[ STE Relay Column : Narratives 125]
藤井 優尚 「有意差に惑わされないことの大切さ」

藤井 優尚 / 早稲田大学 経営管理研究科 / 水戸協同病院

[プロフィール]1979年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻修士課程修了、滋賀医科大学医学部医学科卒業。修士(情報工学)、学士(医学)。2014年4月に水戸協同病院に入職。総合診療科で2年間、その後内分泌代謝・糖尿病内科に所属している。専門分野は糖尿病や高血圧症などの生活習慣病および内分泌疾患。2019年4月に早稲田大学大学院研究管理研究科(夜間主総合)に入学。2020年4月から牧ゼミに所属。

 いつもSTE Relay Columnをご覧いただき、ありがとうございます。牧ゼミ3期生(夜間主総合コース)でつなぐゼミシリーズ。夏から冬にかけてのゼミ活動を、統計学における有意差を中心にお届けしたいと思います。
 私は内科医とし勤務しており、専門は生活習慣病やホルモン異常です。普段から業務で統計に触れる機会が多々あり、例えば多くの医療系論文で統計学が用いられており、その理解なくして読み進めることはできません。また、自分で分析することもあります。

 牧ゼミ3期生は6名中5名が理系で、ゼミ長でメーカー研究職のキミちゃん(吉田公亮)、製薬メーカー研究職のイッシー(石川寛和)とツッキー(大槻一文)、プログラマーのイケ(棚池祐樹)、銀行員のヨッシー(吉内裕行)、内科医の私です。元々統計を扱っていた人から初体験の人まで、かなりの幅がありました。春学期には、牧ゼミメンバー全員が「イノベーション研究のための定量分析」という吉岡(小林)徹先生(一橋大学 経営管理研究科 講師 兼 イノベーション研究センター 講師)の講義を受講し、Stataを用いた統計学の分析手法を学習し終えています。牧ゼミでもケース教材を用いて統計を扱いますし、牧さんの講義でも扱います。そのため、毎年夏前に、牧ゼミ生は何となく統計解析できる状態になっています。
 さて、夏が近づくと、WBS最大の難関ともいえる修士論文が少しずつ頭にちらつき始めます。牧ゼミでは、距離を確保しつつ、府中市でコロナ禍の夏合宿を行いました。各自のリサーチクエスチョンや仮説を導出し、早い人はデータの入手から簡単な解析まで進めました。ここで何度も登場するのが、“有意水準”です。統計を扱うと避けては通れないアイツで、一般的には5%有意水準や1%有意水準がよく用いられます。簡単に説明すると、「5%有意水準なら、ある事象が100回に5回以下しか起こらないから、非常に珍しいことが起こったことになる。よって、偶然起こったことではないことにしよう!」いうものです(計算過程は省きます)。これを“有意差あり”として、統計解析のありがたい結果につながるわけです。個人的な感覚では、5%ってそんなに珍しいかな〜という印象をもっていました。
 例えば、血液型と性格には何の関係もありませんが、A型とO型の人を大量に集めて性格を分析したら、「A型の人はO型の人に比べて○%神経質である」という仮説に統計学的有意差が出てしまう可能性があります。この結果をもって、“A型の人は神経質である”というレッテルを貼ることに違和感を覚えるのです。統計学的に有意差があるからといって、すべての人に当てはまるわけではないのです。当然、神経質でないA型の人もいます。そもそも人間の性格を血液型の4種類だけに分類できるはずもありません。血液型の例とは逆に、実際に意味があったとしても、統計学的有意水準を満たせないがために証明されなかった事象もあるはずです。
 1月9日に牧ゼミ全員で提出完了した修士論文には、この有意水準が含まれています。統計学的に有意差が出たことで、一定の結論を得られたはずです。各自が考えた仮説が証明されたとしても、それは一部の人や集団にしか当てはまらない。常に、当てはまらない人や集団に目を向けて欲しいと思います。医療分野では、新薬の効果判定に有意差を使いますが、当然100人中100人に効果のある薬剤は存在しません。有意水準をクリアしてきた新薬が、目の前の患者に効かないということは十分にありえます。私の場合、その患者に別の提案を用意しておくことが重要であり、有意水準の恩恵にあやかれなかった人の存在を意識することにつながっています。
 牧さんは、「統計に騙されない」ということをよくおっしゃっています。その中には上述した内容が含まれているはずです。統計学的有意差によって切り捨てられた何かに想いを馳せられる人間でありたいですし、牧ゼミの同期にもそうであって欲しいと思います。1月30日にWBS最後の大舞台、公開審査会が待ち受けています。修士論文の中では都合よく解釈した統計結果に対峙するつもりで臨みたいと考えています。

以上


次回の更新は2月12日(金)に行います。