[ STE Relay Column : Narratives 084]
林 超 「遠隔授業の意義:MicroMBAの受講について」

林 超 / 早稲田大学大学院経営管理研究科 / Accurate Technologies Inc.

[プロフィール] 中国出身。2009年に上海交通大学から卒業して来日、大阪大学大学院で制御工学を研究。2012年に横河電機株式会社に入社し、石油石化プラントの制御システム改善の業務に携わった。後にアメリカにあるAccurate Technologies Inc.に転職し、自動車の制御システムを開発するための計測機器、データ処理ソフトウェアなどの製品の日本市場への展開に取り組んだ。2019年2月に日本支社代表に就任し、オペレーション、マーケティング、セールス全般をカバー。2019年4月に早稲田ビジネススクールMBA夜間主総合プログラムに進学し、現在は平野ゼミに所属。

【MicroMBAについて】
昨今、コロナウイルスの影響で学校の休講が続く中、オンラインのみで受講できるMicroMBAを受けてみた。当授業は早稲田大学科学技術とアントレプレナーシップ研究部会とUC San Diego Rady School of Managementが共同主催で、主に理系のバックグラウンドを持つ大学院生、学部生、ポスドク、若手サイエンティスト・エンジニアを対象している。6つの1時間半のセッションは全て英語、かつオンラインで行った。

冬の集中講義で高須正和先生の「深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション」とPhil Wickham先生の「Venture Capital」といった国際色に溢れる授業を受け、もっと海外のMBA感覚で授業を受けたい気持ちになった時、ちょうどMicroMBAの案内が来て迷わず受講を決めた。

イノベーション、マーケティング、ファイナンス、製品・サービス、戦略、ビジネス実験など、MBAで二年でも学びきれないかもしれない広範な内容を、合計9時間しかない短期間でデリバリーすることは、大変難しいと思っていた。知識ではなく、MBA・ビジネス感覚を理系バックグラウンドの学生に感じさせることにフォーカスした授業として、理系出身の自分も良いブラッシュアップができた。

【空間と時間を超えて】
オンライン授業の最大のメリットは、空間の制限を突破したところだ。伝統的な授業であれば、学生達と教師が通学し、一箇所に集まって授業を行う。このような形では、通学距離の物理的な制限によって、教師も学生も同じ地域に限定されてしまう。

しかし、オンライン授業は違う。今回のMicroMBAの教師陣は早稲田大学とUSCDの先生の交代制で、学生も日本とアメリカなど各地から集まっている。年齢、国籍、バックグラウンドの異なる学生同士と同じ授業を受けて、議論する体験は他所ではなかなかできないものだ。

夜間のMBAを受講すると、いつも出張の日程に困っている。授業の時間帯を避けなければならないし、急な出張が入ってくると授業を休まなくてはならない。オンライン授業ならこのような悩みもなくなるのだ。実際、今回のMicroMBAでは、いつも授業開始5分前まで家事とか仕事をしていたし、家族旅行が入った週末でも旅先で授業を受けることができた。夜間の授業もこのようにオンラインで受けることが可能なら、出張のストレスも解消されるだろう。

こう見ると、オンライン授業は時間の制限も突破しているのではないか。出張中でも、旅行中でも、家事、育児の途中からでも、インタネットさえあればすぐに授業を受けることができる。通学というプロセスを省くだけで、こんなにも沢山の可能性を生み出すのだ。

【技術の進展によるインターアクティビティの向上】
大きなメリットを持つ一方、オンライン授業の従来からの難点はインターアクティビティにある。以前にも色々オンラインの授業を受けたことがあるが、教師のレクチャーを一方的に聞いて理解するものばかりだった。教師と学生、学生同士の間の双方向交流はインタネットの品質や、アプリの機能上の制限によって現実的ではなかった。

しかし、ICTのインフラと技術の進歩により、物理的な授業に負けないコミュニケーション環境は整いつつある。今回のMicroMBAはオンラインでZoomを、オフラインでSlackを使っていた。技術の進歩を最初の牧先生のInnovationの授業から感じた。学生と教師と一人ひとりの顔が映され、教室で対面しているような感覚を生み出したり、挙手ボタンで質問を回答したりといったリアルな授業に近づけるような機能もあれば、投票機能で全体的な意見を瞬時に把握したり、チャット機能で先生の話を中断せずに質問・コメントしたりするようなリアルの授業の効率を超えた機能もある。中では一番驚いたのは、グループディスカッションの機能。教師のワンボタンでランダムに学生を小さいグループに分け、そのグループだけのミーティングルームが作られ、グループディスカッションが行われる。リアルの授業だとグループディスカッションは座席の移動の難しさによりいつも隣同士で行ったり、他のグループからの声が聞こえたりするが、Zoomのグループディスカッション機能だと瞬時にグループ分けができたり、毎回違うメンバーでディスカッションできたり、決まった時間にメインのミーティングルームに戻ることができたりして、とっても効率が高かった。
今後は、オンライン授業がリアル授業を追いかけるのではなく、リアル授業を追い越す時代になっていくのも非現実ではないだろう。

【終わりに】
今回のMicroMBAを受講して、オンライン授業の素晴らしさを体感できた。
オンライン授業は海外の有名な先生の授業を受けるといった、質の高い教育にアクセス手段としての意義だけでなく、日本が直面する教育の問題の解決策でもある。文部科学省の「人口減少時代の新しい地域づくりに向けた学習・活動に関する現状」によると、過疎地域は人口減の加速により、都市部との教育格差が拡大しつつある。オンライン授業はこの格差をなくすために最も有力な手段である。

コロナウイルスの影響で、在宅勤務、オンラインミーティング、オンライン授業が広がり始めたが、これは一時的な対策ではなく、未来につながるトレンドだと思っている。


次回の更新は3月27日(金)に行います。