[ STE Relay Column : Narratives 173]
葛西 信太郎 「Your future is whatever you make it.- Doc from BTTF3」

葛西 信太郎  / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール]1987年京都府京都市生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修士課程を修了。2011年に三井物産株式会社/情報産業本部入社。国内テレビ通販事業や放送事業の事業管理、及び新規事業探索に5年間従事した後、国内BS放送局(BS12)に約3年間出向し、2018年より三井物産労働組合専従(現職)。2020年4月に早稲田大学大学院研究管理研究科(夜間主総合)に入学。1995~1999年の4年間は中国/寧波で育ち(現地小学校卒業)、2013年には社内研修でCA州/LAのシニアリビングでのインターンを3か月経験。趣味は和食料理と海外旅行(15か国)。家族は妻と息子とネコの4人家族。

1. はじめに
 はじめまして。2022年3月に牧ゼミ4期生としてWBSを修了しました、葛西信太郎と申します。折角頂いた機会ですので、牧ゼミでの1年間はもちろん、WBSでの2年間を振り返り、学びの総括をしてみたいと思います(長文警報!)。

 

2. WBSでの学び
 私がビジネススクールに行こうと思ったきっかけは、自身が思い描いていた「ビジネスパーソンとしての理想像」と「現実の自分」の間の大きなギャップを埋める為でした。私の理想像は、チームが目標を達成する為の頼れる仲間、言わば「ドラえもん」、「Back to the futureのドク」、「銀河英雄伝説のヤン提督」の様な存在でした。しかし、現実の自分は、約10年間社会人経験を積んできたにもかかわらず、業界軸・機能軸・専門性の全てにおいて偏っており、常に人に助けられてばかりだと感じていました。
 また、社会人になる前に物理を学んだ経験から、「再現性」を重視している自分に気付きました。偶然の成功は刹那的な喜びしかもたらさず、もっと確かな、確実に成功確率を上げていく方法、すなわち理論に基づいた実践を学びたいと思うようになりました。
 加えて、英語が得意ではない自分にとっては、欧米のビジネススクールに留学するのはかなりハードルの高いことでした。よしんば行けたとしても、「ディスカッションで付いていけなさそうだな」、「仕事は休まないといけないな」、「家族はどうしようかな」など、中々思いきれずにいました。そんな中、日本語を用いて国内で仕事を続けながら学ぶことができるWBSは正に最高の選択肢でした。
 実際に学んでみると、事前の予想通り、ビジネスで必要とされる知識をかなり網羅的に学ぶことが出来ました。特にWBSのカリキュラムは、M1の前半に基礎科目(人材組織・財務会計・ファイナンス・マーケティング・経済学・データ分析等)が集約されており、後半は統合型科目(経営戦略、グローバル経営、総合経営など)が多く、必然的にグループワークなども後半がより多くなります。基礎から応用へ、単科から統合へ、出会いから仲間へ、どんどん立体的になる学びを大いに楽しむことが出来ました。同じニュースを見ても、以前より多角的に物事が見られるようになる自分に気付き、学びの成果を実感しました。
 一方、学問あるあるですが、学べば学ぶほど各領域の深みを知り、その道の人たちの実務能力の高さが分かり、自分が如何に未熟かをより思い知ることになりました。そしてまさにこの時期、ゼミ選考が始まります。ある程度ビジネスに求められる知識を網羅的に学んだところで、各領域で高い専門性を持った先生に師事し、その領域を1年間じっくり深めていく時が来たわけです。足りないものを補うべきか、長所を伸ばすべきなのか、今一度自分を振り返る必要に迫られました。

 

3. 牧ゼミでの学び
 結論として、私は牧ゼミを希望し、その希望は叶ったのですが、最大の理由はやはりゼミ名でもあった「科学技術とアントレプレナーシップ」だったのだと思います(どことなく漂う米国西海岸の風の影響もありますが)。前述の通り、自分の中では「科学的」「再現性」といったキーワードはかなり重要でした。成功者の後日談は常に物語としてエキサイティングですが、必ずしも再現性を伴わないことにモヤモヤを感じていました。また、自分は先人の言うことに良くも悪くも流されがちなので、自分の頭でEvidence Baseで考える能力をもっと高めたいと思っていることに気付きました。また、究極的には「チームを前に進めたい」というのが自分の大切にしている価値観なので、「アントレプレナーシップ」というのは非常に心惹かれるキーワードでした。そして実際、1年間の牧ゼミ生活を経て「科学的思考法」と「アントレプレナーシップ」は期待通り学ことが出来ましたが、「多様性の尊重」と「ネットワークの重要性」も学ぶことができたのは、自分にとって予想外の大きな副産物でした。
 「アントレプレナーシップ」の定義は人それぞれだと思いますが、自分は「前に進むこと」だと思っています。それも無意識に散歩のように歩くことではなく、力強く何かを掻き分けて前に進むイメージです。我々の学年は、一言で言うと「コロナ世代」で、授業もゼミも課外活動も、とにかく常にコロナと隣り合わせでした。授業やゼミが突然オンラインになることもあれば、予定していたスタディーツアーの延期を検討しないといけないことも何度かありました。そんな状況下、牧さんはオンライン授業の品質を高める不断の努力を続けられ(もはや変態の域に入っていたとも思いますが、自分も影響されて結構設備投資しました)、むしろオンラインの長所を武器にするところまで昇華されました。そういった姿勢に触発され、スタディーツアーのアレンジをゼミ生で相談するときも、簡単に中止にするのではなく、時期や旅先を調整したり、十分なコロナ対策をしっかり考えたり、制約を機会に変えられないか一生懸命考えました。ゼミ生活が1年間と限られていたことも理由の一つだと思いますが、実は人生の時間も限られているので、貴重な機会をしっかり捉まえ、その時置かれた状況を最大限活かして前進することの重要性を身をもって学びました。
 「科学的思考法」に関しては、社会科学の定量研究と向き合う過程で相当鍛えられました。前半は主に読み手として、沢山の定量論文を読み、その妥当性を吟味するところから始めました(その過程で久々に統計も学び直し、頭がこんがらがったりしながら)。そして後半は、修士論文の執筆者として、データ分析と仮説検証に挑みました。私の場合はこれが本当に大変で、年末時点(提出数日前)までデータ分析が終わっておらず、牧さんに多大なご迷惑をおかけしましたが、本当に多くの方に助けられ、何とか終えることが出来ました。一連のプロセスを通じて、大切なのは「実務に必要なEvidenceレベルを常に意識する」ことだと学びました。Evidenceレベルの高さとコストは比例するので、全ての場面で闇雲に妥当性や蓋然性を主張するのではなく、適切に取るべきリスクをとる(但し不必要にリスクは取らない)というのが、アカデミック・トレーニングを受けた実務家のあるべき姿だと思えるようになりました。
 そして、牧ゼミコミュニティーで学べた大きな副産物に「多様性の尊重」があります。元々好きな価値観でしたが、実践することのメリットをこの上なく体験できたことが大きく自分を変えたと思います。4期生はゼミ生7名のバックグラウンドがそもそも多様性に富む上に、全日グローバルの留学生との交流機会や、ゼミに来て下さるゲスト等、本当に色んな方と接する機会が持てました。そういった方から刺激を頂けることはもちろん、ゼミ内で色んなことを議論していると、本当に自分では想像もつかないアイデアが出てくる場面を何度も経験しました。勿論意見が合わなかったり、多様性の包摂が負担に感じられる場面はありましたが、それを乗り越えた先に必ず素晴らしい結論があると心から信じることができる様になりました。
 最後は、「ネットワークの重要性(それを広げる為のGiveの重要性)」です。全てを自分で身に着けようとするのではなく、既に何らかの優れた能力を有する人の力を借りることが何より重要であり、その為にはまず自分がその人に貢献し、「貸し」を作ることが非常に重要だと学びました。一方で、相手のニーズと自分のCapabilityが合致するケースは決して多くないので、「Give出来るときは積極的にGiveする」という牧さんの発想は目からうろこでした。どんな人と接するときも、互恵的であることに拘り、自分の持ち物で相手に貢献できることはないかを考える習慣が付きました。

 

4. これから
 2年間の学びを振り返って思うことは、まず「如何に自分が知らないことや出来ないことが多いか」ということです。でも、そんな状況でも前に進んでいくこと(アントレプレナーシップ)は重要だし、少しでも実りあるものにする為には科学的思考法も欠かせない。しかし、それにもまして重要なのは、周囲の人を大切にし、互恵的な関係を沢山築きつつ、多様性を味方にし、個人のゲームから脱出し、より大きく羽ばたくことだと思います。ゼミの初めに振返った自分の履歴書とお悔やみ記事、そして5年後のCNNでの妄想インタビューの内容を胸に、明日からもしっかり前に進んでいきたいと思います。
 最後になりましたが、牧さんはもちろん、1年間の学びを支えて下さったすべての皆様、本当にありがとうございました。ゼミでの1年がきっかけでしかなかったと後日語らえるように、引き続き精進していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


次回の更新は5月27日(金)に行います。