サービス、ハードを列挙させて頂きました。(まだまだあると思うので、抜けはあると思います。)
JR東日本で働いていた時代と比べて、本当に考えられないくらい多くのソフトの使用を体験してきたと思います。JR東日本では、当たり前のようにメールや電話で連絡を取り合い、表のようなコミュニケーションツールなどは使用したことがありませんでした。最初はSlack?Miro?など本当に、何がなんだかわからない状態でしたが、使用するにつれて、対面で会わなくても、こんなにスムーズに意思疎通が図れたり、プロジェクトが進むということを実感しました。
 某大手インターネット広告代理店の友人に、Miro使ってる?と聞いたところ、存在すら知らなかったので、世に広まっていない最新のものを駆使して、使用スキルを貯めているのだと実感しました。対面の必要性はあるものの、次の就職先では、社内でこのようなツールを広めて、生産性向上を図っていきたいと考えています。

 

表 私が牧ゼミの2年間で新たに使用したApp・サービス、ハード

分類 名称
App、サービス Miro, Slack, メッセンジャー, Linkedin, Teachly, Python, Discord, Google Docs, Google Sheets, Google Slides, Google Jamboard, Notion, Fusion360, OBS Studio, Deep L, Otter.ai, R, Udemy, Afinia Studio
ハード 自動追尾カメラ, 集音マイク, ドローン, 3Dプリンタ, 3Dスキャナ

 

掛け替えのない留学生の友人達
 私は、牧さんの提案で2020年度秋学期に粘土を使用したワークショップの実施を致しました。以下の写真は、その時の写真です。私はそのワークショップの開催をきっかけに掛け替えのない友人達(ゼミ内)が出来たと考えています。少し遠回りになりますが、その経緯を記載させて下さい。


写真 クレイワークショップの個人作業風景

 内容は、粘土を使用して「100年後に自分を象徴する残っているものを表現する」というものです。(ちなみに目的は、「自己開示し、お互いを知ること」「自己の深層心理と向き合い、自分でも気づいていない自分を見つけること」になります。)LEGOシリアスプレイの粘土版をやってみようって感じです。このワークショップの開催は、かなり大変で、実家の瓦工場から粘土手配、粘土が乾かないようにするための送付日程調整、ワークショップ開催部屋の調整(コロナの関係で部屋の最大使用人数が決められている)、テーマの選定、オンラインとオフラインの両者に同じ学びや快適度がある設計、説明資料づくり、英語での説明練習など、90分のワークショップを開催するのに、本当に何十時間もかけて準備をしました。
 開催の結果、ゼミメンバーからは好評で、楽しみつつ学んで貰えたようでした。そして、Alexからは個別に「想像できない程の時間や労力を費やしてくれて、ありがとう。」(神谷訳。勝手に引用してごめんなさい。)というメッセージを頂き、そこから留学生との距離が一気に縮んだ気がしました。以来、その言葉のお陰で大変なことでも引き受けたりチャレンジしてみようと思い、2021年度春学期のTOM(英語)のTAを引受け、同じTAを務めたAlexとLanguage Exchangeをやろうということになり、下ちゃん・Alex・Owenと共に卒業するまで週に1回、英語・日本語双方で語学の勉強を行うようになりました。(卒業した今でも、たまに集まってランチなどしています。)
 また、上記のLanguage Exchangeの成果もあり、徐々に他の留学生ともコミュニケーションが取れるようになりました。2021年度秋学期には牧ゼミ(英語)のLab to MarketでMerckとNancyと一緒になり、グループワークも楽しくディスカッションすることが出来るようになりました。そして、MerckとはプライベートでMerckの家に遊びに行かせてもらったり、転職活動に繋がる出会いをセッティングしてくれたりと、本当に親友と呼べる友達になりました。
 ワークショップ以前は、私は英語が苦手なことから、中々留学生と上手くコミュケーションが取れないと悩んでいましたが、留学生とのコミュケーションは英語能力のスキルアップだけでなく、態度で貢献する行動が本当に重要かつ評価されるのだと、その時改めて思い知らされました。牧さんもよく「自分が貢献できるところを見つけて、そこで頑張ってもらえればいい」と言ってますが、まさにそのお言葉通りのお陰だと思っています。
 私は、留学経験がないばかりか、英語を使用しない環境に生きてきました。海外旅行も数回程度しか行ったことがなかったですし、海外の友達なんて入学する前には想像だにしていませんでした。しかし、今や様々な国出身の方々と友達になれて、いろんな文化・考え方に触れることができ、人生の視野が一気に広がりました。
もし、毎年同じ内容を実施するゼミやワークショップなどを実施しないゼミに入っていたら、このような繋がりは出来なかったかもしれません。このような意味で、ワークショップの提案・サポートをして下さった牧さんのお陰で人生が変わったように思います。
(ここには書ききれませんでしたが、卒業生のCharles, そしてImmyをはじめ牧ゼミ現留学生の方々、全日・夜間の日本語プログラムの牧ゼミメンバーも本当に親友と思っていますし、それぞれいろんなエピソードがあります。また機会があればコラムに執筆させて頂きます。)

自分の現在位置を知ることが出来た
 牧ゼミに入って、ビジネスマンのトップの人々を見てきて社会人や人として自分のレベルがどの程度であるかを知ることができました。牧ゼミには、名だたる有名大学出身の人、博士号を持っている人など本当にレベルの高い学生が多く、ディスカッションも非常にレベルが高いです。
 私は、前職ではそれなりの評価を頂いてきていましたが、それはとにかく人より多く働いて、がむしゃらに頑張ってきたからだと思っています。周りが同じレベルなら、どれだけ多く働いたかで抜きに出ることが出来ますが、周りのレベルが高い場合には、多く働いても周りのレベルに追いつくことは出来ません。まさに、私は2年間この状態にぶち当たりました。WBSへ入学する前には、自分はそこそこ速い車程度に思っていましたが、実は私は軽自動車レベルで、牧ゼミの皆はF1カーだったという感覚です。
 牧さんも2021年度春学期STEの授業内で、「オフィスアワーを利用している人よりも、オフィスアワーを利用していない人の方が、それだけ短い時間で理解・吸収している。優秀の定義を短い時間で多くを理解・吸収する人とすれば、オフィスアワーに参加している人は、少し勉強方法を考え直すと良いかもしれない」(私が覚えている範囲&理解)と仰っており、まさに自分の現状に突き刺さる言葉でした。周りが優秀でも、とにかくがむしゃらに頑張れば何とか付いて行けると思い、頑張っていましたが、それでは本質的な差は埋まらないとそこで気が付きました。それからは、軽自動車で長く走ることではなく、自分がF1になるためにはどうしたら良いか?という視点で自己の成長を考えるようにしています。
 いずれにしても、WBSや牧ゼミに入っていなければ、井の中の蛙状態であり、自分の弱点に気が付かなかったのかもしれません。そういった意味で、自分の現在位置を知ることができ、頂上である目指すべき人たちを目の当たりに出来たことは私にとって人生の再出発地点として、非常に有意義な場所になったと感じています。

《手放したもの》
 私は、「安定に固執する考え」を手放しました。牧ゼミでイノベーションやアントレプレナーシップを学んだことに加えて、WBSや牧ゼミメンバーを見ていて、皆さん本当に自分がやりたい仕事を追求しているなと思いました。一方の私は、安直な考えで、JR東日本は安定していて、社会的意義の大きな仕事だから程度の考えでいました。しかし、牧ゼミにお越し頂いたゲストスピーカーのお話や牧ゼミメンバーの生い立ちや仕事に関する考えを聞いていると、各々の信念に基づいて安定・不安定に限らず仕事を選んでいると感じ、私も自分がやりたいと思った仕事につきたいと思うようになりました。(レベルが低く、気付くのが非常に遅いですが)
 特に《得たもの》の③で述べたことにも繋がりますが、皆は努力に加えて、リスクをとって様々な挑戦をしていることで成長がとても早いように感じました。ハイリスク・ハイリターン状態です。そのため、他の牧ゼミメンバーにも追いつけるように、なるべく裁量権のある仕事を探して、どんどん挑戦していこうと思います。

最後に
 上記まとまりのない文章になってしまいましたが、とにかくWBS&牧ゼミに入って心底良かったと思っています。一生の友人達、自分に足りない物の認識等、JR東日本や事業承継先では得られないものを得ました。
 牧さん、牧ゼミOBの皆さん、同時に牧ゼミを卒業した皆さん、現牧ゼミメンバーの皆さん、2年間本当にお世話になりました。
 今後も、M2になる方々の修士論文の赤入れなどで貢献して行きたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。

以上


次回の更新は5月6日(金)に行います。