[ STE Relay Column 019]
中嶋 栄仁 「日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出を目指して」

中嶋 栄仁 / 東芝キャリア株式会社 

[プロフィール]1981年生まれ、三重県出身。2004年に大学卒業後、株式会社東芝に入社。入社後はノートPCの商品企画を担当。プロダクトマネージャーとしてB2BモデルからB2Cモデル、プレミアムモデルからメインストリームモデルまで幅広い商品群を経験。途中からは商品をライフスタイルで管理するようになり商品の企画だけでなく、販売、収束コントロールまで経験。また社内の新規事業コンテストを通過し、新規事業推進の経験もあり。その後、東芝の会計問題に端を発しPC事業の構造改革に巻き込まれる。
その影響で所属部門がなくなり2016年4月に東芝キヤリア株式会社に転籍。同時にWBSへも入学。転籍後は海外向け空調機器の商品企画に従事。2018年3月に早稲田大学大学院経営管理研究科を修了
*写真は「クローズアップ現代+」でCEOへの提案シーンとして取り上げられた時のもの

『日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出』
これが私の目指しているゴールである。

今回のコラムでは私が「なぜこのゴールを目指すようになったのか」、「目指すゴールに向けて何に取り組んでいるのか」、そして「WBSでの経験が活動にどう活かされているのか」を述べていきたい。

1. 原体験:「なぜこのゴールを目指すようになったのか」
 私は小学校~中学校の頃にアインシュタインのようになりたいと考えていた。それは世界に大きなインパクトを与える仕事をしたいと考えていたからである。今考えると自分の能力もわからず何てバカなことを言っていたのだろうと思うが、当時は本気でそう考えていた。
 その後、高校で理系クラスに進学し、大学では物理学を専攻した。しかし、大学で物理学の勉強を進めていく中で、今やっていることが本当に社会の役に立つのだろうかと疑問を感じ始めた。特に興味を持っていた宇宙物理学では大学院に進学しても世間一般の人に大きなインパクトを与えることは出来ないのではないかと考えるようになった。それよりも早く社会に出て企業の中で世の中にない新しい商品を出していく方が世の中に大きなインパクトを与えることが出来るのではないかと考えるようになったのである。そして就職先として選んだのが東芝であった。なぜ東芝を選んだのかと言うと、学校推薦があったということもあるが、強い技術力をベースにしたモノづくり企業であったからだ。理系の道で育ってきた身としてはイノベーションの原点は技術であると考えており、強い技術力をベースにしたモノづくり企業こそ世の中にインパクトを生み出せると信じていた。更にパソコンの商品企画という花形のポジションが空いていたというのも大きな選択理由であった。
 東芝に入社後は世の中を変えるような商品を出したいという気持ちで10年以上、がむしゃらに働き続けた。その間にはB2B向けタブレットPCや東芝初のゲーミングPC、子供向けキッズPCなどの尖がった商品からボリュームゾーンのメインストリームモデルまで幅広い商品をプロダクトマネージャーとして世の中に送り出すことが出来た。しかし、自分の中で何かモヤモヤ感があった。それは真の意味で世の中にインパクトを与える商品をまだ送り出せていないという点である。そんな中、2015年に東芝の不正会計問題が勃発した。悪の枢軸は私が所属していたPC事業だった。PC事業はすぐに規模縮小が決定され構造改革が断行された。その動きの中で自身の担当していたB2C事業部は廃止、多くの人が去っていった。私自身もこの流れの中で空調事業を担当する東芝キヤリアに転籍することになった。
 かつては世界No.1を誇っていたノートPC事業がなぜこのような状態に陥ってしまったのかを考えると自身のモヤモヤ感とも重なった。真の意味で世の中にインパクトを与えるような商品を送り出せていなかったという点だ。それにより価格競争に陥り、競合に売り負け、結果として不正会計に手を染めてしまったという仮説である。更に、なぜ真の意味で世の中にインパクトを与えるような商品を出せなかったのかを考えるとPCの根幹であるCPUやOSを米国のインテルやマイクロソフトに牛耳られていたためである。東芝という強い技術力を持つ企業に入社したつもりが、PC事業ではコアとなる部分を米国企業に奪われてしまっており、技術力を商品の価値に転嫁できなかったのである。これは明らかにビジネスモデルでインテルやマイクロソフトに負けた結果であり、技術力だけで戦えないことを実感した経験となった。

 私はこういった過去の悔しい経験からもう一度日本から世界で戦えるビジネスを作りたいと考えるようになり、『日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出』を目指すようになったのである。

2.現在の取り組み:「目指すゴールに向けて何に取り組んでいるのか」
 『日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出』というゴールに向かって私が今取り組んでいる内容は「社内に眠る技術シーズの事業化を加速し、法人化して出口まで導く仕組み」作りである。
 私は社内に組成された若手中心の変革チームで新規事業創出の仕組みとしてトップに提案を実施している。大企業にはスタートアップが羨むような技術シーズが多数眠っている。しかし、社内の技術シーズの多くは既存の事業から見ると魅力的な売上規模のビジネスになると思われず事業化されないことが多い。また既存事業から見ると競合になりそうなアイデアに対しても投資されにくい傾向がある。一方でシリコンバレーなどのスタートアップを見ると、どのアイデアが成功するのか、失敗するのかわからないのが普通だ。だからこそシード期のビジネスアイデアには浅く広く投資が行われ、多くの人が挑戦できる環境が提供されている。更に一度起業に失敗した人でも再び挑戦することができる環境も存在している。こうして多くの挑戦が行われた結果として、一握りがユニコーンとして大成功を収めているのである。同じような環境を大企業内にも作りたいというのが現在の取り組みである。打席数を増やすことで何とか世界にイノベーションを与えるビジネスを一つでも起こせればと考えているのである。
 また副次的に新しいことに挑戦できる社員が増えていけばよいとも考えている。大企業には優秀な社員が多く存在するが、ほとんどの社員は組織の歯車として日常業務をこなすだけの場合が多い。折角、貴重な人材資源を持っているのに有効に活用、そして育成できていないケースが多いのである。新しいことに挑戦できる人材が増えていけば日本の製造業も元気を取り戻し、再び世界で戦うことが出来ると信じている。そのために、この取り組みを何としても実現したいと考えている。現状はまだ提案段階であるが何とか仕組みとして社内に導入できるようにしていきたい。

3.WBSが与えてくれたもの:「WBSでの経験が活動にどう活かされているのか」
 この社内での活動に当たってはWBSでの学びやネットワークが大いに活かされている。新規事業への取り組みという点では牧さんの「技術・オペレーションのマネジメント」の講義で学んだことは大変参考になっている。具体的にはIDEOのイノベーションを生み出す仕組みに関する知識である。IDEOの迅速にプロトタイプを作成してフィードバックを得て修正していくという点が新規事業のアクセラレーションプログラムには最適と考え、取り入れていくことを考えている。またゲストスピーカーで来ていただいたグローバル・カタリスト・パートナーズの大澤弘治さんが「成功とは失敗をManageする事の積み重ねである」と言われていたことが心に残っており、失敗も許容できるような仕組み作りが必要と言う点で取り入れていこうとしている。
 また牧さんの「科学技術とアントレプレナーシップ(Science, Technology and Entrepreneurship (STE))」で得たものも大きかった。この講義はWBS卒業後に聴講生として参加させて頂いたが、英語の論文を毎回ひたすら読み込む必要があって、かなりの高負荷であった。自分は卒業生なので他に授業がないからまだいいが、他にもいろいろ授業を取っている現役生にとってはかなりつらい講義だったのではないか思う。でも、その苦労を乗り越えるからこそ得られるものを大きい。牧さんが選んだ良質の論文だけを取り上げており、かなり効率的にこの分野の専門知識を得ることが出来るのである。私の活動に対しても、ここで学んだ最新研究は参考になっている。大企業の研究所というのは大学の研究所と似たところがあり、大企業の研究所にある技術シーズを新規事業として育てるという点ではスターサイエンティストに関する論文は参考になるし、社内にイントレプレナーをどう増やしていくかという点に対してはPeer Effectに関する論文などが参考になる。この講義の方向性と自分のやりたいことはかなり被っている部分があり、最新の研究内容を理解できたことは新規事業創出の仕組みを考える上で非常に参考になった。
 一方で新規事業創出の仕組み提案を作成するに当たってはWBSのネットワークも活用させて頂いた。顧客視点という点でWBSの川上先生に相談させて頂いたり、WBS同期ネットワークではCVCやVCのファンド機能について知るためNTTドコモベンチャーズの舞野さんやグローバル・ブレインの蓑谷さんにお話を聞かせて頂いたりした。WBSに来ていなければ絶対に知り合えない異業種の方々である。恩師の内田先生もネットワークの重要性は常に説かれており、タテ・ヨコ・ナナメの関係を維持することの重要性を教えて頂いた。WBSに来たからこそ構築できた貴重なネットワークは生涯に渡って維持していきたいと考えている。

4. 最後に
上述の通り、私は『日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出』するためにまずは社内で新規事業を創出できる仕組み作りを提案している。まだ最終的に提案した内容がそのまま実現できるかどうかはわからないが、目指すゴールを実現するために出来る限りのことはやっていきたいと考えている。私がこういった提案を自ら動いて実施するようになったのは東芝の不正会計問題での挫折を味わったことが原点になっている。この時に感じた悔しさがあるからこそリスクを取ってでも新しいことにチャレンジし続けることが必要と感じている。そのため、東芝を良くしたという気持ちで東芝本体の社長や会長に直談判も実行した。ボトムの気持ちを変えようと社内でMBA講座を実施したりもした。ただ、このチャレンジは自分一人では難しく、WBSで知り合った同じ東芝で働いていた先輩の三上さん(現在は東芝を退社)や後輩の畝村さんなど同じ気持ちで会社を変えていきたいと考える人と出会えたからこそ続けられたのだと考えている。またWBSの「リーダーシップ論」のゲストスピーカーで来ていただいた産業革新機構代表取締役会長CEOである志賀さんが、チャンスがあったら真っ先に自分から手を挙げろと言われていたことも心に残っており、実際に実践してきた。その結果が変革プロジェクトの参加へも繋がっている。このように今の自分の活動を振り返るとやはりWBSでの経験は自分自身にとって大きなターニングポイントとなったと感じている。これからもWBSで学んだことや培ったネットワークを最大限に活用し、『日本の科学技術で世界にイノベーションを起こすビジネス創出』を実現するために活動を続けていきたいと思う。

 


次回の更新は11月30日(金)に行います。次回は株式会社細野鉄工所の細野 隆太郎さんの「海外での学びとMicroMBA」です。