[ STE Relay Column : Narratives 201]
中尾 寿孝「私はWBSを卒業した今、WBSに入学した。」

中尾 寿孝 / 早稲田大学 大学院経営管理研究科

[プロフィール]兵庫県神戸市出身。大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻(修士課程)修了後、2006年に東京ガス株式会社に入社。同年に株式会社エネルギーアドバンスに出向し、産業用のお客様(主に食品工場や自動車工場)向けに省エネ設備のエネルギーサービス提案やプラントエンジニアリングを担務。以降、法人営業を専門として、現在は事業部の営業戦略や総務全般を担う。両親は神戸市で2018年まで40年間 居酒屋経営。妻、娘、息子の4人家族。趣味はジョギング、水泳、息子とのサッカー練習。

 

はじめに

2023年3月にWBSを修了した牧ゼミ5期生の中尾と申します。先日、卒業式を終え、更に有り難いことにゼミ現役メンバーに卒業パーティーを開催して頂いて、ようやく卒業の実感が沸いてきました。やはり仕事をしながら大学院に通うWBSの2年間は今までの人生の中でも濃密で、特にM2の牧ゼミ活動、コミュニティは大変刺激的でした。印象に残ったことを挙げれば切りが無いですが、特に心に残っている「4月の仙台合宿」と、ゼミ活動の集大成である「修論のプロセス」を通じて、学生生活を振り返りさせて頂きたいと思います。長文を失礼致します。

WBS入学から牧ゼミに入るまで 

まず私がWBSに入学した動機を話したいと思います。今の会社で15年間の社会人経験を経て、エネルギー分野の法人営業を一通り経験した中、キャリアの行き詰まり感を感じていました。WBSに行けば、(面接の決まり文句である)体系的に経営学を学べ、他業種の知識や人脈が広がり、ビジョンや使命感が養われ、新たなキャリアが見えてくるのでは?、そして仕事と大学の「パラレルキャリア」を実践することで自分の新たな一面を発見出来るのでは?との漠然とした期待感がありました。当時の私を思い返すと、とにかく「出来る事を増やしたい」という一心だった様な気がします。
想定した通りM1の講義を通して、経営の学び、またグループワークを通じて人脈の広がり、更には経営者の考えやビジネスモデルに触れ、ビジネスマンとしてのスキル、視座の高まりを感じました。一番印象に残っている講義は、牧さんの「Lab to Market」。大学の研究とビジネスを繋ぐプロセスや、失敗と学習を繰り返しながら成功にアプローチする科学的思考法を学び、営業活動で効率性を重視する目標思考が頭にこびりついてた私にとって非常に発見の多い授業でした。牧さんの講義への熱量も含めて、この講義が決め手となり、私は牧ゼミを志願しました。

仙台合宿

牧ゼミに入ってすぐ、5期生のチームビルティングやアントレプレナーを学ぶために、22年4月に仙台合宿を企画しました。3月に発生した福島県沖地震の影響で、東北新幹線が動かない状況の中、牧さんと5期生であらゆる移動手段を考え、合宿の行き先も変えることを検討した末、最後は羽田から仙台空港までの空路を決断しました。「何としても仙台に行く」、苦難の末の5期生との初めての共同作業が、結束を高めました。
実際の仙台合宿ではゲストの出会いを通じて、アントレプレナーシップを学ぶことが出来ました。東日本大震災への強い思いを胸に株式会社街作りまんぼうに転職された苅谷さん、原体験を持ちながら起業された一般社団法人MAKOTOの竹井さん。それぞれに強いwillを持って、行動を起こし、コミュニティを形成し、ビジネスとして具体化されていました。
私にとって、合宿で最も印象深いことは「お悔やみ記事」でした。自分が死んだ時にどのような記事になるか?仙台合宿のタイミングで私は仕事での異動も重なり、合宿の準備にも追われ、とにかくお悔やみ記事の体裁を整えようと仕事の延長線上の事を記載しました。そこにはワクワク感はなく、牧さんから「全く楽しそうに話さないですね」と言われ、大変ショックだったのを覚えています。仙台合宿で出会ったゲストに対して、強い思いの無い自分、そしてWBSに入学したのに、実は「ワクワクする事、やりたい事が無かった」ことに気づかされた瞬間でした。

修論のプロセス

仙台合宿から帰って2週間は悶々としていましたが、偶然に「Well-Being」という言葉を見つけた時、心の中にストンと落ちる感覚に気づきました。あれっ、何か自分が表現したいことではないか。なぜ、ストンと落ちたのか?それは私の両親が40年間居酒屋を経営していた原体験にあります。朝5時に起き、深夜の2時に寝る生活をして、週1回の休日では泥のように眠る両親を見てきました。常にお客さんに真摯に向き合い、一方、失礼なお客さんには「もう来なくて良い」と怒る、そして酔い潰れたお客さんを両親は救急車で介抱していた。子供ながらに、「なぜこんなに働くのだろうか?」と思っていました。特に母親は一切お酒も飲めず、生魚を食べられない体質なので、普通に考えると居酒屋向きでは無かった。改めて「一体、両親が表現したいこととは何だったのだろう?」と考え抜き、きっと居酒屋という仕事を通じて、「お客さんと従業員、我々家族との中にWell-Beingな状態を作っていく」ことと気づいた。実際、2018年に居酒屋を閉める時にカウンターを埋め尽くすほどの花束をお客さんから頂いた、更に泣きながら居酒屋を惜しむお客さんがいらっしゃった。両親とキャリア(手段)は違いますが、私が仕事とWBSで実践している「パラレルキャリア」と「Well-Being」の因果関係を明らかに出来ると面白いと、修士論文のテーマが定まった瞬間でした。(被説明変数は幸福度、説明変数はパラレルキャリアの内容、収入、本業への効果、自律性、人的ネットワークの数、ワークライフバランス、健康状態・・・)
実際の修論作業は休日の大半をコメダ珈琲に入り浸る日々。被説明変数の名称が幸福度「happy_dummy」だったので、Stataで何百回、何千回!?もhappyというコマンドを打った。無感情にhappyと打つ。3時間頑張ったら、シロノワールを食べる瞬間が唯一の幸せだっただろう。。。というのは半分冗談として、自らのWillを定めた上で、仮説を立てStataを回すプロセス、つまり失敗と学習を繰り返して成功に導く作業は、「科学的思考法」そのもの。その作業を苦しみながら経験、修論としてまとめ上げたことは大きな自信となりました。時には厳しいコメントを頂いた牧さん、定量分析やStataを細かく教えて頂いた吉岡先生や徳橋さんを始め、多くの牧ゼミ関係者の方々から適切なアドバイスを頂いたことを、この場を借りて感謝を申し上げたい。

最後に

あと「居場所があること」がWell-Beingに繋がっていく、(仮説検証出来ているわけではないが、、、)私の実感である。現時点での自分の居場所はまさに牧ゼミであり、今の仕事の法人営業本部の250人の方々、家族等である。それぞれが閉じたコミュニティではなく、修論で挙げた説明変数を意識しながら、「Well-Beingの輪(和)を広げていくこと」が私のWillである。Willが未だ具体的、実践的ではないことは理解している、ただWillが定まれば、今後はMust(覚悟を持って、ミッションとして)、Can(学びながら)表現していくことだろう。今の自分は未だ心のブレーキがあることも理解している、マインドセットをしないといけない。WBSに「出来ることを増やしたい」と思って入学した自分が、卒業してようやくスタートラインに立つことが出来た。2年間は時間の経過ではなく、Willを確かめる作業だった。それくらい自分のWillに気づく、定義することは難しい作業であり、大切なことであると感じた。
まずは大学が落ち着いたので、一度、神戸の実家に戻り、大学生活を全面的に応援してくれた両親と姉に感謝を伝えにいきたい。これからは、自分のWillを表現していく番である。
ようやく自分はWBSに入学した。


次回の更新は5月12日(金)に行います。